第33話 勇者 対 豪将

「行くぞ!!」


 突撃したヴァルガンが槍を叩き付け、それをロナが受け流す。流された攻撃は空気を切り裂きロナのほおへ一筋の傷を付けた。



「どうした? お前が死ねばここにいる全員を殺してやるぞ」



 ヴァルガンが高速で槍を突き出す。それを避けながらロナの瞳の赤色が輝きを増す。



「あの男は八つ裂きにしてやる。魔導士の女はモンスター共の餌、鎧騎士は叩き潰してゴミにしてやろう」



「そんなこと……させるかぁ!!」



 ヴァルガンの攻撃の一瞬の隙をついてロナがその顔面を殴り飛ばす。


「ぐっ……!?」



 後方へとヴァルガンが吹き飛ばされる。



「ぐおおおおおお!!」



 地面へと槍を突き刺し、吹き飛ばされる勢いを殺すヴァルガン。



「ははは! やはり貴様の力の源泉はそれ・・か!」



 着地と同時にヴァルガンが槍を振り回す。体全体のバネを使い、槍をロナへと投擲とうてきする。



螺旋突風撃らせんとっぷうげき!」



 放たれた槍が周囲の風を巻き込み、巨大な暴風へと成長し——その暴風がロナを飲み込もうと襲いかかる。



 ロナが肩にルミノスソードを担ぐ。剣の根本に付けられた宝石、ベニトアイトの青い光がロナに呼応するかのように脈動した。



「ルミノスソード。僕に力を貸して……アイツの技を破るだけの力を」



 彼女が力を解放し、ロナの全身を禍々まがまがしいオーラがおおう。



「真正面から破ってやる……っ!」



 暴風となった槍がロナへと直撃する寸前。


 ロナがルミナスソードから斬撃を放った。



「うおおおおおお!!」



 ヴァルガンの暴風が、真っ二つに切り裂かれる。切られた風は大地へ深い傷跡きずあとを刻み込んだ。


 吹き飛ばされた槍は回転しながら空を舞い、大地へと突き刺さる。



「この一切の技も使わずに……か。はは」



 天を仰いだヴァルガンは、笑い声を上げた。



「わ、技を破られて笑っているであります……」


「ヴァルガンは武人だぜ。強いヤツと命を賭けた戦いをすることにのみ喜びを感じるはずだ」



 ジェラルドがエオルを見る。ヴァルガンの死角へと回り込んだエオルは、炎によって雷雲を作り出していた。



「まだ準備には時間がかかる……か」



 何かを言うようにブリジットを見るジェラルド。騎士は、その意図を察してコクリと頷き、駆け出した。



 その様子に気付くことなく、ヴァルガンは「武装召喚ヴォイドウェポン」の魔法を唱える。



 彼が空中にかざした右手に新たな槍が現れた。黒い鋼で作られた槍。剣と見間違えるほどの切先を振り回し、再び槍を構えた


「ハハハハハ! 良いぞ娘……いや、今は『勇者』と呼んでやろう!」



 ヴァルガンが槍の切先をロナへと向ける。



「オレに生きる実感をくれ」



 ヴァルガンがロナへと突撃する。



「死ねええええぇぇぇ!!」



 槍を薙ぎ払うヴァルガン。ロナはマントをなびかせ舞い上がり、技を放つ。


「エアスラッシュ!」


 ルミノスソードから風の斬撃が放たれる。


「効かん!」


 それをヴァルガンは素手で止め、力任せに斬撃を砕いた。



「くっ!? 前よりコイツも……!?」



「オレは常に力を求めている! 先日のオレと同じだと思うなよ!!」


 ヴァルガンがスキル名を叫んだ。



螺旋乱撃らせんらんげき!!」



 高速の突きが放たれる。一撃一撃が大気を切り裂き、周囲に甲高い音を響かせる。


 ロナがマントで槍を絡めとり、ルミノスソードをヴァルガン目掛けて振り下ろす。


「甘いんだよ!」


 ヴァルガンがロナの足を払う。


「うっ!?」


 倒れた込んだロナ目掛けてヴァルガンが槍を突き刺す。ギリギリの所で身をよじったロナのすぐわきに槍の切先が突き刺さる。


「どうした!? 貴様の力はそんなものか!」


 突き出された槍。それを再びマントで絡めとり力の限り引く。バランスを崩したヴァルガンへとその剣で突きを繰り出した。


「……その判断力は良いぞ!!」


 ルミノスソードを紙一重で交わすヴァルガン。一瞬目を離した豪将。彼が再びロナを捉えようとした時、目の前がマントにさえぎられた。



「装備を捨てたか! 小賢しい!!」



 ヴァルガンが投げ付けられたマントを腕で払う。



「クロスラッシュ!!」



 ヴァルガンの顔面に十字の斬撃が刻まれる。それは、ロナがサイクロプス戦で使った戦法だった。あの時よりさらに成長したロナ。己の力を解放した彼女の一撃は魔王軍豪将の視界を奪う・・・・・ほどの一撃となっていた。



「ぐお、おおおっ!!」



 自身の両眼・・を斬られ苦しみの声を上げるヴァルガン。



空舞斬くうぶざん!!」


 ロナが、体勢を立て直し技を放つ。



 しかし。



 飛び上がったロナの足に、何かが巻き付いた。


「な……!?」


 それは……ロナが投げ付けたマントだった。マントの先にはヴァルガンの右腕。彼はロナのマントを逆に利用し、技の発動を妨害した。



「装備を手放すということはな……こういうことなんだよ!!」



 脚をからめとられたまま、ロナが勢いよく大地へと叩き付けられる。



「かは……っ!?」



「中々良い戦いだったが……これで終わりだ勇者!!」


 3度、轟音と共に大地へと叩きつけられたロナ。そんな彼女へ豪将は一切攻撃の手を緩めず技を放つ。



螺旋乱撃らせんらんげき!!」



 高速の突きがロナに放たれる。彼女はルミノスソードで攻撃を防ぐが、全てを防ぎ切れずその身を傷付けられていく。


「ぐっうううぅぅ!!」



「まだだぁ!!」



 ヴァルガンの強烈な蹴りで、ロナが空中へと飛ばされる。一つの判断ミスが勝負を決定付けてしまう。それほどまでに、豪将の持つ力は凄まじかった。



「あ……う……」



 ボロ布のようになったロナが空中を舞う。



 ヴァルガンが槍を天へと向ける。



「喜べ勇者よ。貴様の命は我が力のかてとしてやろう」



 身動きが取れず落下するロナ。


 豪将の槍がその体を貫こうとした時。



 鎧騎士・・・がヴァルガンへと飛び込んだ。



崩壊打ほうかいだ!!」



 横回転を加えた大斧の一撃。その攻撃がヴァルガンへと叩き込まれる。



「見え透いた手を!!」



 槍で大斧を弾くヴァルガンは、そのままブリジットを蹴り飛ばした。



「ぐっ!? ジェラルド殿! 今であります!!」



 蹴り飛ばされたブリジットの先にはジェラルド。彼は落ちてきたロナをしっかりと受け止めた。



「し……しょ……」


「喋るんじゃねぇ」



 ジェラルドか薬草から作られた回復薬をロナへと飲ませる。


「良くやったぜ。お前のおかげで準備もバッチリだぜ?」


 ジェラルドが天を指す。そこは上空。視界を奪われた豪将の頭上には、エオルが火炎魔法により作り上げた雷雲らいうんただよっていた。



 動けないほど消耗しょうもうした弟子を抱きしめ、彼はそっと降ろす。



 たった1人で強敵へと立ち向かった少女を。



「後は任せとけ」


 炎の模様が刻まれた眼帯をした男は腰の剣を構える。



 勇者として戦った少女は思う。後は彼に任せておけば勝てると。



 その男の背中は、少女にとって伝説の戦士以外の何者でもなかった。




―――――――――――

 あとがき。


 敗北してしまったロナ。しかし、彼女が与えたダメージを無駄にしない為にジェラルド達はヴァルガンへ最後の戦いを挑みます。


 次回、決着です。ご期待下さい。

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