第6話



階見紫桜の額にあるのは、寄生型の禍遺物か、装着する事で人体に影響を及ぼす禍遺物。

その禍遺物に見られた事で俺の肉体から血液が流出している所を見るに、対象を認識する事で、血管に支障を与えて血を出す能力と見て良いだろう。

ならば、この状況で俺が取る行動は決まっている。


「じゃあな」


俺はソファを片手で持ち上げると共に視線を切る。

相手の能力使用条件が視認する事であるのならば、それを遮る障害があれば良い。

だからソファで一瞬の隙を作り、俺は扉を蹴破ると共に廊下に出る。


「殺すな、手足だけは斬って動けない様になさい」


その声が聞こえて来たかと思えば、廊下から出て来るのは彼女の部下である黒服たちだった。

俺は相手の顔を見ながら廊下の奥を見るが、黒服たちで密集していて、逃げる道がどうにも無い事を知る。


「刺激的だな、仕事じゃなかったら、良かったんだが」


心音が高鳴る。

俺はそのまま、廊下を使わずに窓を蹴った。

硝子が飛び散り、そのまま外へと繰り出す。


「、此処は四階ッ」


と言う階見紫桜の台詞に俺は可笑しくて笑ってしまう。


「それがどうした、俺たちは『イル』だぞ?」


入。

それが、この奈落迦に属し、生活を行い活動している者の名称だ。

俺たちは常識には囚われない、肉体の強度は、禍遺物によって補強されている。

地面に触れる直前に手足を使って地面に張り付く様に着地した。

空を見上げたら、階見紫桜が俺の顔を見ている。


相手の能力が発動するより前に、俺はもう一つの指輪を使用して黒い煙を発生させ、彼女の眼から逃れる様に遮る。


「俺が欲しいのなら…捕まえろ、殺してみろ、そうでもしなければ、俺は心の赴くままに動き続ける、躊躇するなんて真似は止せ」


扉が出現する。

扉が彼女の姿を遮り顔は見えないが、恐らくは…。


「お前には、それをする才能が、それが出来る覚悟がある、やってみせろ、俺を燃やしてくれ、灰と塵の芥と成る程に」


「…私に、お金以外の方法でしろと言うのなら」


階見紫桜の声が聞こえて来る。

それは、冷めた表情が基本の彼女からは信じられない程に喜々とした声だった。


「鎖を外す準備をして頂戴、手足を切断して、その痣だらけの首に、新しい鎖を与えてあげる」


恐らくは…俺の言葉に、彼女も感化されたのだろう。

嬉しそうに楽しそうに恋しそうに愛してしまいそうな程に。

階見紫桜は心の底から高揚していた。


「その時は、無様に吼えて、私の名を呼んで、…狗神さん」


「その日が来る事を待ち遠しく思う…今日はこれで終わりだ、またな」


その言葉を残して、俺は扉へと逃げ込んだ。

心音が高鳴るのであれば、例え逃げる事でも俺は面白いと思える。

扉が消え去り、暫くは階見紫桜から離れる事にした。

ついでに、回顧屋も…と、俺は思案しながら、店へと戻るのだった。

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