第32話 決戦へ

 数日の時が流れ、決戦の日。早朝。


 ——真竜が大穴を開けた荒野。



 ジェラルド達は魔王軍豪将ヴァルガンと戦う場所を荒野へと決めた。


 真竜の電撃ブレスに吹き飛ばされた荒野は、瓦礫が散乱し、身を隠すこともできる地形となっていたからだ。



 ジェラルドが岩の上に座り、腕のガントレットの装置を作動させる。


 ガチャリと開いた隙間に1本の魔法の巻物スクロールを入れる。次に左腕のガントレットへ。腰に据えられた2本のガルスソードを確認し、最後に炎模様の眼帯のズレを直した。



 これでよし。



 数日かけて「にげる」の回数も254回。ガルスソードの限界値まで引き上げた。



 ロナ達もだ。全員レベルは43。これが今引き上げられる最大値。これ以上はこの地域じゃ上げられねぇ。



 やれることは全てやった。



 いよいよ、か。



 俺が殺されるか、生き残るか……運命が決まる日が。



 ジェラルドは己の手が僅かに震えていることに気が付いた。



 ……武者震いってことにしとくぜ。



 大丈夫だ俺。大丈夫。今までだって乗り越えて来た。右眼を失った失敗からお前は学んだろ? だからこの前だってヴァルガンを目の前にして生き延びられたんじゃねぇか。



 しかし、ジェラルドの手の震えは止まらない。



 クソ。やっぱ、ここ一番って時は流石に緊張するか。



「師匠」



 いつの間にか、ロナがすぐ隣に立っていた。



「大丈夫?」



 彼は、咄嗟とっさに手の震えを隠す。



「へへ。アイツの倒し方を確認しててよ。どうした?」


「嘘。師匠、不安そうな顔してた」


「不安? そんな訳ないぜ〜。俺に任せとけって」


 ロナがジェラルドの手を取り自分の頬に当てる。


「じゃあこの震える手は何?」


「う……」


「僕、分かるから。自分に自信が無かったから……だから、分かるから」



 真っ直ぐにジェラルドを見つめるロナの瞳。それが、その瞳がまぶしすぎて、ジェラルドは思わず目をらした。



「怖い?」


「言いたくねぇ」



 ジェラルドは不安を口にしたくなかった。弱音を吐いてしまえば、悪いことが一気に押し寄せて来る気がしたから。


「そう。じゃあ、別の言葉にするよ」



 ロナがジェラルドの顔を両手で掴み、自分の視線へと合わせる。



 そして、彼の口調で言葉を告げた。



「いいかジェラルド。自信ってのはな。自分を信じる・・・・・・って意味なんだぜ? 自分を信じろ。今までの自分を信じろ。お前は不可能を可能にする男。伝説の戦士だろ」



 ジェラルドの隻眼が大きく見開かれる。



 目の前のロナが、弱々しく、自信無さげな少女だった彼女が……。



 そんな彼女が自分の意思で人を救いたいと願い、成長して来た。


 それをジェラルドは目にして来たからこそ分かる。自分が彼女へと与えた言葉を信じ、進んだ彼女の姿を。



 それが今、とても頼もしく見えた。


 だからこそ、震えが止まる。


 だからこそ、自分を信じようと思える。



「僕がいるよ。だから、大丈夫」



 目の前の少女の瞳を見つめるだけで、胸の奥に炎が宿ったような気がした。




「ちょっと、何を2人の世界にひたってる訳?」


「そうであります。ジブン達も共に戦う仲間でありますよ?」



 振り返るとあきれたような顔のエオルとブリジット。それを見た瞬間、ジェラルドは笑い出しそうになった。



 はは。俺は何を悩んでたんだよ。



「……そうか、そうだよな」



 ジェラルドが岩から降りる。



「聞いてくれ。俺達はやれることを全てやった。だけどよ、えて言うぜ。まだヴァルガンの方が強い」



全員がうなずく。ロナも、エオルも、ブリジットも。全員がそのことを理解している顔だった。


「だが、みんなが全ての力を使えば、ヤツは倒せる。俺が保証する。俺を信じろ。俺も、お前らの力信じてるからよ」


「当然だもん! 僕達は魔王を倒す勇者パーティだよ! それも、伝説の戦士ジェラルドが付いてる!」


「負けるはずが無いであります!」


「まぁね、天才の私もいる訳だしね」



「ははっ。調子いいな」



 ジェラルドの中で、全ての不安が消え去る。


 荒野の先を真っ直ぐに見つめ、全員に聞こえるように言った。



「倒すぜ。魔王軍豪将ヴァルガンを!!」



◇◇◇



 数時間後。太陽が天高く登った頃。


移動魔法ブリンク


 魔法を発動した声と共に、荒野の中心に魔王軍豪将ヴァルガンが現れる。



 竜と人を足したような姿に漆黒の鎧の男が。



 ヴァルガンの両眼がジェラルド達をにらむ。それと共に凄まじい圧がジェラルド達を襲う。


 しかし、勇者パーティは誰1人怯ひるむ様子なく身構えた。



「先日より幾らかマシか。覚悟を決めたのか……それとも」



 ヴァルガンが槍を構える。



「策があるのか!!」



 螺旋を描くように高速回転したヴァルガンが技名を叫ぶ。



螺旋突らせんとつ!!」



 螺旋が風を巻き取り暴風のようにジェラルド達を襲う。



「ブリジット行くぞ! ロナは力を解放! エオルは魔法に全力をかけろ!」



 ジェラルドとブリジットが螺旋へと飛び混んで行く。


「ブリジット! 技を地面に放て!」


 コクリと頷きブリジットが巨大な斧を背中に担ぐ。


 まだだ! ブリジットだけじゃ力が足りねぇ!


 ジェラルドがガントレットを大地へと向けた。



「崩壊打!!」

爆発の巻物エクスプロージョンのスクロール!!」



 2人の攻撃によって大地がき上がり、強制的にヴァルガンの螺旋が解除される。



「……!?」



「ロナ!!」


 ジェラルドの叫びでロナが走る。力を解放し、瞳を赤く光らせた勇者が。



「……僕から師匠を奪おうとするヤツは、殺すっ!!!」



 ロナが剣を抜く。



 竜晶石ドラゴン・グラスの刀身が光の軌跡を描く。



「クロスラッシュ!!!」



螺旋撃らせんげき!!」



 ロナの十字の斬撃とヴァルガンが放った真空の刃が激突する。



「ぐ、おおおおおお!?」



 ロナの斬撃に押され、ヴァルガンが後ずさる。ロナの能力を引上げた一撃。それが彼の鎧にビシリと傷をつけた。


「……ははははは! 少しはマシになったなぁ!!」


 ヴァルガンが繰り出した蹴りを両手で防ぐロナ。しかし完全に威力を防ぐことはできず、その体が空を舞う。



「エアスラッシュ!」



 ロナが空中で風の斬撃を放つ。その威力により体勢を立て直し、地面へフワリと着地した。



「技をそのように使うか……面白い」



 ヴァルガンが再び槍を構える。



「全力で向かって来い!!」



 荒野に、魔王軍豪将の声が響き渡った。




―――――――――――

 あとがき。


 ついに始まった魔王軍豪将との死闘。


 次回もお見逃しなく。

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