第6話 ライアン編③
卒業パーティーの後、しばらくしてルシアの男爵家は静かに社交界から姿を消した。
特に噂されることもなく誰にも気づかれないで。
それはプラード公爵がトカゲの尻尾を切るようにモリスト男爵が切られたからだ。
プラード公爵は自分のところに火の粉がかからないようにモリスト男爵は切られ、男爵は田舎の領地へひっそりと隠れるように引っ込んでしまった。
ルシアは僕に助けを求めてきた。
「お父様が公爵様からの仕事を貰えなくなってしまったの。ライアンのところで口を利いて貰えないかしら?そうすれば田舎の領地なんかで暮らさなくてすむわ。お願いよ、貴方に会えなくなるのは辛いわ」
僕はルシアと一年半も一緒に過ごした。
多少思いは残っているが、かと言ってもうルシアに優しくすることは出来なかった。
ルシア自身も、鉱山での横領に多少関わっていた事も明るみに出た。
男達を誘い、自分達の言うことを聞かせる役をこなしていたのだ。
男爵と一緒に父上に断罪されて、うちとは二度と関わらないと約束させられていた。
なのに何事もなかったように僕の前に現れた。
「ルシア、君との縁は切れたんだ。君の父親はうちの侯爵家に対して不正を働いていたんだ。だから口を利くなんてあり得ないんだ」
「どうして?貴方はわたしを好きだと言ってくれていたわ、ミシェル様のことを放ってわたしと居てくれたじゃない?」
「君とのことは父上に頼まれて一緒に居ただけだ。悪いけど君に恋愛感情はないよ、君も父親に頼まれて、僕に近づいたのは知っているよ」
ルシアはその言葉を聞いてビクッとした。
「知っていてわたしに近づいたの?」
「そうだ、君の父親の悪事は我が侯爵家にとって脅威だったんだ。君も知っていて近づいたんだろう」
「確かに最初はそうだったわ。でも途中から本当に貴方を好きになっていたの」
「僕が愛しているのはミシェルだけだ。だから君には絶対に手を出していない。もう君に会うことはない」
ルシアは下唇を噛み締め僕を睨んだ。
パシン!!
「さようなら、あー、損した。せっかく可愛こぶって愛想良くしてあげていたのに」
ルシアは僕の頬を一発叩いて去っていった。
それから僕はすぐにミシェルの父上に会いに行った。
ミシェルの父上、ジョーカー侯爵はブレイズ侯爵の事情を知っていた。
ただ、自分達で解決しようとしていたのも知っていたので、その間静観してくれていた。
「ライアン、君がルシア嬢のそばにいた理由は知っている。でもミシェルは何も知らされていない。だから傷ついているんだ、二人を結婚させることは出来ないよ」
「僕はずっとミシェルを愛しています、必ず幸せにします」
「君はルシア嬢に惹かれていただろう?それをミシェルは気づいているんだ、あの子の気持ちは君にはないかもしれないよ。
ミシェルには結婚は政略結婚としてしか受け取れないかもしれないよ。
それでもいいのか?」
何度もブレイズ侯爵に結婚の申込みをして、政略結婚でもいいからとミシェルとの結婚の了承を得た。
ミシェルにも会いたいと頼んだ。
でもそれは叶わず会えたのは結婚式の日だった。
そして卒業して半年後ミシェルは僕の妻になった。
ほとんど会話もなく、屋敷の中でも会う事はない。
ミシェルは部屋からあまり出て来なかった。
それでも僕は夜になるとミシェルの寝ている部屋へ行った。
彼女を抱いた。
これは跡取りを産むために必要な行為だからとミシェルに言って、毎晩抱いた。
本当は「愛している」と言って抱きたい。
「好きなんだ」と言いたい。
でもミシェルの顔を見ると何も言えなくなる。
一度は裏切ってルシアへ気持ちが動いてしまった。
それにミシェルが殿下といる時の笑顔を思い出すとどうしても腹が立って素直に愛していると言えない。
何か話しかけようと思っても何を話せばいいのか思いつかない。
僕たちは、同じ時間を歩いてこなかったんだと強く感じた。
共通の話題も思い出もない。
それでも彼女を手放せない。
愛しているんだ。
その一言を素直に言えない自分がもどかしい。
執務室の窓から見えるミシェル。
彼女のブロンドの長い髪がキラキラと輝いて見える。
メイド達と庭に出て楽しそうに花を摘んでいる。
僕がそばにいない時は彼女は自然に笑っている。
でも僕が近くにいると顔が硬って笑顔が消える。
ミシェルにとってこの結婚は政略結婚でしかないのだろう。
僕は「愛している」その一言をどうしても言えない。
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