第13話
実家に帰るわけにもいかず、わたしはウランと共にとりあえず学園の友人で仲が良かったヴァリスのところへ身を寄せた。
「ミシェル、どうしたの?」
わたしの突然の訪問にも嫌な顔をせずに受け入れてくてホッとしたら、涙が止まらなかった。
アンナがウランを抱っこしてくれていたが、二人はわたしが泊まらせてもらう客室でゆっくりしてもらい、わたしはヴァリスに今日の出来事を話した。
ヴァリスは、公爵の次女で結婚して今は侯爵夫人になっている。
ご主人とはわたしも商会を立ち上げるときにお世話になっていて、わたしの事情を知る一人だ。
「殿下の愛妾……それに旦那があのルシアと屋敷でキスして抱き合う……」
ヴァリスは呆れながらわたしの話を聞いてくれた。
「ウランのこともあるから逃げないで話し合おうと思ったけど、わたし達の屋敷で二人の抱き合う姿を見せられて、もう離縁状を送るしかないと思うの」
「殿下の愛妾になるの?息子のウランを捨てて?」
「そんな事はしない!わたし……また逃げると言われてもいい。あの子を守るためならこの国を出ようと今考えているの」
「この国から出るの?」
「うん、幸い商会で知り合ったモーリス国の人達がとてもいい人達なの。多分頼っていけば仕事と住むところくらいなら紹介してもらえると思うわ、この国で立ち上げている仕事は誰かに任せよう思う」
「殿下のこと愛してはいないの?」
「殿下はずっとわたしが泣くたびに助けてくれたわ、優しくていつも守ってくれた……でも仲間だと友人だと思っていたの」
「そうなんだ、ライアンのことで辛い思いばかりしていたミシェルを支えてくれていた殿下の気持ちにわたし気づいていたの」
「え?……わたしはあの頃いつもライアンとルシア様の姿を目で追っては泣いていたわ、もう諦めればいいのにね、その時いつも殿下が優しく声をかけてくれた。でもそれは彼の優しさだと思っていたの」
「わたしはミシェルが殿下に愛されて暮らすのも幸せになれると思っているわ」
「……無理だわ、ウランと離れるなんて絶対に考えられない。自分の幸せよりウランにとっての幸せが大事なの」
「だったら逃げないで!辛いかもしれないけどライアンと話し合ってきちんとしなさい!逃げてばかりのあなたではウランだって幸せには慣れないわ」
「……そうよね……でもさっきも話し合うつもりで帰ってルシア様がいたのよ?
もうあの屋敷には帰れないわ」
「あー、もう、ライアンったら本当にどうしようもない男ね」
◇ ◇ ◇
ヴァリスの屋敷で数日厄介になっている。
商会のこれからの話し合いはジョージ元生徒会副会長を通して連絡を取って話を進めている。
「ミシェル、ここに居ることは構わないわ。仕事もここでしたらいい。主人との仕事の交渉もここで出来るし、主人としても有難いみたい」
「みんなに助けられてありがたいと思っているわ」
ヴァリスは笑いながら言った。
「ミシェルってしっかりしてるんだけどなぜか守ってあげたくなるのよね、殿下もそんな貴方だから好きなのね」
「……わたしは……ウランとは離れられない。それに殿下を愛していないわ」
わたしが愛しているのはライアンだけ。
ライアンがルシア様をずっと忘れられなくてもわたしは彼を諦められなかった。
醜い足掻き……
ウランのためにもきちんとお別れして、二人で新しい生活を始めないといけないわ。
ジョージ元生徒会副会長には、全て話をした。
「わたし……殿下のお話は断るつもりなの。そしてライアンとは離縁してこの国を離れるつもり。
わたしが手掛けた商会はジョージ元生徒会副会長とヴァリスの旦那様に委ねてもいいかしら?
領民達の生活を豊かにしたいの、そうすれば他国に負けない国力がつき何処にも負けないもっと強固な国になると思うの」
「ミシェルは、ライアンのことを諦めるのかい?あんなに辛い思いをしても君はライアンを諦めきれなかった。それは君が彼を愛しているからだろう?」
「愛しているわ、でも愛してはもらえなかった」
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