ユークロニア

Aさん

ユークロニア

ここは時間のない国。


何でも揃いすぎている。そのため何もかもいらなくなった国。

私は、トリック・スターとでも言っておこう。


ここは元々いくつかの小国が集まり作られた国で、歴史が進んできた。

歴史が進むごとに自分たちの不安が少なくなりやることもなくなっていった。


人間はますます機械に仕事を任せるようになり人として呼べるのか分からない物になっていく。

脳のみになってまでずっとゲームをしている人間や、ずっと寝たきりになる人間もいる。

しだいに機械は自分たちの力だけで新しいものを作り出すようになり、ますます不要になった人間は少しずつ退化していった。


初めはそれでも幾許かいた『仕事をする』人間も今となっては2%程度しかいなくなってしまった。


「ここの資料を頼めるか? 結構重要なんだ、おまえにしか頼めない」

「承知いたしました。……親のように立派になられて、」


「そんなことはないですから、そんなことよりよろしくお願いしますね」

まだ私は仕事をしている。

仲間はもう数えられるほどしかいない。


機械が何もかもをやってくれるから自分たちは遊ぶ。すると筋肉や脳は衰えはじめ認知症にもなっていく。

年々人口は減少していき、この国には7000億人くらいいた国民も50億人程にまで減ってきた。


反対に機械は増加する一方で、ついに人類の2倍ほどの量になってしまった。

私の親はそれを食い止めるために、『レジスト』という反抗集団を作ったのだった。


人間は楽する方に行ってしまうから駄目だ。


自分たちが得になることばかりで、相手のことを考えないのが駄目だ。

人間は嫌なことと向き合うことをやらないから駄目だ。

刻一刻こんなことを言っている間にも人類は死んでいく。


今すぐ向き合えとは言わない。

いや。言えないのだ。


私もそっちの方に行きたくなってしまう。

堕落へと進む人が羨ましいと思ってしまうときがあるからだ。

しかし『それに立ち向かわなければならない』と本能が告げている。


自分の親友だった『アクト』は守ろうとした猫を置いて先に逝ってしまった。


アクトの口癖は

『相手に立ち向かう時には仲間を捨てるんじゃない。自分を捨てるんだ』

というものだった。


「これあげるよ。お前今日、誕生日だろ?」

「アクト、……言いにくいんだけど、一応明日な」


「そうなの?! まぁでも早めだと思えばいいんじゃないか?」

「まぁそうしておくよ、」

そして最後のプレゼントの中には古いボイスレコーダーが入っていた。

だけどボイスレコーダーを再生しても、うんともすんとも言わない。

認証コードが必要なようだったが、アクトに訊いても一切教えてくれなかった。


しかしヒントに『猫』とだけボソッとつぶやいていた。


何かあるのだろうか。

アクトの口癖だけが脳内でリフレインする。

あの言葉の意味は、自分だけではまだ分からない。

誰かがいない限りは。


その誰かが少なくなっていく中、ふと思う。


あの言葉の意味は何だったのか。

自分に伝えたかった言葉は何だったのか。

ボイスレコーダーをもらった理由は。

アクトの本性はどんな奴だったのかが。


自分のことさえ、分からなくなってくる。


私はそれが悲しい、寂しい。

そして苛立たしさが機械に対して湧き上がる。


そんな感じなのだ。

なんとも言い表せないが、そんな感じなのだ。

一人、また一人と人類が減っていく。

『人間だから仕方がない』そんな考えが通用するかと、アクトは笑い飛ばすだろう。


好きなものに溺れ人間らしさを喪っていくのは決して許されないことなのだ。

欲に溺れてしまった人はもう人ではないと言っても過言ではないと思う。


機械のことがダメなわけでなくて、協力して仕事をすることが必要なのだと。

人間も一緒に働こうということだ。


だが現実はそううまくいかない。


働かなくていいと機械は私たちには言う。

その言葉を鵜吞みにして怠けるこの国は終わっている。

この国はもう、絶望的に終わっている。


この国の外はどうなっているのだろうか。



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「最終チェックまでそろそろか……」

「もうあなたが頼みの綱ですから、頑張りましょう」


「そうだな、早く会議に向かうか」

そんなことを話しながら数年が経った。

もう国民は5億人を下回った。


徐々に人間への統制は苛烈さを増し、この国から出ることは機械によって許されず、もう機械に政治的にも支配されたとしか言えない。

この国の外。

ふとした疑問はいつしか私の希望になり、どうにかこうにか出るしかないと思うようになった。




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そしてレジストは脱出作戦を練りに練った。月日はゆっくりと流れ、遂に決戦の時を迎えた。

自分たちは誰も見るはずのない遺書を置いて出ていく。



『作成内容はエネルギーシステムをハッキングし、この国のエネルギーを一時的に停止させる。その時におとり用の機械を使い出ていく方向とは逆のほうにおびき寄せる。そしてそのうちに逃げる。これが最初で最後の決戦だ。悔いのないように』

というものだ。無線で再度確認を入れる。


……そしてエネルギーシステムをハッキングする準備が整った。

緊張が走る中、仲間がハッキングを開始した。


情報統制が厳しい中でのハッキングは困難なものになるだろうと予測したが、エネルギーシステムのコアともいえるシステムをハッキングした。


そしてこの国全体のエネルギーが止まった。


ネオンで彩られた電光掲示板たちも色を失った、正にこの国の崩壊を意味するかのように。

周りの蛍光灯が次々に消えていく中、おとり用の機械を作動させる。



ここまでは順調だ。


いや。だったの間違いだ。




「ここを曲がれば……出れる」

そんな事を言った矢先、曲がり角から大きな影が現れる。

それは人間ではない影。皆、今から起こる最悪の状況を理解した。


『ピガガガッ……逃走者ヲ検知、コレカラ排除シマス』

計算上、ここにいるはずのない警備。

計算でしか動けなかった機械ではありえないことだった。


逃げている途中、偶然周囲を徘徊していた機械と鉢合わせてしまった。

『念のため』ここにきてもいいように、少しばかりの警備を置いといたのだろう。

 


======

捕まった人間の末路。


 脳を解析するために解剖されている。

 人間は機械たちの街でペットにされている。

 人間たちの警戒心を解くために、強欲にさせられて、いいように利用されている。


「そんな話を掴んだんですよ! 対応はどうするんですか?」


「そんな机上の空論を信じられない。……お前が間違っているとは言わないが、一回考え直したほうがいいと思う」

そんな馬鹿な話、あるわけない。

過去に嘘だろうと笑って誤魔化したことがあったのに。


……そんなの信じたくなかったから。


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そんなやりとりが脳裏によぎる。


冷汗が止まらない、乾いた笑いすらも出ない。

目の前の機械がいることを否定したかった。


これまでの機械たちにあるまじき想定外の出来事に、自分は、目の前にいる大きな機械に立ち向かう勇気を落としてしまった。



自分だけでも逃げようと醜い心が出てくる。



必死に走った。

後ろから仲間の叫び声が聞こえる。耳を必死にふさぎながら走る。


「イヤだ、イヤだ死にたくないッ……まだ死ねないんだ!」



だが目の前にあったものを見て、私の足は止まってしまった。

目の前にいたのは、あのときの猫だった。


あの時必死にアクトが守った猫。


「にゃ~」


見覚えのある鳴き声に、ポケットに入れていた形見のボイスレコーダーが反応した。


ポケットの中から流れた音声は、聞き覚えのあるあの言葉だった。


『相手に立ち向かう時には仲間を捨てるんじゃない。自分を捨てるんだ。

なんかこれ言うの恥ずかしいな……。まぁ、何事も行動。

【act】ってな。まぁ頑張れよ!』




……今ならあの言葉の意味が分かる気がする。


私は猫にお礼を言い、元いた場所まで引き返す。



走る、今までの記憶が走馬灯のように流れる。

光を超えたようだった。もうこの感覚は忘れないことだろう。


仲間が機械に縛られている。私はポケットに入れていたバタフライナイフを使って思いっきり力を入れて、縄をたたき切った。


「……早く行けッ!!」

「だが、」


「早くッ!!」



「ッ!! すまない……!!」

そのまま機械の前に立ちふさがるようにして、背中越しに仲間に向かって走って逃げろと叫ぶ。仲間は考える間もなく全速力で門へと走っていった。


「これでいいんだよな、アクト。……。さようなら…………」


そんな言葉を残し自分は捕まってしまう。

牢屋の中に入れられた。


残念だ、もうお終いだと思う一方で感じる、少しの安堵感。

これで罪は帳消しになっただろうか。


遠くから機械の近寄る音がしてきた、私も機械の餌食資料になるのだろう。 



あぁ、少しずつ眠くなってきた。


目の前にアクトとあの猫が見えた気がした。

「最後は君も笑ってくれるのか…………アク……ト、」


レクイエムが自分の周りで鳴る。

天使が導いてくれるのだろう。私は目をつぶる。


         


END


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読んでいただきありがとうございます。


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ユークロニア Aさん @mikotonori812

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