第99話 魔導騎士
孤立したエメラルダス軍の兵士達。彼らは魔王軍によって分断された生き残りだった。10名ほどいたはずの兵士は残り2名。彼らは背中を合わせるようにお互いを守っていた。
「こ、コイツら……強すぎる……っ!?」
「怯みもしないなんて……」
彼らを取り囲むのは魔導騎士達……魔王軍によって連れ去られたブリジットの仲間達。意思を持たず、決して怯えず、命令に従いひたすら殺戮を繰り返す彼ら。
魔王軍によって赤と黒に塗り替えられたその鎧の姿にエメラルダス兵士の2人は完全に戦意を喪失していた。
「ギギ……ッ!」
魔導騎士の一体が剣を振り上げ兵士へと襲いかかる。
「ひっ!? もうダメだ!?」
その切先を、
「な、なんだ……?」
「生きてる……」
「2人とも、退路は作っているであります! 早くアルバート殿の元へ!」
剣を止めたのはもう1人の鎧騎士。色以外は敵と全く同じ姿。そんな騎士が自分達を守ってくれたことに2人は困惑した。
「早く!」
「あ、ああ!」
「ありがとう……っ!」
駆け出して行く2人。彼らを見送った鎧騎士——ブリジットは再び斧を構えた。
「ギ……ギギ……」
「ギギギ……」
「ギギ……ギギギ」
前方には無数の魔導騎士達。彼らのヘルムに赤い光がビカリと灯る。
「仲間達……もう
ブリジットがチラリと視線を送る。その先では、ジェラルドとレウスが魔導列車に辿り着こうとしている姿が見えた。
「だから……ジブンが止めるであります! これ以上殺させない!! その為にジブンには意思があるであります!」
「ギギ!!」
「ギギギ!!」
魔導騎士達がブリジットを敵だと認識する。そして、2体の騎士がブリジットへと襲いかかった。
「うおおおおおおお!!」
大斧を薙ぎ払い、2体の魔導騎士を吹き飛ばす。しかし、騎士達は吹き飛ばされるだけ。人形のように大地を転げ回ると、再びブリジットの元へと駆け出して行く。
「ふふふ。傷一つ付かないなんて……魔王軍に強化でもされたでありますか……だけど」
ブリジットがギリギリと斧を握り締める。
「その方が好都合であります!!」
ブリジットが斧
再び起き上がる魔導騎士達。襲って来る新手。ブリジットはなおも怯まず、向かって来る新たな魔導騎士達を斧で叩き伏せた。
6体、10体、14体、20体……ブリジットを襲う魔導騎士の数が増えて行く。
「ぐっ!?」
1体の魔導騎士の攻撃がブリジットに直撃する。一瞬怯んだ隙に大量の魔導騎士がブリジットへと襲いかかる。
「ぐああああああっ!?」
床へと叩き付けられるブリジット。蹴り飛ばされる斧。
魔導騎士達は剣を突き刺さうと何度もブリジットへ振り下ろした。ブリジットの鎧が剣を弾き、ガリガリと金属の擦れる音が周囲へこだまする。
「う、あああああう……まだ……っ!」
「ギ?」
「まだだああああ!!」
目の前にいた魔導騎士を掴み大地へと叩き付けるブリジット。彼女は、そのまま別の騎士を掴み投げつけ、さらにもう1体を蹴り飛ばす。
「うおおおおおあああ!!」
視界の隅に、大地に転がった大斧が目に入る。そこへと飛び込み、彼女は再び斧を振りかぶった。
「はぁ……はぁ……覚えたばかりの新技を見せてやるであります……」
ブリジットが腰を落とし、大地を踏み締める。彼女の人ならざる力が大地にバキリと亀裂を入れる。彼女の鎧がその力に悲鳴をあげるようにメキメキと悲鳴を上げた。
「ギギギ!!」
「ギギ……ギ!」
「ギギギ、ギギ!!」
彼女へと向かう無数の鎧騎士達。そんな彼らへ向かってブリジットは新たな|斧
「
ブリジットの全ての力が解放される。大地へめり込んだ足から全身へ、そこに生まれた捩れと回転のエネルギーが爆発し、大斧が真空の刃を纏う。真空の刃によってさらに巨大となった斧の刃が、ブリジットの力によって薙ぎ払われる。
それは王都襲撃を知ったブリジットがこの数日、必死に習得した新技。技の少ない彼女がようやく辿り着いた奥義。
それが今、大量の魔導騎士達に直撃する——。
「頼むでありますよ仲間達! みんなの防御力を信じるであります!!」
「ギギッ!?」
「ギィッ!?」
「……ギァ!?」
真空の刃で絡め取られた魔導騎士達が吹き飛ばされる。
「な!? 魔導騎士達が!?」
「逃げ……っグアアああ!?」
それは、周囲の魔族達をも巻き込む。吹き飛ばされた者が新たな犠牲を生み、戦場に扇型の空間を生み出した。
「ギギ……ギギ……ギゥ……」
魔導騎士達が動きを止める。彼らの強化された鎧は、傷こそ着いていたものの、破壊までには至っていなかった。
「はあぁぁ……良かったであります。仲間を殺さなくて済んだでありますぅ……」
戦場にポカリと空いた空間でブリジットが空を見上げる。
「今だけは、魔王軍に感謝でありますなぁ……」
混乱広がる戦場の中、彼女の一言は空へと溶け込んでいった。
◇◇◇
「いたぞ! 魔導書を持った魔族!」
ジェラルドが魔族の尖兵を蹴り飛ばし、魔導列車へと飛び移る。彼が上部へと移るハシゴを登っていると、魔法によって宙を舞っていたレウスがフワリと魔道列車上部へ降り立った。
「分析官のネイドルです。電撃魔法を操る魔導士でもある」
彼らの視線の先で、ネイドルが魔導書を掲げる。すると、6体の魔導騎士がギラリとジェラルド達へと狙いを定めた。
「護衛か……レウス。俺は真っ直ぐネイドルってヤツへ向かう。援護頼むぜ」
「分かりました」
ジェラルドが速度、回避、攻撃上昇ポーションを飲む。切れかかっていた強化魔法の光が再びボワリと全身に灯る。
ジェラルドが軽く飛び跳ね、首を回す。
「使うとすれば
ジェラルドがブツブツと何かを呟く。
「大丈夫ですか?」
「ああ。アイツの懐に飛び込めばイケる。信じてるぜレウス」
言うと同時にジェラルドが走り出す。レウスはため息を吐いて、その後を追った。
「ギギ!」
「ギギッギ!!」
「ギ……ギギッ!!」
ジェラルドに魔導騎士達が遅いかかる。そんな隙間を縫ってジェラルドは地面へと滑り込む。
「
レウスの右手に黒いオーラが現れる。巨大な手のような形となった重力魔法は、ジェラルドの頭を掠め3体の魔導騎士を捕らえた。
「っぶねぇ!?」
「援護しろと言ったのは貴方です」
ギリギリと鎧に圧力がかかる音。捕えられた魔導騎士達は重力のオーラから逃れようともがくが、ただ苦しむような声を上げることしかできない。
「ギギィ!?」
「ギギギギ!?」
「ギゥ!?」
「邪魔です」
車乗から放り出される魔導騎士。彼らは叫び声のような物を上げながら戦場へと落ちていった。
ジェラルドが再び前方へと視線を向ける。そこでは焦ったネイドルが電撃魔法を放とうとしていた。
「私の重力魔法ではあの魔導書ごと潰してしまう。魔導書の奪取は任せましたよ」
「ああ。次にやる時は魔導騎士1体残しといてくれねぇか?」
「……? 分かりました」
「おし。じゃあ……行くぜ!!」
ジェラルドが走り出す。それを追ってレウスが空を舞う。
「ギギ!?」
「ギィ!!」
「ギィギ!」
再び遅い来る魔導騎士。その内の1体をジェラルドが切り飛ばす。
「オラぁ!!」
「ギッ!?」
蹴られた魔導騎士がジェラルドに標的を定め追いかける。それに呼応してジェラルドのスキル「にげる」が発動し、走る速度を急激に引き上げた。
「しゃ! 後頼むぜレウス!」
「ギギぃ!!」
「何という間抜けな絵面だ……」
レウスが呆れる中、ジェラルドとそれを追いかける魔導騎士は真っ直ぐネイドルへと向かって行った。
◇◇◇
「クソ!? なぜ当たらん!?」
ネイドルは焦っていた。手にした魔導書は、魔導騎士を操作する為に必要な物。それを守る為に魔族達がひしめく
「うおおおあああああああああ!!」
「ギギキギギキギキギキキイィィ!!」
魔導騎士から必死の形相でにげるあのような男が。
しかも。
「
「うおあああああぶねぇえええあ!?」
「ギギキギギキギキギキキイィィ!?」
高速で走る男に当たらないのだ。何度魔法を放ってもものすごい速度で回避して向かって来る。
ネイドルは、ジェラルドのその姿に恐怖を覚えた。
「そ、そうだ! 魔導騎士を呼び戻せばっ!?」
魔導書が光を帯びる。
「ふはははははは!! 魔導騎士が戻れば貴様なぞ!」
しかし、シンと静まり返るだけで戻って来ない魔導騎士。
チラリと戦場となったホームに目をやるとポッカリと空いた扇状の空間。そこに倒れ込む騎士達……ブリジットが倒した魔導騎士達が目に入った。
「何ぃ!?」
「貰ったあああああああああ!!」
「ギギキギギキギキギキキイ!!」
ジェラルドが懐から
眩く輝く鶏の模様。溢れる光。
逃走回数254回。
最大まで蓄積されたガルスソードⅢは通常のガルスソードの一撃と同じ威力を発揮する。
「ぎゃあああああああ!?」
電撃のような衝撃がネイドルの全身を駆け巡る。魔導士として体力の低い彼は、その一撃で光となっていく。
意識が消える最中、彼は思った。
「なぜこんな間抜けな死に方を……」と。
―――――――――――
あとがき。
次回、ロナとイリスの一騎打ち回です。
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