第3話

実家の領地に住んで一年が経った。


子どもは生後半年になった。


名前を呼ぶとにこにこ笑顔がとても可愛い。


名前はウラン、お父様が付けてくれた。


首も座り寝返りも上手に出来る様になった。

まだ泣いて自分の意思を伝えることしか出来ないけどあやすと笑い、怒ると泣いて、わたしの言っている事がわかっているみたい。


可愛くて仕方がない。


殿下が来てからは、生徒会の仲間達から連絡が度々来るようになった。


わたしが扱っている商品を、自分たちの領地でも紹介してくれて販路を広げてくれた。


お父様も孫が可愛いのか、わたしに無理にライアンの所へ帰るように言わなくなった。


もちろんライアンから連絡すらない。


このまま自然に離縁するのは時間の問題だと思う。


どうしてライアンは、ルシア様と無理にでも結婚しなかったのだろう。

ルシア様は確かに男爵家なので爵位としては低い。


でもライアンならば嫡男で一人っ子なので無理を言えば彼の意志を通す事もできたはず。

わたしが結婚したのは侯爵令嬢だったから、彼の爵位と合うからだった。


もちろん我が家との政略ではあるが、両家はお金には困ってはいなかった。



わたしが侯爵家の子どもを産んで後継を残せば、ライアンはルシア様と再婚できる。


わたしはそんな事を思った酷い母親だった。


ウランを手放そうなんて今なら絶対に考えられない。

わたしは今頑張って資産を作り、離縁を申し出たわたしが支払わなければいけない慰謝料を貯めている。


お金が貯まれば彼に離縁状と慰謝料を渡して終わる。






「ミシェル……王都での噂を聞いたんだが……」


久しぶりにわたしに会いに来た生徒会副会長だったジョージが言いにくそうに話し出した。


「どうしたの?」


「ライアンのことなんだが………」


「ルシア様と何かあったの?」


「あくまで噂なんだが……その……二人で会っているらしいんだ」



わたしは笑顔で答えた。


「気にしないでジョージ。わたしは今離縁するための準備をしているの。

もう彼になんの期待もしていないの。この一年間彼はわたしに会いにも来なかったわ。

もちろんウランの事も知らないのよ。

わたしが妊娠した事もウランを産んだことも忘れているのかもしれないわ」


「まさか……僕たちはライアンとは付き合いがないから分からないけどそんな事ないと思うよ」


「ふふふ、いいのよ。

もうわたしの中で彼は過去の人なの。

これからはウランを一人で頑張って育てていかないといけないの。

だからジョージ達にも感謝しているわ。

少しずつ売り上げも上がってきて安定し始めたわ。

弱い立場の女性達に働く場所も提供出来るようになってきたし、もっと頑張って少しでもこの領地の人達が過ごしやすくなるようにしたいの」


「あんなにいつも泣きながら生徒会室に逃げ込んできていたミシェルが強くなったな、やっぱり子どもの力かな?母は強しだね」


ジョージはなんとも言えない顔をしていた。


「僕たちも出来るだけ力になるよ」

彼はそう言って帰って行った。








それから数日後、お父様とお母様がウランに会いに王都からやってきた。


「ウラン、元気にしていた?」


ウランを抱っこして幸せそうにしているお母様。


その様子をニコニコみているお父様。


あんなに怖くて無口だったお父様だったが、孫が出来ると変わった。


王都からまだ着ることが出来ないであろう大きめのサイズの子供服を沢山買ってきた。

まだ遊ぶことのない玩具やぬいぐるみ、絵本など毎回持ってきてくれる。


「おみやげをありがとうございます。でもこんなに沢山は使いきれません」


わたしが溜息混じりに言うと


「使わなかったものや多いと思うものはお前が始めた工房や商会で働く子ども達に使えるだろう。平民用のものも沢山持ってきた」


お父様はわたしが始めた仕事場の女性の子どもたちのためにと買ってきてくれたことが、わたしは嬉しかった。

わたしの仕事を理解してくれて応援してくれていると言うことだ。

少しずつ父との間にあった溝がなくなってきた。


お互いの意見を言い合って、より効率的に生産を行う方法を考えたり、いかに領民達の仕事を増やして行くか無駄をなくすか、話すことは沢山あっていくら時間があっても足りなかった。


ウランを育てながら工房や商会を運営していくことは大変だけどやりがいを感じて、ライアンとの暗い生活には、今更戻ることが出来ないと思うようになった。


ライアンと会わなくなって一年半が過ぎた。







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