第13話 脅迫型フレンド申請

「そんなわけで、私たちは『黒コートファンクラブ』を設立します!」

「もちろん、千尋くんも歓迎するわ」


 休み明けに学校へ向かうと、お馴染みのように集まっていた日葵と佐那。

 佐那の推測を聞かされて、千尋は冷や汗をかいていた。

 二人は黒コートが身近に居る『誰か』だと予想しているらしい。

 ドンピシャである。


(ま、マズい……このままだと僕が黒コートだとバレるかも……)


 内心ではびくびくとしているが、そこは裏社会を渡り歩いてきた猛者。

 焦りを顔に出さず、ちょっとだけ困ったように苦笑いを浮かべた。


「あー、ごめんなさい。放課後は塾とかで忙しくて……」

「えー。千尋くんファンクラブに加入しないの?」

「仕方ないじゃない。無理強いをするものじゃないわ」


 これ以上、この二人に近づけば正体がバレる。

 心苦しいが、嘘を吐いてでも距離を置く必要があるのだ。


 日葵は不満そうにしていたが、佐那が説得。

 千尋はファンクラブへの加入をまぬがれた。


 その後、時間が進んで放課後。

 千尋が帰宅の準備をしていると、机に見慣れない紙が入っていた。

 メモ帳を破ったものだろう。猫の足跡のような模様があしらわれた、可愛らしい紙が入っていた。

 折りたたまれた紙を開く。


『放課後。屋上で待っています。とても大事な話があります』


 誰かからの呼び出した。

 千尋たちは午後に移動教室があった。その時に入れられたのだろう。


 しかし、心当たりがない。

 日葵や佐那なら直接言えば良い。

 他の人に呼び出される理由も思いつかない。


(もしかして、間違えて入れたとか?)


 告白を想像させるような文面。

 千尋以外の誰かを呼び出したかったのに、間違えて入れてしまったのかもしれない。

 そうなると無視をするのも可哀そうである。呼び出した彼女は、振られたと勘違いするのだろうから。

 間違えて入れてますよ。と教えてあげた方が良いだろう。


(とりあえず行ってみよう)


 千尋たちが通う学校の屋上は、本来であれば施錠されている。

 しかし、千尋が向かうと扉は呆気なく開いた。

 先に待っている誰かが開けておいたのだろう。


 屋上で待っていたのは紫髪の美少女。なんだか眠たそうな目をしている。

 千尋は彼女のことを知っていた。

 同学年の『四条しじょう彩芽あやめ』だ。

 佐那が転校してくるまでは、日葵と合わせて『学校一の二大美少女』と呼ばれていたらしい。

 学校一なのか二大なのか、よく分からない話である。


 目が合うと、彩芽は眠たげな眼を見開いた。

 そっと目を逸らす。なんだか気まずい空気が流れた。

 やはり間違えて入れたのだろうか。


「あの、僕の机に紙が入ってたんですけど……」

「……はい。入れましたから」

「……あれ、間違えて入れたわけじゃない?」

「はい? 間違えてませんけど……」


 どうやら、二人ともコミュ力にBADが付いているらしい。

 ぎこちない会話が続く。

 そんな気まずい空気に耐えかねたのか、ばっと彩芽が頭を振り下げた。

 千尋がドキリとする。これはまさに告白のシチュエーション。

 とっさに頭の中で、どうやったら相手を傷つけずに断れるかを考えてしまう。


「お願いします。私と――お友達になってください!!」

「え……お友達?」

「はい……私、友達が居ないんです……」


 こっちだって同じである。

 いや、最近は日葵や佐那と喋ることも多いので、もしかしたら友だちと呼んでも怒られないかもしれない。


「友だちに、なってくれますか?」

「いや、それは……」


 そもそも、千尋は彩芽のことを知らない。

 いきなり友だちと言われても難しい。

 千尋の微妙な反応を察したのだろう。彩芽の目が暗く輝いた。


「友だちになってくれないなら――」


 彩芽がポケットに手を入れた。

 まさか武器でも取り出すのかと身構えた千尋。

 しかし、彼女が取り出したのはスマホだった。

 もっとも、彼女は下手な武器よりも恐ろしい爆弾を持っていたのだが。


「千尋くんが黒コートだってばらします」


 彩芽が持っているスマホには、黒コートへと変身している千尋の映像が映っていた。

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