第5話  ライアン編②

ルシアは早速僕に話しかけてきた。


「ライアン様、初めまして。わたしまだこの学園のことがよくわからないんです。色々教えて貰えたら嬉しいです」


栗色の長いツヤのある髪、くりくりした可愛らしい瞳はとても魅力的で僕はドキドキした。


可愛く、ふんわりとした彼女が話しかけてくる。

少し惹かれつつも父上に言われた通りに、態と彼女の言葉にのり、学園を案内した。


ミシェルに見られたらどう言い訳しようか悩みながらも、ルシアとの会話は楽しくて演技のはずがいつの間にか彼女と居るのが当たり前になっていた。


遠くでミシェルがこちらを見ているのに気づくが、彼女が寂しそうにしているのを見るとますますヤキモチを妬いてくれているかもと勝手に思い込み、ヤキモチが嬉しくなってルシアといる時間が増えていった。


ミシェルとはクラスが違ったのもあり、僕とミシェルが会える時間は減っていった。


たまに気になってミシェルの姿を探すといつもロバート殿下達といる事が多いのに気がついた。


ミシェルと殿下、他に生徒会メンバー達と楽しそうに話している姿を見ると自分はルシアといるくせに、イライラした。


そんなある日、僕とルシアが放課後二人で並んで帰る姿を、後ろからミシェルが見ていたのに気がついた。


突然走り去るミシェルを見て僕は思わず追いかけたくなった。


「ルシア、ごめんね。僕忘れ物したから先に帰って」

僕はルシアを置いて、ミシェルを追いかけた。


「ミシェル、また逃げてきたのか?」


「…………少しだけここに居てもいいですか?」


ミシェルは生徒会室に逃げ込んで、友人でもあるロバート殿下の仕事を手伝っていた。


もちろん生徒会室には他にも副会長や書紀、会計の子達も居たが、ミシェルは殿下と親しげに笑いながら話していた。


「ねえ、わたしの仕事を当たり前のように取っておかないで!」

ミシェルはみんなに文句を言いながらも手伝っていた。


「ミシェル、一度ライアンと話し合った方がいいと思うよ」

殿下がミシェル言うと、会計の女の子も心配して言った。

「わたしもそう思うわ。ライアンはミシェルの事をあんなに好きだったのよ、何かがあってすれ違っているのだと思うわ」


「ありがとう、でも、わたしの勘違いだと思えないわ。ルシア様とあんなに近い関係に見えるはずがないもの」


「確かに二人は少し近すぎると思う。でも理由があるのかもしれないわ」


「わたし達の婚約は両家の親達の仕事も絡んでいるから簡単には婚約解消は出来ないわ。このまま気持ちが無くなっても結婚するしかないの」


(気持ちが無くなる?僕をもう好きではなくなるのか?)

僕はミシェルの話しを聞いて部屋の外で呆然と立ち尽くしていた。


それからはあんなに惹かれていたルシアに対して何も感じなくなった。


どんなに体を擦り寄ってこられても、さりげなく躱した。


元々彼女とキスすらしていなかった。


親しげにはしていたし彼女の家に遊びにも行ったが、それはあくまで彼女達男爵家を油断させるためだった。


僕がルシアと親しいので、このままミシェルとは婚約解消をするかもしれないと、男爵に匂わせて油断させた。

そしてその間に、父上はいろんな証拠や証言を集めていた。

公爵に対抗できるだけの証拠もあと少し。


「卒業パーティーのエスコートはルシアにしてくれないか」

と父上に言われた。


「嫌です。もう大体証拠も集まったでしょう。僕はミシェルのそばにいたい。最後の学園の日に好きでもないルシアといたくはないです」


「あと少しなんだ。卒業パーティーに一緒に出るとなれば男爵だけではなく公爵も油断する、頼む」



僕はミシェルへドレスを贈る事も出来なかった。  


ミシェルに言い訳もできずに僕はルシアと過ごす。


「ねえ、ライアン。卒業パーティー楽しみだわ。ドレスは貴方の瞳の色に合わせて青色を選んだのよ」


「ルシア、最後の卒業パーティーだ。楽しもう、好きだよ」


僕は心にもない事をルシアに言って愛を囁く。




放課後ミシェルが廊下を歩いて生徒会室へ行くのが見えた。

もう新しい代に代わっていたが、前生徒会のメンバーは今も仲が良くて生徒会室に集まっていた。


今日はまだ誰もいなかった。


ミシェルは生徒会室で一人泣いていた。


僕はミシェルを抱きしめたかった。

だけどルシアといる僕にその資格はない。


そして殿下が生徒会室に来た。


「ミシェル、また泣いているのかい?あの噂を聞いてしまったんだね」


「殿下、わたしが彼に何をしたと言うのでしょうか?彼はわたしを見ていつも不機嫌になって話すらしないで去っていきます。

いつもルシア様と居て、彼女が好きなら彼の方から婚約を解消してくれたらいいのにそれはしてくれません。

わたしを笑いものにして彼は満足なんでしょうか……」


殿下は泣いているミシェルをそっと抱きしめて頭を撫でていた。


僕は二人の前に出て、「違う!愛しているのはミシェルだけだ」

と叫びたかった。

でもずっとルシアを優先してミシェルには会っていない。

ミシェルに会ってしまうと全て話してしまいたくなる。

言い訳をしたい。でも一時期ルシアに気持ちが傾いたのも確かだった。



そして卒業パーティーでは、ミシェルのそばには殿下達が居た。


元生徒会のみんなも一緒にいたのだが、二人が一緒に居ることが気になって仕方がなかった。


自分はルシアとべったりと引っ付いて踊っているのにヤキモチを妬くなんておかしいのは分かっている。


でも、それでも、どうして殿下といつも居るんだ?と聞きたかった。

僕は君だけを愛しているのに……

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