第18話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 ひよ子から

 "お疲れ様、あとは任せて…"と

 意味不明な労いの言葉をかけられ

 なんの事だか さっぱり分からないまま…


 社長室から出てきた彼が私を

 会議室に呼び出した


 

 "今晩、ウチに来れる?"


 何だろう…彼の表情が…


 いつもと違うキス…

 胸のザワつきが取れないまま

 事務所に戻った



「あれ?」

 そういえば、てっちゃんの姿が見えない



「アミ!てつが研修期間終わって

 自社に帰ったって!」


 じんからの知らせ…



「あらま…(・д・。)」


 最後、挨拶も出来なかった…


 …でも、てっちゃんと再会したことで

 別れた本当の原因もわかって

 結構すっきりしている…

 もう会うことは無いだろう…



 今日も まさくんに べったりのひよ子…

 この光景に慣れるしかない…ε-( - - `)ハァ…



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 食材を買ったあと

 まさくんの部屋に着いた



 いつでも湯船にお湯を張れるように

 バスルームの掃除をして

 食事の支度に取り掛かる


 この部屋に通うようになって

 まさくんの生活リズムや

 どこに何が置いてあるのか…とかも

 わかるようになっていた


 何だろう…

 今日は、何をしていても

 心が落ち着かない…



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 "家に帰れば アミが待っている…"

 そう思ったら、一日の疲れも

 癒えるほどだったのに…

 今日は…苦しくて仕方ない…



 玄関のドアノブを回す手が

 少し震えていた



 ガチャ…


 

 アミの靴が揃えられている


 目を閉じて聞く…

「まさくん、おかえり!」


 この…アミの元気な声を…


「・・・・・ただいま」



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 帰ってきてから まさくんの様子が

 やっぱり…いつもと違う


 あまり会話をすることなく

 食事を済ませ

 食器を片付けようと立ち上がると

 まさくんが 呼び止めた



「アミ…」


「…ん?」



「許嫁の件・・・無かったことにしてくれ」


「……え?」



 血の気が引いていく感じ…

 何かに つかまってないと

 倒れるんじゃないかと思うほど



「どういう…こと?…」


 動揺しつつも、頑張って声を発した



 まさくんは、黙ったまま…


「なにこれ、ドッキリでしょ?…

 (;´∀`)…ァハハハ」



 私の顔を、じっと見つめ

 目を離さない…



 "まさくん…何を言ってるの?"

 "…何があったの?"



 どんなに目で訴えても…

 ずっと、見つめたまま…


 瞬きも出来ず立ち尽くしていたら

 目からは 大粒の涙が落ちてきた



「今朝、愛してるって…言ってくれた!!

 それなのに、どうして?…っ…」

 振り絞って言葉を放つ…


「・・・・・・」


「黙ってないで、何とか言ってよっ!!!!」


「ごめん……鍵…返して……」



 視線を落とし

 今度は 目を合わせようとしない



 ── まさくんは…本気で

  私と…別れる気なんだ ──



 何も反論しないまま

 言われた通り

 合鍵をテーブルの上に置いて

 静かに部屋を出て行った



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 どこをどうやって歩いて

 家にたどり着いたのか…


 覚えてるのは ただ

 人目を気にせず

 フラフラと歩いてたことだけ


 鉛のように重い体を

 引き摺りながら部屋に入った



 番号、消してやる…


 スマホを覗く…

 知らない番号の着信…折り返した



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「アミ?俺!哲!

 仁さんに、アミの番号聞いちゃった!

 あ、大丈夫!そんな頻繁に掛けないし!

 …研修期間終わって

 アミに挨拶もしないで

 戻っちゃったけど

 やっぱり挨拶したいなと思って

 電話したん…だ…っ……アミ?…」



 …元気だなぁ…てっちゃんは

 お礼、言わなきゃ…



「……研修お疲れ様!

 てっちゃん…色々とありがとね…っ…」



「おっ!てっちゃんって呼んでくれた!

 やっぱ、哲さんって呼ばれるより

 全然いい!!!

 …短い間だったけど

 アミと一緒に仕事ができて

 楽しかったよぉ〜!」



 哲の優しい声に涙腺崩壊…


「アハハ…っ…そっか…あぁ ごめん…

 それじゃ、お仕事頑張って!……」


 真っ暗な部屋…

 スマホの画面から放たれる淡い光でも

 涙で霞んだ私の目には 眩しすぎた…

 手で顔を覆った…



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 プーッ、プーッ…


「………アミ…」


 俺たちは…

 付き合ってた時期があったんだ…


 どんなに誤魔化しても

 泣いていたことくらい

 わかるよ…俺にも…


 "あの人絡み"…だよな…

 もう関係ないんだから

 俺も 放って置けばいいのに…



「また、泣かせやがって……」



 目を閉じて 記憶を辿る…

 哲は スマホを片手に自室を出た



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 柾國は アミを追いかけもせず

 部屋を出ていく後ろ姿も 見ないまま

 玄関ドアが閉まる音を聞いていた



「はぁ~…」

 ため息と一緒に

 ダイニングテーブルに額を打ちつけた



『どうして、こうなるんだ…?

 俺は ただ…アミと幸せになりたい…

 それだけなのに…』


 "アミを守るためなんだっ!"


『離れることで 守れるのか?』


 "じゃあ…どうすれば良かったんだ!?"


『ひよ子と付き合う気なんか無いのに…』



 無力な自分の中で

 愚かさと怒りが

 対立する



 すべてが虚しくなる…

 浅はかだった…


 自分がしてしまったことに

 これほどまでに 後悔するなんて…



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 帰ってきたまんまの格好で

 ベッドに倒れ込んだ…

 涙も、やっと止まった…


 年齢を重ねると 涙腺が緩むって

 聞いたことある…


「やだ〜、私も

 そんな歳ってこと?(´▽`*)アハハ」



 ピンポーン♬.*゚


 こんな時間に誰だろ?


 (゚∀゚)」[ドッキリ] テッテレー……

 まさくん…なわけないか…(​ *´꒳`*​)


 部屋の電気をつけ

 インターホンの

 ディスプレイに映る人物…


「…来てくれたんだ」


 怒る人は もういない



 玄関のドアを開ける



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



「懐かしいなぁ…模様替えした?」


 上から下まで ぐるっと見回して

 リビングに入ってきた哲


「大して替えてないけどね…ってか、

 あちこち 見ないでくれる?

 恥ずかしいから(´▽`*)アハハ」



 泣いていたのが バレてたかな…

 ちょっとの異変でも気がつく哲

 何食わぬ顔で様子を見に来るところは

 付き合ってた頃と変わってない



「よく覚えてたね、私ん家…

 さっきの電話の様子、おかしかった?」


「あ?まぁ…ちょっと気になって……」



「そういうところ変わらないね!

 優しいなぁ〜、てっちゃんは…」



 飲み物をテーブルに置きながら

 笑って見せた



「……部長あのひとと何かあったの?」




 ── もう、どうにでもなれ… ──




「ねぇ、てっちゃん…」


「ん?」



「私たち、やり直そうか…」


「えっ……」



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 翌日から、少しずつ

 私の周りも整理していく



 ランチの時間…


「は?…今なんて言った?∑(°∀° )」


 じんが目を丸くして驚いている

 …だよね、うん…わかるよ…

 この前、"部長と付き合ってる"って

 宣言したばかりよ…(´ー`*)ウンウン


 なのに、今日は…

 "部長と別れた…"だもん

 そりゃあ、驚くよ…


「…先輩、大丈夫?

 なんて声掛けていいのか…その…」


 しゅんも困惑している



「びっくりさせちゃったね…(*つ▽`)っ)))アハハハ

 さぁ~今日から、遊ぶよ!

 早速、今晩飲みに行く?カラオケ?

 あ、たまにボーリングどう?

 そだ!チムラ軒行こうよ!

 おじさん、元気かな〜(*´艸`)」



 何か話してないと、沈みそうで…

 無理やり元気なフリして

 盛り上げようとする とても可哀想なヤツ…



「無理するな……」


 仁が、私の弾丸トークを制止させる…

 だよね…痛々しいよね…

 自分でもわかってる



 事務所に戻れば

 相変わらず ひよ子のマウント取り

 


 "部長とひよ子、付き合ってるんだって"

 "嘘でしょ!…"

 "だって部長はアミさんとっ…"

 "シーっ!聞こえるって…"



 やっぱり ひよ子絡みか…

 心の中で、勝ち誇って高笑いでも

 してるんだろう…

 いつも以上にまさくんへの絡みがエグい


 別に弁解するつもりもない

 ひよ子は社長の姪だし

 前の会社から引き抜いてくれた社長には

 足向けて眠れないくらいの恩義は

 あるんだろうよ…

 


 もう、無の境地…


 転職しようか迷ってたあの時に

 辞めておけばよかった…

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