『童話』のような……

朱空てぃ

氷のように冷たく

①10年前の約束

 10年ほど前、とある冬の日の出来事。


海斗かいと! 中学生になっても、高校生になっても、大人になってもずっとずーっと一緒にいようね!」

「うん! もちろんだよ、みのり。この雪だるまみたいにずっと一緒」


 2人で一緒に作っていた雪だるまを指さして、騎本海斗きもとかいとはそう言った。


 その雪だるまは、枝の手を繋げるように隣同士に2つ。仲良く並んでいる。


「うん!」


 海斗が指さした雪だるまを見つめて、真木まきみのりは嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。海斗もまた、冷たくなったみのりの手を握って、満面の笑みを浮かべる。


 笑い合う2人の白い息が空中で混ざり合って、霧散した。


 。。。


 現在、高校2年生になったみのりと海斗は、学校の帰りに家の近所にある公園で2人、あのころと同じように仲良く並んだ雪だるまを作っていた。


「海斗の雪だるま大きくて凄い!」

「でしょ? みのりの雪だるまはみのりと一緒でチビっちゃいよね」

「私はチビじゃないもん。女子の平均だよ!」


 小さい頃はみのりの方が高かった身長も、中学生の半ば頃からぐんぐん成長した海斗に追い抜かされ、今は20センチ近くの差があった。


「あはは。そうだっけ?」

「そうだよ! もー!」

「ごめんごめん。みのりは可愛いね」

「かっ!? ま、またそうやってからかうんだから!」


 昔なら笑顔で「ありがとう」と言えたのだが、今はただただ恥ずかしくなって、誤魔化してしまう。


 みのりは自分が平均的な顔立ちをしていると理解していた。周りにはみのりよりも可愛い子なんて沢山いる。海斗のそばに居ると、なんであの子と? と言う視線をひしひしと感じるのだ。


 それでも、みのりは昔と同じように海斗とずっと一緒にいたいと願っている。その頃のただ純粋な気持ちではなくて、海斗の事が好きだから。恋をしているからだ。


「別にからかってないよ」

「もう。そんなこと言って…。海斗みたいなイケメンに言われても角が立つだけだよ?」


 海斗はかなりのイケメンに成長した。学年でもモテモテなのを、みのりは知っている。


「嘘じゃないのに。ずっと一緒にいる俺の言うことを疑うわけ?」

「わかったわよ。もう」

「みのり。これから先も俺ら、仲良くいような」

「うん。もちろんだよ!」


 小さな頃のように手を繋ぐことは無いが、かわりに雪だるまの手を枝で繋げて、みのりと海斗はくすくすと笑い合う。


 今日もまた、2人の吐いた白い息が空中で混ざり合って、霧散した。


。。。


 また別の日。


「みのりー。進路希望の紙貰ったじゃん? どうする予定なの?」


 放課後、帰り支度をしていたみのりに海斗が近寄ってきて、そう聞いた。


 今日の朝に配られたばかりのプリント。みのりはちょうどしまおうと思っていた空欄のプリントを、海斗に見せた。


「決まってない。海斗は?」

「俺もー。でも進学はしようかなって思ってる」

「私も一応進学希望ではあるけど…やりたいことも無いし迷ってるのよね」


 出来れば大学でも海斗と一緒にいたい。そう思ってしまうみのりは、そんな考えじゃだめだ。と心の中で自分に言い聞かせる。


「多分、俺も今のみのりと同じこと考えてるよ」


 ふと海斗がそう言って、みのりは驚く。口に出したつもりは無いのに、なぜ考えていることが分かったのだろうか。


「嘘」

「本当。それに、約束しただろ?」


 テキトーな事を言っているのかと思いきや、海斗は本当に分かっていて言っているようだった。


 みのりと海斗の間でした約束は、ひとつ。


『ずっと一緒にいようね』


 だったから……。


(本当に同じことを考えたんだ…)


 みのりは急に照れくさくなって、誤魔化すように急いで教科書やノートを鞄に詰めた。そして立ち上がると、「置いてくよ!」と言って、海斗を急かす。

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