廃墟渡りのエルシエル

@hosizoranotabibito

第一章 破滅を誘う白翼

第一章 破滅を誘う白翼【1】


 少女が二人、深緑に満ち溢れた道なき道を進んでいた。

 そこは深い、深い森。


 近くの出身者でも立ち入らないそこを、草をかき分け、枝を払い、二人はただただ進む。

 時折顔に触れる蔓やら立ち込める草の匂いに辟易へきえきしたような素振り見せるが、ここしか 道が無いらしかった。


 いや、彼女達に元より道など無いのだろう。

 道とは何かを成す為のしるべである、使命持たぬ者には見える訳がなく、そも必要無い。


 二人の内、先頭を行く少女の名はエルシエル。汚れてくすんだ青い髪に、暖かさの感じられない緑目、大きさの合わないくすんだ服に、ぼろきれのようなブランケットを背負っている。

 まるで人生に疲れた浮浪者ふろうしゃのような出で立ちだが、年齢は驚くほど幼い。目測で十から十二といったところだろう。


 その後ろを追従するのは綺麗な黒髪をたたえた赤目の少女、名をリタと言う。

 フリルがふんだんにあしらわれたその衣装は一目で高価だとわかる上質な物だ、そこら辺の貴族が召しているようなドレスにも負けないだろう。


 そのような衣装で深い森に立ち入っている事に奇妙な印象を受けると共に、それに混じって何処か恐ろしげな雰囲気が感じられる。

 それは彼女の血の気を感じられない肌のせいもあるのだろう、その肌は陶磁器とうじきの様に真っ白でけがれの一つも感じさせないのだ、美しいを通り越して不気味ですらある。

 ぼろぼろの少女に、豪奢な服を纏った少女、極めてちぐはぐな二人組だった。


「エル、ここ以外に通れる道は無かったの? 植物の汁が私の服を汚しそうで嫌なのだけど」


 後ろを歩くリタが嫌そうに呟く、彼女の服装は上物だから気を使うのだろう。


「わからない、通れそうだから通った」

「はぁ、エルに先導してもらったのは間違いだったかしら。靴も汚れてしまったし……せめて袖だけでもまくっておこうかしら」


 リタは自らのドレスの袖口を掴み、二の腕の辺りまで引き上げて結ぶ。

 特筆すべきところはない至って普通の動作、しかし露になった腕は奇妙極まりない。


 雪のように美しき肌のその継ぎ目、人間で言えば肘や腕に当たる部分に明らかに異質な物があったのだ。

 その物体は丸い何かで、リタの腕の動作に合わせて滑らかに稼働している。

 それは、人の世では球体関節と呼ばれる物。人形に使われるそれであった。

 そう、彼女は人形なのだ。


「けれど。早くここから出たいわね」

「……あ、でられそう」


 彼女達は間もなくまともな道に出る事が出来た、足元に広がるのは土の色。苔むしていない地面だ。


「ああ、この感触よ。この感触は私の靴を汚さないから好きよ。さっきみたいなぐずぐずの地面は泥だらけになるから嫌いだわ」


 見ればリタの高価そうな靴は茶色に染まりどろどろになっている。

 こうなっては幾ら美しくともその価値を発揮しないだろう。


「エル、後で洗ってくれないかしら?」

「わかった」

「ありがとう。愛してる人に世話を焼いて貰えるなんて、幸せね」

 

 

 


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