押忍!合体機獣カプセルギンガ ~敵襲!ハッピースライムヤードを救え!~
山下敬雄
第1話 押忍!
誇れる趣味は特になく親友と呼べる友は小学4年生まではいた気がする。
お父さんが若い頃に入っていたと聞きなんとなく入った陸上部の部活動は朝が弱く断念。
フツウの帰宅部として毎日自転車でカゼを切り────慣れないシューズで走るより心地良い風を浴びる……学校の生徒一員として始まったばかりの青春をこなしていた。
そんな特に何もない平日日常の帰り道に、ふらり立ち寄る地元のゲーム屋。
勝手にお邪魔したレトロな雰囲気に心かるく躍らせながら、中古ゲームソフトを漁る。
ここにはみんなのほしいものがなんでもそろっている。
カードゲームにフィギュアプラモデル、ゲームに花火に駄菓子に────あぁ、懐かしいのは落ち着く。俺も将来こんな風に良いニオイのする自分の────
ん?
光った──これはなんだ?
可愛らしい女性フィギュアの踊る台座となっているその黒石に……目が留まる。
「────おやァずいぶん熱心にじっと見てるね、それ良いよねmottoあいしてあいどるデシターの」
「あのーこれ、なんすか」
客の様子に気付いていたのか頃合いをみてウシロからいきなり話しかけてきたメガネのお兄さん店主。
店主の語り始めた語りを客は間延びした嫌味のないトーンで遮る。
「はははその娘はねぇ今在庫があっ」
「あいあいの見島瞳33歳じゃなくって、その下の!」
立つアイドル見島瞳から下にスライド──指差すそこにある黒い正方形。
メガネのハナかけを少し触った店主は彼の横にゆっくりと並び立ち。
「ん? それは台座……あぁそれか。それは見た目的にはなんかのボードゲームらしいんだが石で出来てるっぽくてね、なんか不思議だろ駒もみつからないし将棋盤よりは小さいし」
「これって星みたいにパっと光るんすか? パッとミドリに」
「光る?」
「いや、なんかそんな気が……その黒いですし? 視線で光るそういうギミック?」
「……ひかるギミック──そんな風に言われたのは初めてだな?」
「そすか……いやなんか照明の具合かな? ははいやー、すんま」
「……そうだっ、良ければ持ってってくれていいよ!」
「え? これを? 俺が……いんすか?」
「うんうん! それこの店の爺ちゃんの代からあるんだけどさなんか捨てると縁起が悪いってずーっと倉庫に置いててかわいそうだからたまにこうしてね? でね、そいつにも活躍と出会いの舞台と思ってねアイドルのステップするステージにでもすれば本望かなと、はははは石盤もまさかアイドルより光る星に見えたならダイ本望だよ! 台だけに?」
「え、えっと……はは」
「2000円ね」
「ええ!? 大本望なのにとるの!? デカいプラモかウルトラ花火セット買えるじゃ」
「だってそんな季節ハズレの花火セットやいつでも買える模型よりイマ光る星だぞ学生クンははははは、よしぃっこいつはイマしか売らない!」
右の人差しで一瞬持ち上げたメガネをくいっと光らせ、店主はそそくさと透明ショーケースの鍵を開けアイドルをステージからどかしていく。
イマ光る星……光ってるよな────────
パッと仄かにミドリに。
▼
▽
「なんかノセられた気が……たしかにただより2000円の方が欲しくなる摩訶不思議……」
結果的に俺は町のゲーム屋おめがねから出た。ガゴっと、優しい微笑みで押し付けられた買い物を済ませて。
店前に横止めしたしろい自転車は発つ。
「てかッ重いなコイツ……! そういやここまでお兄さんが載せてくれたんだったわ……そこまで重労働してコイツが漬物石にもならない要らない子なのかおい!」
「ぐおおおおスーパー帰宅部のトレーニングにはッ丁度いい! みせろ
重いペダルを漕いでいく。細道を曲がり抜けて思わぬ重い寄り道をした分、この変なドキドキの重みから一刻も早く解放されるべく全力を込めて帰りを急いでいった。
▼▼▼
▽▽▽
自転車に乗っけてなんとか運び──その後も3階までまだ新鮮なその重みを背負い。働いて出来た白シャツにひっつく汗程々に入っていく──
▼充瞳ひとり暮らしのアパート自宅▼
自室にたどり着きそれを部屋のカーペットの中心へとよっこらせと御大層に据えた、息や色々とを整えた数分後にさっそく。
「それにしてもこの黒い盤面はなんなんだ将棋か? 囲碁? って大人メガネは将棋じゃないって言ってたな」
「よぉーしさっそく…………あんときみたいに光らないのか?」
「おい?」
「もしもーし?」
バンバンとかるく盤を叩く。
が、おめがねのショーケースにあった時のようには光らず……。
「はぁ……チカラ技は無理かぁ? なら」
胡座を組み座る、右拳を左のパーに打ち付けて火の付いた充瞳の表情は──その手を翳す。
「オマエが架空アイドルの舞台でも漬物石でもないとこ見せてみろ! さぁオカルトに光って独りの夜をロマンチックに彩ってさぁ! 夜は一緒にいい夢見ようぜえええ」
「ひらけごま! ひらけよゴマァ! ひかれ! ひかれごま! 石盤、光って? エメラルドグリーンストーム! よろしく! おはようございます! トースト焼けたよ~! 押忍! プッシュスタート!」
長々と唱えるデタラメ羅列の呪文に────────石盤はミドリに呼応した。
「おおおお光ったァァァ! って光りすぎィィィ!」
その発光に黒髪乱れ……やがてまばゆい光明けた黒い瞳は──紅く。
▼
充瞳:
ギンガ1
出力■■■■
電量■■■■
クル■■■■
ホノウ 瞳
▼
「なんだこれ? ビジョン? 俺、出力、電量、クル? ギンガ1……」
「なんだこのくっ付いて見えるビジョン!? ……さっぱりだぞ」
上空燦々とパーフェクトスカイ、謎の広大な草原の中で、
狭い部屋からいきなり変わってしまった景色セカイに尻餅する男は、顎に手をやりその青いビジョンの情報とにらめっこを開始した。
▼
▽
「おおおおハッピースライムヤードの王城へようこそ!」
「はい、えっと、お邪魔します……!」
何があったのか。
とりあえずここはあのべらぼぅに光った石盤がみせる幻想のゲームか何かが既に始まっていて……どういうトリックか自分はその中にいるのだろうと。
ある事に気付き攻略を進めた結果、このセカイの住人に見つかってしまい……煌びやかな王城のナカへと招かれ充瞳はこうなったのである。
目の前にいるのは一段高い王席から赤い絨毯へと、跪く青年の前に既に近寄ってきていた造形気品美しい青いスライムな……女王。
「どしたぁ膝痛む? なんでこっち見ないのかなかな? はっぴー足りてないねぇ」
「ハッピー……そすか? ははははは」
尊い方の予想外の行動言動反応、距離感の近さに青年はパンパンとズボンを叩きながらおどけ立ち上がった。
「珍しいかっこいいねぇその赤いお服どこから来たの、東のハッピー? 西のハッピー?」
「おそらく東のハッピーの日本!」
「東のハッピーのニホン? すすすすすらっとすっごーい! ──シラナイケド」
「ははははははは、そっすね!」
こうして始まった俺のハッピーライフ。
このセカイはまだ全くの全然知らないけど……なんかスライム女王とスライム住人のノリは良いっぽい。
すんなりと苦笑いから純粋なものへと──環境に適応した充瞳はとにかくハッピーにハッピースライムヤードの攻略を進めていく。
▼▼▼
▽▽▽
チワワスナイパー:
充瞳が手持ちのギンガという謎のコインを使いビリビリポンっと召喚した灰色のチワワロボット。
記念すべき充瞳の所有ユニット1号機。
全高11mの小型機。
武装
スナイパーライフル
電磁ナイフ
スモークグレネード
出力□□■■■■
電量□□■■■■
クル□□■■■■
俺が何故なぞのスライム住人にすぐ見つかりいきなり王城らしき場に歓迎されたかというと、
このでけぇロボット、チワワロボット。
「てかよくこんなロボットで武装して城の横まで連れて来てもらえたなニコニコな対応に対してこっちの内心は素手でバトル覚悟のヒヤヒヤだったけどさ……俺が悪人だったらどうしてたんだろう? ハッピーすぎやしないかこの国はははは」
何故終始よく喋る笑顔で歓迎されたのか分からないがきっと見た目が灰色の二足歩行するチワワスナイパーだからだろう、うん。
再び緑の広大な野へと繰り出した充瞳。
ここで、ひとつクリアな深呼吸を────
「てかもうダレも興味ないの俺ェ!?」
橋もない城から数歩出て気付けば────誰も見てないダレも充瞳という男について来ていないのである。
「まじかよ、俺これから食い物とか泊まる場所とかどうすりゃいいの? たとえ無茶苦茶な夢幻ゲームでもさぁさっきまで女王とハッピーイェイだったのにぃ? ははははは」
おかしなテンションで突き出したハッピーイェイなピースポーズの指の間の彼方──赤く燃えている。
現れたメカプテラノドンが雷撃を放ち野や森を焼いている。
「ってなんだァ!? ナニがァ? はっ? ソラから敵ィィ? が来てんだよ!?」
「ちょと待てちょと待ていくらなんでもタイミングと深呼吸さえまともにできやしないテンポが可笑しすぎる────なるほどそういうそういうことか! これは俺のデスティニー! まさに出番だ!」
今まさに運命のイベントが起こっている────そうしなければならない、そうしたい! 城横に突っ立つチワワの元へと走り急ぐ充瞳。
「ってこれこの高さどう乗るんだ? てかどやって降りた俺!?」
「マイイヤ! そんなのより乗せろ、乗せてチワワおい起きろー! 手のひらにぬおっ!? ────」
突如、充瞳の身体は紅い光となりチワワスナイパーの灰色胸コックピットの中へと吸い込まれていった。
いつの間にやらどしりと舞い降りたグリッド空間に。
立つ周囲にやがて鮮明に見える青い天トリが舞い、緑と赤の景色。
バッチリとその瞳に視認──こちらへと向かって来ている大トリへと、
「はははははそうノルかそうきたなら! こっから始まるチワワでソコナシのデスティニーなんだろおおおお」
動じず慣れたようにパパッと構えた灰色スナイパーライフルの銃口は青いレーザーを発射。
赤い瞳の見つめる先を見事に捉えた。
ラッキーにも頭に直撃しその嘴から雷撃放つ鳥頭を消し飛ばした。一撃、撃墜──クビのないトリが野へと堕ちていく。
「こんなこともある試運転の祝砲はすべきだったろう! ひゅーー、当たってくれたァァァ充瞳は天才かよ!」
運命に任せてロボットへと乗り込み、初の撃墜。
そうこうはしゃいでいる間にもチワワは耳を立ててその翼はためくデカすぎる音を捉えて主へと知らせた。
「ったくオマエで良かったよ! ソコナシにイクゼ!!!」
燃えたぎりワラう紅い瞳は、そのスナイパーライフルの重みまでを加減して伝えるマリオネットシステムの操作を駆使して自信に満ちた引き金を引いた。
▼▼▼
▽▽▽
きっと守るべきは王城……その横から舞台を移し、走る灰色のチワワは──ゴロゴロと身を丸め転がるデタラメな戦法を取る巨大針鼠についに左腕をもってかれてしまった。
「馬鹿野郎がァァァ臆病チワワで弾切れナイフ一本の白兵戦じゃ無理だろ! なんかないかなんかないか」
「そうだこれだ、スモークグレネード」
耳を右手でごしごしと耳ナカに隠し持っていた緑の筒を足元に投げつけた。
ヤツが転がりこちらを仕留めに戻って来たタイミングで、広がる灰煙がもくもくと視界を悪化させ状況を変える──
そしてすぐさま電量全開で左手へとジャンプし────見えていた鬱蒼の森の中へと臆病なチワワは逃げていった。
▼▼▼
▽▽▽
どうやら追っては来ていない……チワワ耳に響く地の鳴る音は遠ざかり、
残り電量は0に近い充瞳は満身創痍で怪我箇所から白煙吹き上がるチワワスナイパーを放棄し、再び赤い光となり降りた。
「────はぁ、んだよこれェ……!」
ここはどこかわからないが、とりあえず針鼠から逃げおおせた。
どっと溜まった緊張感を吐き出すように手を着きながら湖のほとりで荒げた息を整えていると────、
「あらぁ? なになになにそれかっちょいいグレーぐれー!」
「おおおおでねでね、この色なに?」
何事だと思い息を乱しながらも顔を上げていき、突然のどこかで聞いたようなハッピーな声にすこしイラつきながらもやがて立ち上がった。
「えぇ……はぁはぁ……あぁこれ? これはー、なんだっけエンジ色だエンジ色!!!」
「エンジ? エンジねおっけー渋ハッピー!」
「し、しぶハッピー……ってそれどころじゃねぇ! 針鼠が狙いに来てっからボロチワワロボから離れてにげる──」
「お」
スライム王女:
ギンガ1
出力■
電量■
クル■■■■■■■■■■
クル■■■■■■■■■■
クル■
ホノウ ハッピースライム
未だ戦闘モードが解かれず力んだその紅い瞳は、巻き髪が可愛らしい青いスライムを見つめて。
「おっ? クル!? ってこいつギンガもってるーーーー!」
「ちょ、こっちクル! じゃなくて来てくれ! こっち。手をぎゅっと! そのギンガくれェェ!」
「ギンガぁ? んーでも変な色の手をぎゅっとこれはちょっとぉ……ハピハピするかも!」
「俺もハピハピしてきたァァァなんでもいいからくれェェギンガァァァ」
「あげたいけどあげたいけどギンガふんばってぎゅぎゅぎゅーーっと!」
「お、おおおお」
初対面でぎゅっとした手と手の間の違和感。
スライム王女の未だぎゅっとするひんやりな手を制して、その違和感のある手に乗る物体を確認。
手の中、煌めけるホシがそこにあったのならば。
「うおおおナイスギンガありがとうギンガァァァ」
「あはははギンガハッピース!」
唐突に目の前に貰ったギンガハッピースの青いVサインは可愛かったがそれどころではない。
さっそく──それをチワワを召喚した時と同じようにぶん投げた。
だが充瞳のテンションは異様に高く、せっかく手に入れた希少なギンガを綺麗な湖に向かい何故か投げ入れてしまい思わず口をおおきく間抜けに開く……。
ぽちゃりと静寂に響くハッピーではない気の抜けた音に────
やがて凪いでいた湖はビリビリととてつも無い雷電を天へと巻き起こし、荒れ変わっていく。
「来たァァァチワワより1000倍のハピハピだァァァ!!!」
「すすすすすらっとすっごーーい!!! ハッピーに湖さんが怒ったあああああはははは」
湖からゆっくりと這い出てくる巨大で豪華なカプセルに、人間とスライムは湖のほとりで狂喜乱舞した。
▼▼▼
▽▽▽
どかん。
王城の大砲から発射されたスライム住人は紫針鼠へと取り付き、槍剣でアタックを仕掛けるが、蚊が刺すようなスライムの攻撃は巨獣の相手にはならず。
気にも止めずとにかくデカいターゲットを目指し──緑の野に堂々と建つ青い王城を襲いに来ていた。
ぶるぶると身に付く青い粘液を払い、姿勢丸々。
それはもうチワワスナイパーを退けたあの恐怖のローリングニードルアタックを放つための、始動。
その場の地を削りながら勢いをつけて紫の針団子は青い目標物へと一直線に転がっていく。
地を抉り迫るハッピースライムヤードの運命とは唐突無情にも────
「うおおおおおおおおこういうときのドロップキックは当たる! 当たれよ!」
矢のような勢いで巨脚のドロップキックが城を襲いかかった鼠の横腹へと決まった。
「しゃぁァァァ!」
「はぴしゃしゃしゃァァァ」
▼
キマイラ:
それは巨大合体機獣
全高36m
出力□□□□□□□■■■
出力■
電量□□□□□□□■■■
電量■
クル□□□□□□□■■■
クル■
頭 充瞳
ホノウ 瞳
▼
「今度はチワワどころじゃないぜ鼠野郎! 俺は今最高にハッピーで底無なキマイラ様だ!」
「ハピスケハッピー! いったれええい紫鼠をやっつけろおおお」
「お、おう、さっきから熱血王女だな!!! よおおおおし」
大ピンチを掻き消し、青い王城の前に君臨する。
巨大機獣キマイラ。
目立つその頭覆う豪華な金毛、赤い猿顔になおも深く紅く煌めく瞳。
灰色の身体にはまだ見ぬネムル可能性を秘めている……スペシャルな機獣。
重い横槍でアタック姿勢が崩壊し吹き飛んでいった──ヘソを天へとむける間抜けな紫針鼠に、トドメの追撃を仕掛けるべくヤル気に満ちた充瞳操るキマイラは野を走り元気に向かっていった。
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