龍使い
瀬戸 玉華
第1話 目覚め
………何か忘れている………
もうずっと、何年も前から何か忘れているはずなのに何を忘れているのか思い出せない。
でも、とても重要で、大事な何か―……
「うーん……もう朝……早い……」
ベッドの中でもぞもぞ動きながら白神は最近の寝つきの悪さにうんざりした。
「いやいや、動くしかない!」
両手で頬をぺちっとたたき気合いを入れた。
「さ!今日も頑張るぞー!」
「ありがとうございます。白神さんに担当してもらえてよかったです。今度は彼女も連れてきます!まぁうまくいったらですけど……」
「絶対大丈夫ですよ!プロポーズ頑張ってくださいね!」
白神はいつも通り笑顔でお客様を見送った。
(エンゲージリングかぁ……幸せになってほしいなぁ……私は無理だと思うし)
希望の薄い事もあると考えていると、年下の同期・真悠が話しかけて来た。
「優しそうな人だよねぇ……彼女さんもきっと優しい人だね。くぅーうらやまし!……ところで、ねえさん明日の研修の準備出来てる?」
「出来てる」
次に出る言葉を予想し、軽くため息をついた。
「明日の朝ごはん」
「さすがねえさん!ノートありがと!」
調子の良い真悠が拝んでいる姿を見て思わず吹き出した。
「アハハ!何それ!……ん!?いやいや、私まだ死んでないわ!拝むなー!」
「え!?これ亡くなった人にやるやつ!?ごめーん!」
「もー、ほんと調子良いんだから真悠は」
こんなくだらないやり取りを何回したことだろう。
平凡でも平和な毎日が過ぎていくことが白神にとっては一番の幸せだったし、お客様の幸せに寄り添えるこの仕事にやりがいを感じていた。
研修の会場までは2人乗り合わせでいく。
朝7時に集合して2時間ほどかけて行くのだが、前の日夜10時まで仕事をしていた身にはこの時間の集合は正直つらい。
いつも前日早く仕事を上がった方が運転をすると決めている。今日は真悠が運転だった。
「着いたら起こすから寝てて良いよ」
ついさっきコンビニで買ったコーヒーを飲みながら真悠が言う。
「ねえさん、最近あんまり眠れてないでしょー、顔が疲れてる」
「バレてた?」
「何年一緒にいると思ってんのよ。バレてる」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
まさか気づかれているとは思っていなかった白神はありがたい申し出に少し眠ることにした。
『見つけたぞ……龍使い……』
声が聞こえて、白神はハッと目を覚ました。
「ビックリしたー急に起きてどしたの?」
ごめん、と答え時計を見る。15分しかたっていない。
(夢?結構リアルだったな)
「もう良いの?まだ時間あるよ?……ねぇ本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ!寝つきが悪いのは本当だけど、季節の変わり目とかだと思うし」
そう答え、それからは2人でおしゃべりしながら会場に向かった。
「わーお、珍しーねえさんと隣だ」
頷き着席する。15人ほどの研修生が続々と部屋に集まって来た。1ヶ月ぶりに会う仲間たちと最近どう?などと話していると、時間になり、研修の先生が入室してきた。そして、その後に役員が入室する。珍しい役員方の登場に座っていた研修生も全員立ち上がる。
「珍事は重なるねぇ……役員のお出ましって何かあるのかな。ねえさん聞いてる?」
真悠が小声で聞いてくる。
白神は、何も、と首を横に振って答えた。
「では、研修を始めます。今日はまず社長から君たちに話があるそうです」
壇上に社長が立ち、重々しく話し始めた。
「おはようございます。毎月研修お疲れ様です。実は今期のこの研修のメンバーは役員で選びました。みなさんは将来の幹部候補です。そういうメンバーを集めました。どんな会社でも世代交代は絶対にあります。この会社ももう世代交代のことを考えなければいけません。みなさんには―」
『その命もらうぞ!龍使い!!』
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