葛藤———断切

『コールサインは分かっているな?


『コーラス』の後に自機ナンバーだ!……コールナンバーをまだ把握していない者は、レーダーに表示されてる自機マーカーから自機のナンバーを確認しておけ!』



 覚えている。7番だ、僕は。

 呼ばれる時は『コーラス7』で呼ばれるのだろうか。初めてだから本当にその認識で合っているのか不安になる。


『味方機のコールサインも同様だ。コーラスの後に味方機のナンバーを付けて呼べ!』


 そう言いつつも、既に教官は着地しており、もうすぐにでも敵を迎撃するための準備を済ませていた。


『コーラス1、2は私と同じく前衛だ、できる限り前で食い止めるぞ。コーラス3~10は右翼、残りの者は左翼で討伐を行え。……全機散開、鶴翼かくよく陣展開っ!』


 その教官の合図に合わせ、サイドツーの群れは1機、また1機と分離していく。……僕はコーラス7、つまり右翼防衛だ……!



「やってやる……やってやるぞ……っ!」

 

 反動制御とかはっきり言って何も分かりはしないが、今はただ眼前にて押し寄せるばかりの敵———神話的生命体を殺すのみだ。


「おあああああっ!!!!」


 操縦桿のボタンを人差し指で押し、トリガーを引いた瞬間、目の前の敵が血しぶきを上げて完全に静止する。


 そのまま撃ち続けると、勝手に突っ込んでくる敵は全て銃の餌食にされ、その鋼鉄を貫かれて即死する。


 変化したヤツらの身体機能がどうなっているかは知らない。だけど、正面からでも撃ち続けていれば殺せることだけは確かなんだ。


『……こちらコーラス6、右翼……っ、誰か……来てくれ、数が多すぎる……!』



 無線にて突如聞こえた、掠れ気味の声。……ショーゴか、これ?


 もう突破されそうなのか……!

 コーラス6は……あった、僕の左斜め前方だ。

 行くしかないと思い、すぐさまスラスターを吹かす———と。


『コーラス7! 勝手に持ち場を離れるな!』


 銃声に紛れて聞こえる教官の声。

 ……でも、それはおかしいと反論せざるを得なかった。



 

「助けを必要としています、誰かが行くべきです!」


『……馬鹿か、自らの使命も果たせんようなヤツなぞ、切り捨てて当然! 貴様は自分のことだけに集中しろ!』


「この僕に見捨てられると思ってるんですか?!」


『見捨てなきゃならないんだ、勝手に行くんじゃない!』




「———そう言われて、仲間の窮地きゅうちを切り捨てられるわけがないだろう……!」


 もはや命令違反と言われても構わない。

 それでも、すぐ近くに———手の届く範囲に、困っている人がいるのだから、手を伸ばさないわけがない。




『コーラス7……あの大馬鹿者が……っ、右翼各機カバーに回れ、そっちの馬鹿が独断専行し始めたぞ!』


『はいは〜い、大馬鹿者1、大馬鹿者を追いま〜っす!』


『違う貴様が行くのはカバーだコーラス2っっ!!』


 ……騒がしいな。




 見下ろした6番機……サイドツー・クラッシュは———まずい、もう既に囲まれている……!


 あの銃撃における手数が多いクラッシュでも、こうなるのか……!


「コイツでどうだぁぁぁぁあっ!」


 リロードはしてないけど、それでもひたすら撃ちまくる。もちろんすぐに弾は切れるが……


「ならば———長刀で!」


 銃を背面のガンマウントに置き、同じく背面から長刀を取り出す。長刀が『装備武装』の一覧に入った瞬間、タイムラグを無くすために右腕の操縦桿がドッと重くなる。


 ……関係ない、腕がはち切れてもここでやるしかないんだ!


『コーラス7———ケイ、お前なのか!』


 そんな声にも耳は傾けない。

 長刀を振り下ろしながら、クイックブーストを利用して、攻撃した瞬間に後退するのを繰り返す。


 推進剤の減りは速くなるが、一番効果的な戦い方はコレだろう!


「死ねえぇぇぇえっ!!!!」


 接近し、斬り落として、一瞬のうちに前にブーストして後退する。

 僅か数瞬の攻防、しかしここまで順調だ。


「コーラス6! 体勢は———」


『あ———すまねえ、ケイ……助かった!』


「そっちはもう任せるよ!」


『ああ、お望みの通りにブチ飛ばすぜ……っ!』


 

 自分の方に戻ろう、…………終了後に命令違反でこっぴどく叱られるな、こりゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る