幻想機動天使 ヴェンデッタ・ゼロ

月影 弧夜見

第1章:本当の旅立ち

襲来、そして崩壊

プロローグ/唯一の僕の取り柄。

 ———魔王は、死んだ。





 AGE18604。太陽暦、2804年。


 30年もの長い間続いた、人類と魔族の戦争は———魔王の死という形で、一旦の決着が付いた。


 そう、それはたった1年前。『しろ』と名乗る一人の勇者が、魔王との一騎打ちの末にこれを撃破。その報が伝わったことにより、あっさりと魔王軍は戦いをやめてしまった。


 その後、西大陸における人間の王である『人界王』と、魔族側での代表者による和平条約が締結。一部の魔族に関しては、西大陸東部の人間界への受け入れも進んでいた。


 やはりと言うか当たり前と言うか、そんな魔族に対する風当たりは強く。それでも今のところは、とりあえずは平穏な日々が流れていた。



 そんな中つい半年前、『東大陸』という大陸より、ある技術が流入した。


 それは、東大陸で起こっていた戦禍の中に生まれた産物。人類の業と可能性を秘めた、魔術に代わる新たなる兵器。


 その名を『汎用人型機動兵器サイドツー』。人呼んで『サイドツー』と名のついた、人が搭乗して操ることのできる人型の機械であった。





 ———今までの魔族との戦争において、人類も魔族も、互いに生身での戦闘を繰り返してきた。


 最初の頃は弓矢などを使っていた人間側も、魔族側に適応するように魔術を使い始め。


 互いに魔法が飛び交う戦場は、流れ弾でも飛んできたら即死……と、なかなかに酷い有様だったという。


 ……が、もうそんな時代は過去のものとなりつつある。


 もはや体を晒す必要すらないのだ。合金でできた、より強固な装甲サイドツーを纏い、それを用いて戦闘を行えばよいのだから。


 故に起きたのは、大規模なパラダイムシフト。常識の転換であった。


『下手な魔法使いなんてサイドツーに乗せた方がマシだ』などと言われ、突出した能力のないかつての冒険者たちは、サイドツーに適応できなければその身を追われたのだ。





 魔王軍戦争以降、人界軍はロクに戦争をしていない。例の『戦争続きの大地』とも称された東大陸の国々『トランスフィールド』とも戦争をしてるわけじゃない。ただの友好関係だ。


 なのに、何でここまで戦力を増強したり、サイドツーの適性がない人を追い詰めるような風潮があるのかなんて、僕にはよく分からない。


 もちろん、未攻略のダンジョンを攻略し、その全容を明らかにするため……ってのは聞いたけど、きっとそれだけじゃない気もする。



 だけど…………下手な魔法使い……コレはまさに僕のことを表していると言っても過言じゃない。


 無論、僕も世界に合わせて勇者の役職についていた。ジョブシステムで振り分けられた役割は『魔術師』。


 ……だったのはいいものの、僕の魔術は相当下手なものだった。どころか、別に運動能力も突出して高いわけでも、判断力などの知性の面において優れているというわけでもない。


 僕は、つまるところ何の取り柄もなかったんだ。


 僕には師匠がいた。魔術の師匠、この人間界においても随一と名のついた、おそらく最強の魔法使い———『サナ・グレイフォーバス』という師匠が。


 ……が、そんなサナさんにいろいろ教えてもらってはいても、やはりそこまで上達することはなく……いつまでも僕は、底辺冒険者のままだった。





 …………だからこそこの転換はにとっては好機だったのかもしれない。




『搭乗ライセンス承認、仮想LOGIC OS、起動確認。サイドツー・ラヴエルモデル・シミュレーター、システム起動。



 搭乗者———記名未登録』


 それは、初めてそのサイドツーとやらのシミュレーターに乗った時のこと。



 意味の分からない単語ばかりが並び、意味の分からないものばかりが画面に表示された。僕にとってその経験は、本当に何もかも意味が分からないものだったけれど。



『おおおおおおお〜?!?!』

『スコア288?! コイツすげえな!』

『お前やるじゃんかあ! なあ! なあお前、名前なんだよ!』


 でも、何だかすごかったらしい。

 僕はシミュレーターに搭載されていた『トライアル』をやり切ったまでであったが、周りから飛んでくるのは賞賛の嵐。


「僕…………の、名前……ですか?」

『そうだよ! 一度聞いときたいんだ、お前なんて言うんだよ?』



 でも、この時初めて、何もなかった僕に何かが生まれた気がした。


 何をやってもできない。難しい、厳しい、人よりは遅れている。


 誰の役に立つこともなく、なんらかの趣味すらなく。自分のためにも、他人のためにも、とにかく人のために生きることができず。


 突出しているものもなく、僕のプライドなどと言うものはそもそも存在すらしなかった。


 はずなのに。なのに僕は、ようやく———。


「僕の名前…………は、ケイ。

 ケイ・チェインズ…………です」


 ようやく、この落ちこぼれの名前に、誇りが持てたらしいんだ。

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