第8話 ライアン編⑤
「入れ!」
侯爵の一声でルシアは兵士達に取り押さえられた。
「な、何?どうしてわたしが捕まるの?たかが使用人に怒ったからと言って捕まるなんてあり得ないわ」
ルシアは兵士たちから逃れようとジタバタしながら喚いていた。
「ライアン、君はとんでもない女性を相手にしていたんだな。こんなのが彷徨っていられては、うちの可愛いミシェルに何かあったら困るよ」
「あんた何威張ってるのよ!わたしは男爵令嬢よ!放しなさいよ!」
流石の兵士達もルシアが大暴れするので押さえつけるのに戸惑っていた。
一応女性なので力づくで抑え込むわけにはいかない。
だがそんな配慮は要らなかった。
暴れ方は女性とは思えなかったのだ。
無理矢理抑え込み静かにさせた。
「痛いわ!放して!」
ジョーカー侯爵は呆れながらルシアに向かって話しかけた。
「君は大人しく男爵領で過ごしていればよかったんだよ。なのに、のこのこブレイズ家に脅しに来るなんて。ライアンに醜聞がどんなにあっても構わないが、その所為でうちの可愛いミシェルの名に傷を付けられたら困るんだよ。」
「連れて行け!」
「ふざけないで!わたしは何もしていないわ」
ルシアは兵士に連れて行かれた。
侯爵に失礼な態度と発言をしたのでしばらくは反省もあって牢に入れられるだろう。
その後は強制的に男爵のいる領地に帰されるだろう。
だが、あのルシアの性格ではまた突撃してくるかもしれない。
僕は演技と言いながら彼女に接近しすぎたんだと今更ながら反省した。
彼女に自分が愛されていると勘違いさせたし、ミシェルには、政略結婚で仕方なく結婚したと思われている。
僕の優柔不断な態度が、ここまで事態を悪化させてしまった。
「さあ、そろそろライアンと話し合いをしよう」
侯爵は僕を見てニヤッと笑った。
「ミシェルは君との離縁を考えて、今自ら仕事を始めた。
君に子どもが生まれたことも知らせていないし屋敷に戻ろうともしないのは、君に対してもう愛情がないからだ」
僕は何も言い返せなかった。
「ロバート殿下はミシェルを想ってくれている」
「え?」
学園での二人の仲の良かった姿を思い出して、悔しくて腹が立った時の感情が再び湧きあがった。
僕は拳をギュッと握りしめた。
「ロバート殿下から話が来ている。ライアンと離縁するなら子どもはライアンに渡してミシェルを愛妾として迎えたいと言ってきている」
「愛妾?そんな……正妻ではなくて?」
「王族の結婚はそれこそ愛のない政略的なものだ。お互い形だけの夫婦で、子どもだけ後継のために作る。
本当に愛する人は愛妾として抱えて一生寵愛し続けるんだ」
「ミシェルを愛妾にするんですか?」
「わたしはね、ミシェルが可愛い。
あの子がロバート殿下に惹かれているならそうさせてあげてもいいと思っているんだ。
ライアン、君はミシェルと結婚したのに全く上手くいってなかっただろう?
何が幸せにするだ、不幸にしかしなかった。
君なんかより殿下のほうが幸せにしてくれる」
侯爵は僕を見て溜息を吐いた。
「ハァー、本当は可愛いウランを君に渡したくはないんだけど殿下の愛妾になるにはウランは邪魔になるんだ。いずれは君から取り上げてうちの子として育てるつもりだ。それまでは君に貸してあげるよ」
「貴方は一体何を言ってるんですか?子どもはモノではありません」
「じゃあ、何で君はミシェルをただ子作りするだけの妻として娶ったんだ?
うちの娘に、その辺の娼婦と同じ扱いをしただろう?
あの子の心は今も傷ついているんだ。
学園で君とルシアの仲の良い姿を一年半も見せられ続けて、今度は結婚したら娼婦まがいの事をさせられていたらしいな。
あのルシアという子と君が結婚すれば良かったんだ、わたしは後悔しているよ」
侯爵は怒りを隠さず僕を睨みつけた。
僕は言い返すことすら出来なかった。
それでも
「ミシェルを愛しているんです」
僕は何があってもミシェルと別れたくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます