第21話 馴れ初め

「こちらでございます」先ほど皇后を西王母様と呼んでいた侍女が丁寧に案内してくれた。「ありがとう、花音。どうかしら?」西王母の威厳を持って鈴が尋ねた。「東王父様はそろそろ大丈夫のはず、と」その返答にホッと安堵のため息をつき、「では、東王父をこちらへ呼んでくれるかしら?」と告げた。

かしこまりました、と言ってパタパタと花音がかけだして行った後、それまで状況に全くついて行けなかった五人がそれぞれ気になっていたことを鈴と天帝に尋ねた。「…で、皇后サン、ほんっとーに西王母なんだな?」「はい。そうですよ」「西王母ってあれだよな?流、確か…」「女仙の長」「だよな」

「言えよ!二人ともよ!なんっで俺たちが知らねーんだよ!」うんうん。と他の四人も激しく頷いた。普段はアホと言われている炎迦もこういう時は筆頭としてちゃんと言ってくれる。そう。決して思ったことをそのまま口に出しているワケではない…はず。鈴は柔らかく微笑んでハッキリと言った。

「天界にいるとあまり関係ないですし、西王母であるより皇后であることの方がはるかに大切ですから」

天帝も頷き、「とゆーかお前ら、本当に知らんかったのか?」「私も知りませんでしたよ…天帝」特魔最古参で若い四人の特魔よりも遙かに天帝との付き合いが長いはずの迅迦は寂しそうな目で天帝を見た。「そ、そうか…悪かったな…」ちょっと気まずくなったのか、天帝は迅迦から目線を逸らした。

「まぁ、歴代皇后は仙女から選ばれることは知っていましたが…通常西王母が皇后に選ばれることはありませんよね」流迦が静かに尋ねた。

「うん?それは、私が鈴に一目惚れしたからだが」天帝は恥ずかしげも無くサラッと答えた。…は?一目惚れ?いやいやいや、何言ってんだ?この人?天帝でも選ぶとかできないだろ。流石に。と特魔五人は全員口をポカンと開けた。その様子に気づくことなく、天帝は誰も聞いてもいないのに懐かしむように鈴との馴れ初めを話し出した。「私の即位の折、代替わりを知らせるため仙界に来た時にな、仙界中で迎えてくれたのだが、仙界に降り立った瞬間、鈴が目に留まって一目で好きになった。その時求婚したのだ。まさか、西王母とは思ってなかったが」会った瞬間求婚!あまりの驚きに、特魔たち五人はもう何も言えなかった。この二人にそんな過去があったなんて!確かに見てる方が恥ずかしくなる程のおしどり夫婦ではあるけれど!

「ん?どうした?五人とも口パクパクさせて」心底不思議そうな顔で天帝が尋ねた。「どうしたもこうしたも…炎迦でもしませんよそんなこと」と、迅迦がやれやれと首を横に振って答えた。他の四人はまだ声を出せないのかうんうん、となぜか炎迦も一緒になって首を縦に振った。何も考えず同意した炎迦だったが、周りからの憐れみのこもった視線にハッとして、顔を真っ赤にし「なんっで俺なんだよ!」と必死の抵抗を見せたが、時すでに遅し。

「まぁ、瑤の胸元を見たくらいであんなに真っ赤になっているようでは、そもそも求婚なんてできませんねぇ…炎?」と美しく微笑んだ流迦にスパッと言われてしまった。その言葉に瑤迦はじとっと流迦を睨み、迅迦と雷迦は、いや、それはちょっと瑤に失礼だろ…と思ったのだった。

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