クロノスへの報告

「ねえ シリウスお兄ちゃん この街にはいつまでいるの?」クラリスが外の雨を見ながら尋ねる

「そうだな もう少しのんびりしてから 帰ろうか」俺が答えると

「でも 帰りもあの雪山越えるんでしょ?」憂鬱そうにクラリスが言う

「印を点けたから 転移魔法で帰れるし 転移でこの街にもすぐに来れるよ」

「えっ お兄ちゃん 転移魔法も使えるの?」クラリスが驚いて俺を見る

「まぁ 一回行った場所で印を点けなきゃ行けないけどね」


「じゃあ お兄ちゃんに頼めばいつでもここに来れるの?」

「ああ 言ってくれればいつでも送ってあげるよ」

たぶん ラテと離れるのを寂しがっているんだろう


「ラテも聖王国に来ればいいのにな」何気に言うと

「そんなんじゃないもん!!」ポカポカと顔を赤くしたクラリスに叩かれた ハイジはニヤニヤとクラリスを見ている

「でも 真面目な話 クロノス王も知ってるし ここじゃ独りで小屋に暮らしてるんだろ?」

「うん そうらしいけど」まだ 俺を叩きながらクラリスが言う


そんな事を言い合ってる時に ギルドから手紙がノエルさん宛に届いた

少しして ノエルさんが帰ってきたので 手紙を渡す

クロノス王からで 魔人の話を詳しく聞きたいので 一度 聖王国に来て欲しいらしい

「ハイジ クラリス ラテを呼んで来てくれないか?」

「「え? 分かった」」二人が飛び出て行った

「シリウスさん 何かご用ですか?」ラテが何事かと 小声で尋ねる

「うん ラテに少し提案があってね」俺がお茶を出しながら言うと

「提案?」不思議そうに首を傾げる

「ラテ 俺達と聖王国に行かないか? あそこなら まともな暮らしが出来るぞ」

「は はあ」生返事をするラテに

「「それがいいわ!! 私達と一緒に暮らしましょう」」ハイジとクラリスがラテの手を取って 踊りながら移住を誘う

「明日の朝には 出発する予定だ 一晩考えてくれ もし今行けないなら 気が向いた時にでも聖王国に行くといいさ」 住み慣れた街を出るのはいろいろ葛藤があるだろうし ゆっくり考えた方がいい


朝靄に煙る港町は陽が昇る頃には 活気付いている

早くに起きた俺は尻尾にしがみついているノエルさんを起こさないようにベッドから抜け出し朝市で朝食用の買い出しを済ませ 転移の印を点けた小屋の点検をする


朝飯を終えたぐらいにラテがやってきた

「一緒に行かせて下さい よろしくお願いします」ペコリと頭を下げる

 

朝飯を食ってる時からソワソワしていたハイジとクラリスはラテの両側に行き抱き着いて喜んでいる

「昨日のうちに この町でお世話になった方々には挨拶は済ませました」

手に持っている荷物はほんの少しだ その荷物をギュッと抱きしめ どこか寂し気に俯く

俺 ノエルさん ハイジ クラリス ラテ 母ちゃん 父ちゃん で小屋に行き

転移陣の真中に立つ俺を掴んでもらい ノエルさんの屋敷に転移する

転移陣の印を点けたノエルさんの部屋から ゾロゾロと俺達が出てくるとメイドさんがビックリして執事長に知らせに行った 

「お嬢様 御帰りとは知らず 申し訳ありません すぐに旦那様にご報告を!!」

執事長が慌てて走り去ろうとするのをノエルさんが止める

「直ぐに また出かけるから 父上には報せなくていい」

ノエルさんはマッパで俺の尻尾に潜り込むような人だが 立派な貴族のご令嬢だ

帰ってきたのがばれれば 見合いの話からお茶会の誘いまで凄そうだ

執事長やメイドさんに 静かに見送られながら屋敷を出て聖王国へ向かう

森へ入り 俺 父ちゃん 母ちゃんがフェンリル姿になり 俺にノエルさん 父ちゃんにハイジ 母ちゃんにクラリスとラテが乗って 三頭で走り出す

途中で一度野宿したのだが 何故ラテまで裸で俺に潜り込む?

一度 ハイジ クラリス ラテにはきっちりと話さないといけないなと考えていたら     

聖王国の近くの森に着いたので 俺達もフェンリルの姿から人の姿になり 南門に向かう

無事 国内に入れたので王宮に行き 衛兵の人にクロノス王への謁見を申し出る

暫く待っていると メイドさんが来て豪華な扉前に案内され メイドさんがノックをして 大きな応接室に入室すると 窓の前にクロノス王が立っていて 俺達を見ると

「わざわざご足労願って申し訳ないね」ニッコリと笑顔で出迎えてくれた

「いえ こちらこそ前触れも出さず いきなり押しかけまして お時間を頂きありがとうございます」ノエルさんが貴族らしい雰囲気で挨拶する


「ん? パーティーメンバーが増えたのかい?」

国王が俺らを見回して口にする

「クロノスさん 俺を覚えていませんか? 昔あなたに助けてもらった者です あの時はありがとうございました!!」

ラテが泣きそうになりながらお礼を言う

国王は少し考えて

「確か ラテ君だったかな? 言った通り素敵な仲間に出会えたようだね 良かったね」

「あ あ ありがとうございます こんな自分を覚えて下さって!!」ラテは既に目も鼻もぐちゃぐちゃにしていた クラリスが背中を撫でながら ハイジはラテの手を握って 一緒に泣いている

「後は 俺達が報告するから ラテに街を案内してやるといいよ」

そう言ってハイジ クラリス ラテを送り出す 母ちゃんと父ちゃんは街を見たいと言って 王宮の前で別れている ラテ以外は念話を使えるから どこかで合流するだろう


改めてクロノス王に魔人の事を細かく話す

「なるほど アデル王国が異世界から勇者を召喚したから 対抗策として 魔王も魔人を召喚したのか やれやれだな」

報告が終わったのでクロノス王に

「シリウス旅団のパーティーハウスをこの国に作る事をお許しいただけませんか?」

「え? それは大歓迎だけど いいのかい? 君達は拠点を持たずに旅をして冒険してるんだろ?」

「いえ 今後の魔王軍の動きも気になりますし 全てをクロノス王に報告するように 私の勘がいっているのです」

俺の中で この先 クロノス王との情報交換が大事になってくると感じてる

こういう勘は大事だ 特にあちこちで戦争が起こってる今の時世 杞憂に終われば それはそれでいいが 何かあって後悔するのは嫌だ

「ありがとうございます」

俺とノエルさんは礼を言って応接室を出た

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