Side-〃:何の為に、覚悟を。
「そう言えば隊長、奥さん……っあいえ、くいなさんとヤンスさんは……来られてないんですか?
どうやら、第0の機体の中に……彼らの機体は見当たらなくって」
言い放った瞬間、隊長がそっぽを向いた。
でも、無視しようとしてるわけじゃない。上を向いて、何かに祈るように、見つめ続けている。
「彼らは……置いてきたよ。
僕のこの手で護れないのが……残念だけど。でも、安全なところに避難しておいてって言って、置いてきた。
それに、これは僕の……僕なりの『覚悟』でもある」
「覚悟……」
とは言っても、この人にはそれは備わっている。何度も何度も見てきたし、レイさんにだって何度も何度も教えられた。
それでも……
「もう、僕の側に彼らを置いておくわけにはいかない。
僕は、僕だけの全力を尽くす。彼らの、くいなの、未来の為に」
「でも、もう……
この作戦は、はっきり言って無謀としか言えなくて……私たちだって、死ぬかもしれないのに……
なのに、最後の瞬間だけでも一緒に———」
「最後?」
ポカンと、それはないだろ、みたいな感じで、隊長は目を見開いている。
「最後って……ああ、そうか。
いや———いいんだ。どこにいたって、僕たちは繋がってる。それだけで、十分だ。
いや……まあ、もし僕が死んだら、あと100年くらいは引きずったまま死んで欲しいと思ってるけど、それはそれとして……」
うんー? 重いぞー?
「でも……そうだな、リコにも教えておこう。師匠の受け売りだけど。
僕の師匠が言っていたんだ、『自分が負ける姿など想像するな。想像するのは、常に勝って、勝ち誇った自分だ。
そこから最適解を導き出せ。魔術も勝敗もイメージだ。イメージで負ければ、それは現実に影響する』って。
だから、これで最後じゃない。僕は生きて帰って、くいなとヤンスと、幸せに暮らしてやるんだ、って。
そう……思いたいな」
隊長は……いつもとは違い、こっちを向いた後に……ニコッと笑いかけてくれていた。
隊長……じゃない。多分、今は……センという一人の人間なんだ。
でも、そうだな。負ける、死ぬ、終わりだ、絶望だ。そんなこと考えてちゃ、意味がない。
私たちは勝つ。何があっても、絶対に生きて帰る。ここで途絶えさせたりなんてしない、絶対に。
そう、か……私の、最適解……か……
「そう言えばリコ、君はその……寝てた、そうだけど……多分、カスタムシリーズの説明は受けてないよね?」
「カスタムシリーズ?」
初耳だ。語感的にサイドツー関連かな。
「そう。僕たち第0のサイドツーだったり、その他一部のサイドツーには特殊な装備などが施されている、そうだ。
なんでも、『もう死ぬかもなんだし、この際試作装備を全部出しちゃおう』とのことで。
君のヴェンデッタ……いや、今はヴェンデッタ・ネオだったかな。それもカスタムシリーズの一つに数えられている……らしいが」
ネオ?
「今、なんて? ネオ? ネオとか言いました?
ねえ、あの、ヴェンデッタネオって何ですか? ちょっと? 隊長? 聞いてませんけど??」
「あ、ああ……そう言えば、そうだったね……
君が見てないのが不思議なんだけど、この1日の間で、ヴェンデッタ1号機は応急処置も兼ねて、改修された新たな装備、装甲が取り付けられた。
かつて1号機は重装甲のコンセプトの末に生まれたものだったけど、今回は2号機共々、汎用性に優れた機体に生まれ変わる。
だから、ネオ。生まれ変わった1号機、ヴェンデッタ……ネオ。
今は一部の旧装甲が破損してるため、完全な形ではない……けど、装備は追加されているはずだ」
「え、えぇ……」
それってまさか、私が寝てるうちにやってたってこと?! 事前説明すらなしに?!
……いや、私が気付かなかっただけで、応急処置の段階から新装甲は取り替えが始まってたのか。
それにしても新装備って……
「で、話を戻すよ。君が乗るヴェンデッタ1号機……もといヴェンデッタ・ネオは、サイドツー・カスタムドライにあたる機体だ。
まあ、僕たちのサイドツーだったりが、それぞれの戦闘スタイルとか、その他諸々の理由で改造されたとだけ覚えておけばいい。
……こんな重要な作戦前なのに、わざわざそんなことしないでほしかったけど」
隊長の意見ももっともだ。装備一つで戦い方だって変わるのに、まったく。
でも、やるべきことは……分かった。
私の最適解……勝利に繋がる道を見つけ出す為には。
「っ、隊長、ありがとうございました。
私……ちょっと、ヴェンデッタを見に行ってきます!」
「……ああ、分かっている。君に合ったものだといいけどね、ヴェンデッタの装備が」
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