終われない

「はっ……はぅう、ぅうぅぅぅぅうぅ…………っあああああああああああっ!!!!


 どうしてなんだよぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおおおおっ!!!!」




 もう、無我夢中だった。


「なんで……なんで君が———ショーゴがっ! 死ななきゃっ! うぅっ!」


 しかし敵は迫り来る。ヤツの———ショーゴの仇とも言える例の砲台も、すでに後ろに見え始めている頃だった。


「そんなの……あんまりだ……そんなのってないよ、だのにぃっ!



 ———っはっ」


 その時、僕が見つけたのは、武装一覧に入っていた———クラッシュの魔力大砲であった。


「……ねえ、そんな……そうなのか……


 これを形見にしろとか……そんなくだらないことを、君は言うつもりだったのか……ショーゴッ!


 ……ねえ、なあ、答えるなら答えてくれよ……どうなんだよ、ちくしょうっ、どうなんだよ、ショーゴッ!」


 それでも前には進み続ける。

 ……いいや、進まないとダメなんだ。ショーゴが、あそこまでしたのだから。


 ———でも、何で……っ。



「ちくしょう……何で……力…………

 僕に……力が、あれば……


 ……そう、だよな———ヴェンデッタ…………っ」


 アレがあれば、ショーゴは救えたはずだ。あの圧倒的な力があれば、何もかも救えたはずなんだ。


 そんな、もう叶うこともない夢想に想いを馳せ。しかし、そんなものに意味はないと分かりながら。


「———っっ!!」



 一瞬のみ、左に伸びた光の線。

 それはその軌道のブレを集中しつつ、ラヴエルの後方画面の中心に据えられた。


「まず……っっ!!」


 そう、そこに伸びていたのは青白い光の糸。

 瞬間、僕は死を覚悟した。





 死を覚悟———そんなモノなのだろうか。

 そんなやわなモノじゃない。


 唐突に目の前に巨大な『死』の一文字が迫って来たかのような、そんなあまりにも突然すぎる死の結果。


 ポツポツと頭に浮かぶ、自らの体の惨状。


 もうこの時点で、僕の心は完全に貫かれ砕かれていた。


「———いやだ」


 青白く染まりつつある視界。

 何故だかどこか、心の底から熱くなってくる胸焼け。

 死へ向かう不安と焦燥。そして———。





 ———でも。

 まだ、終われはしなかった。



「い…………いやだぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」



 だって、僕は———ショーゴに……っ!



「ちくしょぉぉぉぉおっ!」


 文字通り、スラスターを急に吹かしクイックブーストをかける。

 その一瞬が、気の遠くなるほど長く思えてくる。


「おおおおおおっ!!」


 風を切るような、そんな神力光線の甲高い音が隣接する中。



 もうダメだ、と誰もが諦めた、この一瞬。

 誰もが諦め、誰もが乗り越えられなかった、この照射の瞬間。


『僕だけは違うんだ』と、確固たる決意と意識を胸に。




「———っ、ハア、ハ……フウ……ハァ……」


 抜けた。


 黒く染まった星空を、下から明るく照らす神力光線の青白い光は、もはや既に僕の頭上を通過していた。


 機体損傷……なし。

 諦めないと叫んだ心が、ようやく奇跡を手繰り寄せた。







『こちら第0機動小隊指揮官機よりコーラス7! 2機行動していたコーラス6のマーカーが消えたが、一体何があった?!』




「新種のアレ……から狙われました、神力光線でコーラス6は———」



『………………なるほど、そうか。




 ———失った、のだな』




「……っ……うっ、っふ……っ……」







 ……守れはしなかった。


 今まで、僕が、僕の手で、守るはずだったのに。



「———ちくしょう」


 ヤケになって吐き捨てた。

 


 ……全く信じられなかった。

 ついさっきまで、本当についさっきまで、僕は話していたはずなのに。





◆◆◆◆◆◆◆◆





 新王都周辺。

 既に土塁や氷魔法などで即興の壁が形作られていた。目に見えるモノとして、防衛線を見たのは初めてだ。







 結局、前哨基地の者ら含め全員が撤退した。

 撤退行動に出て殺された者もいるが、戦力の保持のための撤退としてはかなり良い成果を上げたと言っても良い。



 現在はここより東に6キロ地点からこちらに突進してくる神話的生命体を迎撃するために、各部隊が各々の準備を整えている時間でもあり、僕たちにとっては、作戦によって生まれた心の隙間を埋めるような時間でもあった。




『損害確認、死者……本小隊は現在、4名にまで留まっている。


 ……初陣だと言うのに、2万もヤツらの数を減らすどころか、ここまでも被害を抑えるとは、全くよくやってくれたものだ』


 死者———もはや思い出したくもない。




 あんな簡単に、そしてあんな唐突に人は死ぬんだ、そして僕も例外じゃない……と。


 そう分かって、実感してしまった時の圧迫感、そして生き急ぐような焦燥。


 そして、そんな気持ちが常時渦巻く戦場に、もう一度行かないといけないという事実。

 またあんな気持ちを味わわなければいけないのかという悔しさ。



 ———僕に力が無かったから、アイツは死んだんだ。

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