第9話  ライアン編⑥

「僕はミシェルを心の中で一度裏切ってしまいました。ルシアと居るのが楽しくて彼女に惹かれていました。それにミシェルがヤキモチを妬いてくれるのが嬉しかった。だから、馬鹿な僕はさらにルシアと仲良くしてしまった。ミシェルへの愛が少しなくなりつつあったのは事実です」


下を向いたまま顔も見れなかったが、それでも上を向き侯爵の顔を見た。


「ミシェルが殿下と仲良くしている姿を見て、自分はルシアと仲良くしているくせに嫉妬をしていました。やっぱり自分はミシェルを愛しているんだと気づいたんです。 

そしてやっとミシェルと結婚できたのに、罪悪感からミシェルの顔を真っ直ぐに見ることが出来ませんでした。

僕の弱さです。

それでも彼女を手放せないんです。

愛しているんです」


「一年も会いに来なかったくせによくそんな事言えるな」


「貴方がしばらく我慢しろと仰ったではないですか?それに何度も手紙を書きました。

でも返事はありませんでした」


「あー、手紙。あれ、捨てさせているからね」


「どうしてそんな事をするんですか?」


「本気で会いたければまどろっこしい事をしなくても何があっても行動するものだろう?

君は口だけじゃないか」


「口だけ?」


「そう、口だけ。

愛している、幸せにする、それも口だけ。

父上との約束だったかな?ルシアを好きになったりしないと言ったのは。

それも口だけで簡単に落とされていたよね?

ミシェルに会いたいけどわたしが止めたから会いに行けない?

ふざけるな!

ミシェルが君を想っているのを知っていたから我慢して結婚させた。

なのに幸せにするどころかどんどん暗い顔になっていったんだ!

お前との婚姻はもう終わりだ」


「嫌です、もう一度だけはチャンスをください、僕はまだ息子にも会っていません。

ミシェルと三人で会いたいんです。息子だけが帰ってきても嬉しくないです」


「……………次はない」


侯爵はこれ以上何も言わないで黙って去っていった。



僕のこれからの行動次第でミシェルと息子と過ごす未来は消えるかもしれない。


僕は今のミシェルの現状を知るために彼女が住む領地へ行くことにした。


ジョーカー領はとても活気があり観光客が増えて明るい街だった。


「お兄さん、このアクセサリーお土産に買わない?」


道を歩いていると露店の女性が声をかけてきた。


こんなところで売っているわりにとても丁寧に作られていて、小さいとはいえ本物の宝石が使われていた。


「これは思った以上にいい物ですね」


僕が感心して見ていると、

「うちの領主様の娘のミシェル様が提案されて作ったんですよ。

だからこんなところで売っていてもきちんとした物なんです」


「ミシェルが?」


「あら?貴族様はミシェル様の知り合いですか?

ミシェル様はわたし達女性の味方なんです。

いろんな工房を作ってわたし達に仕事を充てがってくれているんです、おかげで街も賑わいが戻ってみんな少しずつ生活が楽になって来ているんですよ」


ミシェルは僕から離れた一年とちょっとでこんなにいろんな事をしていたんだ。


僕はただ父上の仕事の手伝いをしていただけなのに彼女は自身の力で街を変えていった。


それから僕は彼女が手掛けた工房を何箇所も回り、農園や果樹園にも顔を出した。


新しい販売ルートを見つけ、運送コストを抑えて売り、廃棄される形の悪い果物はジュースやジャムにして、さらに付加価値として入れ物にもこだわっていた。


ジャムの瓶には絵が付いていて、ジャムを食べ終えたら小物入れや飾りとして使える。


ジュースの空き瓶は一輪挿しに使えるように細長く花瓶を思わせるフォルムに作ってある。


露店を沢山作る事で安価でお店を出せる商売人。


魚を焼いてすぐに食べられるように串刺しにして匂いで客を呼び込んでいた。


牡蠣やサザエなど採れたてのものを生で食べさせるお店。


土産物屋も沢山あった。


街は人で溢れて、宿屋も繁盛していた。


道を舗装して馬車専用の道も作り、人と馬車を分ける事で危険も減っていた。


これを全てミシェルが考えて実行したと聞いて感心した。

だが僕は恥ずかしくなった。


どんな顔をして彼女に会えばいいのだろう。


でももう口だけ。逃げてばかりだと侯爵にはもちろんミシェルにも思われたくはない。


僕はミシェルに会いに彼女の住む屋敷へと向かった。











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