第2話

ライアンと結婚して半年が過ぎた。


今わたしのお腹には愛した人の子どもがいる。


そう過去形だ。


彼は妊娠を告げると「わかった」と言ってわたしの部屋に来なくなった。


同じ屋敷に住んでいるのに会う事もない。


冷たい彼に涙する。


労わることもお腹の子どもを喜んでくれることもない。


彼はもしかしたら愛するルシア様に会いに行っているのかも……


ならばこの屋敷に居る必要がないのではないか、ずっと悩んでいたが、わたしは彼に手紙を書いた。


『実家で子どもを産みます』


そして屋敷を離れて実家の領地へ引きこもることにした。


王都から馬車で丸一日かかる港町のある領土は海産物に恵まれて海外との取り引きも行われ、とても豊かな領土で、実家は裕福な方だと思う。


ライアンと離縁したら、両家で行なっている国内販売ルートに多少問題が出るかもしれないが、子どもを彼に渡せば後継の問題は心配ないのだから、離縁しても実家の侯爵家に不利益はかけないだろう。


わたしは自分の幸せのためにこのお腹の子を手放す………つもりだ。


………そんな決心は、お腹が大きくなるにつれて簡単に壊れていった。


このお腹の子どもを手放して、彼にそしてルシア様に渡したくはない。


わたしは離縁してもこの子をなんとかわたしのそばに置いておけないか悩んだ。


お父様はわたしが利用価値が有れば離縁しても許してくれるはず。


身重の体だけど、わたしは砂浜に流れ着いた綺麗な貝殻を集めてアクセサリーを作ってみた。


少し手を加えてビーズや鉱山で採れた使えない屑石などを集めて髪飾りやブローチ、ネックレスを作った。

思った以上に可愛くて綺麗。


わたし個人の資産でお店を開き、お土産としても売れる安価な値段で町で売ることにした。


思った以上の評判で売上は好調だった。


投資した額は回収できている。


働く場所の少ない女性達を雇いアクセサリーを作る。そして販売する。


少しでも雇用を増やすことが出来る。

捨てるはずの物たちがお金に変わる。


お父様は、初めは渋い顔をしていたが、今はわたしが始めた商売を認め始めた。


しっかりと結果を出していけば、ライアンとの離縁も認めてもらえるかもしれない。

そして、もうすぐ産まれるこの子を手放さず育てることが出来るかもしれない。


わたしは、他の領地にも赴き、売れない形の悪い果物をジャムにして売ってみたり、女性目線で出来る商売を考えて、出来るだけ女性達に仕事を与えてあげられるようにと動いて回った。


刺繍の得意な女性を集めて工房を作り、斬新なデザインの刺繍で生地を作り、ドレス用の生地を売り出した。


王都の友人達に紹介してドレスとして着て貰うと、注文が増え始めた。



こうしてわたしの離縁するための計画は着々と進んだ。


子どもを産んでしばらく領土に留まっていたが、ライアンからは連絡すらない。


彼はもうルシア様と過ごしているのかしら?


このまま自然に任せていつの間にか離縁するのもいいかもしれない。


あの居場所のない地獄の屋敷に帰るのはもう嫌。


そんな時ロバート殿下が、わたしがいる領地へ視察に来ると連絡がきた。


忙しい中時間が取れたからと、わたしと赤ちゃんに会いにきてくれた。


「ミシェル、可愛い男の子だね、おめでとう」


「殿下ありがとうございます……ふふ、久しぶりですね。お元気にしていましたか?」


「うん、卒業式以来だね。君たちの結婚式の時は海外へちょうど行っていたから出席出来なかったしね」  


「ライアンに似ているね、これはライアンもたまらなくて可愛くて仕方がないだろうね」


「……………ソウデスカ」

わたしはどう返事をすれば良いのか分からず片言になってしまった。


「ミシェル、もしかしてまだライアンは会いにきていないのか?」


「産まれた事も知らせていません。向こうからは連絡もありませんし、もうわたしは必要ないのではないでしょうか……」


「君たちはまだすれ違っているのかい?そろそろお互い話し合った方がいいよ」


「一応離縁してもこの子を育てられるように準備はしています。だからそろそろ話し合いをしても大丈夫ではあるんですが………どう切り出したらいいのかわからなくて迷っているんです」


「離縁?どうして?」


「わたしと政略結婚した所為で、ルシア様と結婚できなかったでしょう。

わたしが子どもさえ産んでしまえば、この子を彼に渡して離縁出来ると思っていました。

でもお腹の子どもを手放すなんて、簡単に出来ないと気づいて、わたしは一人で育てるために商売を始めたんです。

今なんとか軌道にのりつつあるので、離縁しても育てられます。お父様も領地が繁栄するのであれば政略結婚も、もう必要がないと離縁の許可をだしてもらえると思うのです」


「君はあんなにライアンを愛していたではないか?」


「愛していました。でも愛されてはいませんでした」


「ミシェル、君は幸せではなかったのかい?……どうしても辛いのなら僕も離縁の協力はするよ。

元生徒会のみんなも君が幸せに暮らしていると思っていたんだ。

今度みんなで会おうよ、君の話も聞きたいしね」


「ええ、みんなに会いたい。わたしはライアンを愛するのに疲れました。

みんなに会えばまた元気を貰えると思います」



みんなとの再会を約束して殿下は帰った。






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