番外編   ライアン編

ウランと親子として接するようになって5年が過ぎた。

ミシェルが、モーリス国へ行ってしまう。


とても楽しそうに夢を話すミシェル。


30歳を過ぎても若々しく綺麗なミシェル。


僕のことなどもうなんとも思っていない事はわかっている。

仕事でも共同出資をしてモーリス国から薬を輸入しているが、それはジョージ殿と動く事はあっても、ミシェルとは会うことも話すこともない。


彼女が僕と仕事を合わせることは絶対に避けている。


彼女と離縁して5年、他の女性と付き合うこともなかった。


全てが虚しいだけだった。


再婚する気にはなれなかった。


僕の子供はウランだけでいい。


ミシェルのことは愛していたが、もう彼女を求めることはない。


愛が冷めたわけではない。


ただ全てが遅過ぎたのだ。



そして、半年後、ウランの長期休暇でモーリス国へ初めて訪れた。


ロバート殿とは何度か仕事で会うことがあり、ウランの命を救ってもらったことは何度も頭を下げてお礼を言っていた。


今回アイリス様には初めてお会いした。


ウランのことをやはりお礼を言ったが

「わたしは自分ができることをしたまでです」

と言ってくれた。


セルマ君もウランが来て大変喜んでくれて二人はずっと一緒に過ごしていた。


僕はロバート殿について回り、モーリス国の特産物や自国にはない物たちを見て回った。

いかにペルサイト国がまだまだ発展していないか実感することが多かった。


そして一番不思議だったのが、ロバート殿の家に行くと不思議に体がほわっと感じて落ち着くのだ。


なんとも言い表せないこの感じをロバート様に伝えると

「貴方は精霊の影響を少し受けているのかもしれないですね」

と笑いながら言われた。


話には聞いていた精霊。


その日の夜はロバート殿の家で深酒をしてしまい客間に泊まらせてもらった。


『ライアンはずっと後悔して生き続けているんだね』

頭の中で誰かが話しかける。


『僕はずっと間違え続けたんだ、ミシェルに辛い思いしかさせられなかった、もしももう一度学生の時に戻れるなら今度は間違えない』


『ふうん、だったら戻ってみたら?』


『あー、戻れるなら僕は一生ミシェルだけを愛し続けるよ』


夢なら何を言ってもいいだろう、そんなことは起きる訳がないのだから。





不思議な夢を見た。


父上に呼ばれてルシア・モリストのことを言われた。


僕は「ミシェルに本当のことを話すなら父上の言うことを聞きます」

と答えた。


「それは出来ない」


「だったら僕はしません、ミシェルを傷つけてまでブレイズ家を守っても幸せにはなれません」


「ふざけるな!これはブレイズ家の未来がかかっているんだ!」


「それでもミシェルのことも大切なんです」


父上に生まれて初めて殴られた。


逆らったことなどなかった。


でも僕はミシェルのことでもう選択を間違わない。


そして、父上が折れて、ジョーカー家に向かい、ミシェルと侯爵に全てを話した。


「向こうが色仕掛けでくるのに乗るよりも、男爵家に使用人をこちらから数人送り込み我が家の「影」を密偵として送り込もう。そして証拠を掴み叩き潰そう、ついでにプラード公爵の力も弱らせればいい」


父上なんかより腹黒くとても恐ろしい人だと思った。


そして侯爵は有言実行で、半年程で証拠を集めて男爵家と公爵家の力を弱らせることに成功した。

かなりの密売や偽造販売を行っていて言い訳が出来ないだけの証拠を集めた。

こんな粗悪品を売っていたなんて、我が家の評判が落ちてしまうと父上が恐怖するのもわかった。


ミシェルとの関係は全く拗れなかった。

ルシアがどんなに僕に言い寄ってきても相手にすることはなかったし、ずっとミシェルを優先した。


学園での生活はミシェルと仲良く過ごし、殿下たち生徒会とも僕自身も役員になり仲良くなった。


卒業して半年後ミシェルと結婚。


二人で事業を立ち上げて仲良く暮らした。


『なんて幸せな夢なんだ』


そしてウランが生まれ、7歳のときにやはり白血病にかかった。


絶望の中医学が発達したワルシャイナ王国へウランを連れて渡り、そこでロバート殿と知り合い、モーリス国へと向かった。


ああ、現実は想像以上に辛いのだとわかった。

ウランが日に日に弱っていく姿。何も出来ない自分。


祈るしかなかった。


ミシェルはこんな辛い日々を一人で乗り越えたのだ。

お金もない、頼る人もいない。


こんな地獄を一人で。


離縁されて当たり前だ。ミシェルに嫌われたと認めたくなくて逃げてばかりだった。

その間彼女はウランを守り続けたんだ。


でも今回はミシェルとウランを守ってみせる。


夢の中だけでも僕は二人のそばにいて、共に乗り越えウランの元気になる姿を見守った。


「ライアン、ウランが元気になって良かったわ」

二人で共に涙を流した。


あー、もし間違えていなければ僕は辛いこともミシェルと共に共有することができたのに、彼女を一人で苦しませなくて済んだのに。

ウランを片親で寂しく過ごさせることもなかったのに。


これが夢でなければ僕は一生二人を守り愛し続けるのに……





「あなた、起きて」

ミシェルの声が遠くから聞こえてくる。


僕に向かってこんな優しい声で話しかけてくることはない。


まだ夢の中なんだ……


「もう!ライアン!早く起きてちょうだい。

今日はアイリス様に薬の調合を習う日でしょう?

時間がもったいないわ」


「……あ、う、、うん……」

ミシェルがクスクス笑いながら言った。


「昨日はロバート様とかなり飲んでいたものね。

楽しかったのはわかるけど飲み過ぎは体に悪いわ、気をつけてね」


これは夢の続きなんだろう……


僕は言われるがままに起きて朝食を食べて、薬の調合を習った。


それが終わりミシェルはウランのところへ行った。


『ライアン、後悔、もうない?』


『ラファ?ライアン様に何かしたの?』

アイリス様が精霊と話し出した。


『ライアン、あまりにも苦しそうだったから過去に戻して今さっき帰ってきたの』


『過去に?ラファったらそんなことまで出来るの?』


『うーん、ライアンとは波長が合うの、多分ライアンは時間の加護を受けていたんだと思うわ』


『時間の加護?精霊は?感じないわ』


『うん、ライアンたちの国は精霊を信じてないから加護は与えたけどそのまま離れてしまったんだと思う。でもライアンにはまだ加護が少しだけ残っていたみたい。それをちょっといたずらしてライアンを過去に飛ばしてみたの』


『い、いたずら?』

僕は驚いた、いたずらで僕は過去に行ったのか?


『精霊はいたずら好きで感覚が人間とは少し違うの、ライアン様ごめんなさい。

以前と今はかなり変わってしまいましたか?

多分もう戻すことは出来ないと思います』


『変わってしまった?え?僕はもしかしてミシェルと夫婦のままなのか?』


『ふふ、ライアン、あの暗ーい人生は全て過去に置いてきたわ。今の人生は夢で見たままよ』


精霊のラファが笑っていた。


僕の人生にミシェルとウランが共にいる。


僕の幸せは今目の前にあるんだ。


僕は部屋を出て、ミシェルとウランのいる場所へと走った。


「ミシェル、ウラン!」


「どうしたの?ライアン?泣いているの?」


「愛しているんだ、ずっとずっと愛しているんだ」


「知ってるわ、わたしも愛しているわ、それに貴方に愛されていることもわかっているわ、ね?ウラン」


「うん!」



ーーこれは夢なのか?永遠に続く……だったら冷めないで。もうあんな過去には戻りたくない。




◆ ◆ ◆


読んでいただきありがとうございました。


皆様の応援とても嬉しかったです。






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