第45話 鏡に映る少女は何者なのか
私、水月鏡花は、恵まれている....そう周りから言われ続けてきましたわ。
眠ることができる、ふかふかのベッドがあって。
いつでも勉強することができて。
お腹が空いたら、お腹いっぱい食べることができる。
学校にだって普通に通えているし、将来も安泰で、何不自由がない生活でしたわ。
———それでも私は、恵まれている....とは思えませんでしたわ。
....ふかふかのベッドも。勉強も。食事も。通学も。将来の安泰も。
そんなものはなくてもいいですわ。
家族....それさえあれあれば、よかったんですの......。
私は、家族というものを全く知りませんでしたわ。
学校にいる時、皆さんが両親の話をするときに、想像することしかできなかった。
私が話す時も、想像で話すしかなくて.....。
どうして、家に。いつも一生の家にいて、話す機会があるのに、一度も話したことがなくて、空想のお母様やお父様を話さなければ、ならないんですの.....?
そう思い続けてきましたわ。
ある日、私は思い切って執事の国枝に打ち明けることにしたんですの。
国枝も、私をお母様やお父様が無視する理由はわからないと言われてしまって。
国枝には、「口を出すな」とだけ言われていたらしいんですの。
国枝は私を心配してきましたわ。
けど、私は心配されたくないんですの。
私は、私のことを褒めてくれる.....それだけでよかったんですの。
心配してくれるのは嬉しいけど........それは、私を決めつけている行為で癪でしたわ。
ある日、お母様が私と話をしてくれましたの。
お父様もお話をしてくれて。
家族というのは、こんな感じなんだと......知りましたわ。
もっと早く知りたかった....ですわ。
(ここは、筆圧が強くなっている)
あの日、あの日に。お母様とお父様は死んでしまった。
家で私は、ウキウキしていましたわ。
一緒に食事をする約束をしていましたから。
けど....お母様たちが帰ってきたのではなく、訃報が返ってきましたわ.......。
その瞬間、いてもたってもいられなくて...いつの間にか屋敷を飛び出していましたわ...。
なぜかいつもの公園にいて、ブランコに乗っていましたわ....。
そして、その日に康輔と出会いましたわ。
その日は最悪な日であり、最高の日でもありましたわ。
康輔と出会ってから、楽しいことばかりでしたからね。
でもそんな楽しい毎日でも。
嫌なことが一つだけありましたわ。
それは、いろんな人から、憐れまれることですわ。私は、憐れまれたくありませんわ。そんなために生きているんじゃないんですの。
お母様たちに、胸を張れるように。私は生きているつもりですのよ。
憐れまれるのなんて、願い下げですわ。
康輔に言っておきたい事がありますわ。
楽しかったですわ!!!!!
(筆圧が強い)
ー康輔ー
.....あいつ。
もしかして、自分が死ぬことをなんとなくわかっていたのか?
......ん?裏に何か書いてある。
それは、先ほどの綺麗な字とは打って変わり、殴り書きで書かれていた。
「もしかしてあいつ....あの時...中に戻ったのは、このため?」
俺はそれを読む。
ー手紙ー
あの男が後あと更生するとか、どうであれ、 今は康輔の敵なのは間違いありませんわ。私のことで、引き摺らないでくださいまし。
あの男を倒す時は、あの技....ですわよ
ー康輔ー
........................。
俺は、もう一つの紙を見る。
「.....っ!」
そこには、大きな文字で、
いつまで、鏡に映る私を見てますの
それだけ書かれていた。
あいつは抗っていたのかもしれない。
あいつがなりたかったのは、悲劇のヒロインじゃない。
あいつがなりたかったのは、勇敢なヒロインなんだ。
「鏡に映るものは、表面だけしかわからない。内面だけはわからない」
俺のせいで....なんていうものを鏡花に俺は押し付けていた。
鏡花は、俺を守ったことに誇りを感じていた。
それを守ってもらった俺自身が否定してはダメだ。
人というのは、他人に対して自分の勝手な思想を、考えを押し付けがちだ。
自分からしたら辛いことも、相手からしたら、普通のことで当たり前のことかもしれない。
俺らは、鏡花が親が死んで悲しいだろう、もう引きずってしまうはずだという勝手な考えで、そういう記事を作ったりしていた。
もちろんそれは悪意でやったわけじゃない。
しかし、人と人とで善意の価値観は違う。
俺が善意だと思ってした行為で他の人は傷つくかもしれない。
現に、そういう憐れんだような記事に鏡花は嫌悪感を抱いていた。
......本人が変わろうとしているのに、俺らみたいな部外者が引きずってどうすんだ。
「ありがとう。鏡花」
カーテンを俺は開ける。
窓から光が差し込んだ。
それは、鏡に映る一輪の黄色い水仙ではなく、実物の水仙を———照らしていた。
康輔の顔にはもう、絶望などというものはもう無かった。
とある本にはこのように記してあるという。
鏡に映る笑顔で優しそうな男性が、連続殺人鬼なのか、一般人なのか、貴族なのかは、わからない。それは接しなくてはわからない。
この世で最も恐ろしいのは、偏執だ。偏執は無慈悲だ。
———と。
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