Side-リコ:これのどこが機密なの

◇◇◇◇◇◇◇◇


「おっはようございま〜すっ!!!!」


 今度は私が、セン隊長の部屋に入り込む。

 気持ちは辛いのに、口から出てくるモノはやけに明るかった。


「……きっと、その挨拶が効くのは君だけだけどね、リコ。


 おはよう。……そして、一昨日はありがとう」


 センさんは機体の中じゃなく、この部屋にいた。姿勢良く椅子に座って、まるで誰かを待つようにその手をちょこんと腿の上に乗せている。


「僕があんなんじゃあ、君たちは戦えない。もっと……シャンと、することにしたよ」


「シャンとするって……っふ」


 そんな、どこか隊長然としていないセンさんのセリフに少し笑いかけて。


「しかし、どうやらそっちも同じらしいね。

 よかった、一昨日の君はどこか、こう……


 やっぱり、そういう陽気で……場の空気も考えず、ズケズケ入り込んできそうな感じの君だったら、君らしいよ」


「煽ってます?」


「ふふっ。いや、別に?……ただまあ、そっちの方が……きっとケイだって喜ぶと、僕は思うよ」


「そりゃあ……」


 そうだ。だってケイは……きっと、そんな私に惹かれたんだから。


 私だって……私だって!! あんなバカみたいに正直にズカズカ言ってくるところ!! いつも気弱なのに!! そんなところが———、




『あ、あの〜……脳内で勝手に惚気ってるところ恐縮ですが、バレバレです……』


「あ?」


 しまった。つい低い声で返事してしまった。

 ……え今の何? どこから聞こえたの、今の女の声?


「はっ?!」


 部屋の隅……そこにさも当然のように転がっていたのは……羽?


『あー……そうでしたね、確かにわたくしと貴女様は初対面、自己紹介から入るべきでした。


 私はコック。機巧天使———コックでございます』


「??????」


 機巧天使って何———ああいや、ヴェンデッタの説明の時もその単語だけは聞いたけど。


 でも、そうやって真顔で、しかも棒立ちで寝転びながら言うのやめてくれない? 笑いを誘ってるようにしか見えないんだけど。


「そっか、リコは初対面か。


 と言ってもアレだよ、コックさんだって……魔王との戦いで世界を救ったあのパーティの一人だし……別に信用できない、なんてことは……ないよ、多分」


 違う違う!! センさんのフォローはまあ分かるとしても、今この人(?)、私の心とか読んだよね?!


『はい! 実は私、人間やら魔族やらの心を読める機能が備わっていて———』


「まだ口にも出してないのに返答しないでよ!!……はーーーっ、ビックリした……ホント……」


「ははは、無理もないよね、そりゃあ……」


 ま、まあ……なんか、人の心ですらも読める、人智を超えた誰かさん……で覚えとけばいっか……


「ちなみに機密扱いだから、口外はしないでね、コックさんを見たこと」

『はい! 私…………キ・ミ・ツ……♡です!』


「これのどこが機密なの」

 


 それはそれとして、私は気になってることがあるんだった。


 隊長の部屋に来たのは単純に出来心だけど、部屋に来て、新たに気になったことがあるんだった。


 ……ヤンスさん? と、くいなさん? は……どこに……?

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