第19話 黒幕

 ジェラルド達がドーケスの館を後にした頃。



 ——魔王城。

 


 暗い部屋の中に青い炎がともる。ジェラルド達と魔導列車を救った男……「レウス」こと魔王軍知将シリウスは玉座の前にひざまずいた。


「ギギン地方及びブレードラ地方の魔法収集ご苦労であった」


「はっ」


 魔法収集の役目を与えられていたシリウス。彼は魔王からの呼び出しで魔王城へと帰還していた。


「シリウス。単独魔法収集の任は一時中断とし、貴様には別の任務を与える」


「どのような任務を?」


「死のみずうみ周辺の集落。どんな手を使ってもかまわん。あの土地に眠る古代魔法を手に入れよ」


 古代魔法を……か。わざわざ私を向かわせるとは。よほど手強い民がいるのか?


「貴様は引き連れる部隊を選定。準備が整い次第、死の湖へ迎え」


「……承知しました」


 魔王デスタロウズは深く腰を下ろし、シリウスを見つめた。


「時に、ギギン地方にて我が尖兵が倒された形跡があるとのこと。調査結果を報告せよ」


「はい。尖兵はサイクロプスの活動地域を調査中に消滅したものと確認致しました」


「尖兵は誰に倒された?」


「サイクロプスに」


「それはなることだな。尖兵の戦闘力はサイクロプスのそれを上回る物だが」


「隙を突かれたのだと思われます。尖兵の痕跡は、サイクロプスの巣の只中にて発見出来ました」


「なるほど。続けよ」


「サイクロプスは攻撃力が突出した個体が生まれることが知られています。そして知能が低い。いくら魔王様の配下といえど巣に入れば襲いかかるでしょう」


「……我が尖兵とてただでは済まぬか」


「はい」


「分かった。やはり今後の為にも軍備の増強は必須か」


 魔王デスタロウズが指を鳴らすと、暗がりから男が現れた。


 竜と人を足したような姿に漆黒の鎧。シリウスよりも二回りは大きい体躯たいく。そして……槍をたずさえた男がシリウスの隣にひざまずく。


如何いかがされた。我が君よ」


「豪将ヴァルガンよ。貴様にはアレクス山脈へ向かって貰う」


「アレクス山脈……そこには何が?」


 その地名を聞き、シリウスは思考する。



 アレクス山脈か。やはりアレ・・は見つかってしまったか。



「決しておびえず、永遠に戦い続ける騎士が眠っている。貴様にはそれを手に入れて貰う」



 魔導騎士。いにしえの魔法により命を与えられし擬似生命体。魔王軍の戦力増強には打って付けのシロモノだな。



「承知。我が螺旋らせんの技を持って必ずや魔王様へ成果を」



◇◇◇




 半日が過ぎ、シリウスが準備を整えた頃。



「待てシリウス」


 シリウスが魔王城を出た所でヴァルガンか待ち構えていた。


「ヴァルガン。出発したハズでは?」


 槍をたずさえ向かって来る豪将。彼はシリウスを威圧するようにその顔を覗き込む。


「貴様に言いたいことがあってな」


 竜の両眼がするどくなる。


「……何か?」


「なぜ魔王様へ嘘をついた?」


「嘘?」


「そうだ。我が軍の兵士がサイクロプスなどに負けるはずが無い。魔物に特殊個体がいたとしても結果は同じだ」


「……」


「どういうつもりだ?」


 ヴァルガンのまとう空気が変わる。近付く者全てを斬り伏せるほどの殺気へと。



「答えろ」



「はぁ……私が嘘を……ねぇ」



 シリウスはあきれたようにため息を吐いた。


「サイクロプスの件は方便だ。そんなことも分からないとは……」


「何だと?」


「お前の足りない頭にも分かるように言ってやる」


 挑発するようにシリウスが荒い言葉を選ぶ。


「もし、我が軍の兵士が人間など・・・・に負けたと知られたら処罰されるのは誰だ? 兵士の育成を管理しているお前じゃないのかヴァルガン」


「……オレをかばったと言いたいのか?」


「私達の目的はこの世界を支配下に置くことだ。内部事情で戦力の低下などバカバカしいからな」


 シリウスが大袈裟に肩をすくませる。


「それとも、お前が魔王様に八つ裂きにされる様を黙って見ていれば良かったかな?」


「……っ!」


 シリウスは、ヴァルガンが手を震わせるのを見逃さなかった。僅かな身体反応が感情を掴む唯一の手段である。それをシリウスは熟知していた。


「プライドを傷付けてしまったか?」


「……イラつく男だ。尖兵を倒した人間を教えろ。見つけ次第オレが直々に殺してやる」


「眼帯にドラゴンメイルの男」


 ヴァルガンが雄叫びを上げ、シリウスへ槍を突き付ける。


「貴様も覚悟しておけ。信用できぬ男よ」


「好きにしてくれ。だがその前に、己の役目くらいは果たしてくれよ」


「ちっ」


 ヴァルガンが移動魔法ブリンクを唱える。そのまま彼は空間に溶け込むように消え去った。



 ……。



 お前の眼は間違っていないぞヴァルガン。



 だが、詰めが甘いんだよ。疑いを持ったとしても追求できなければ何の意味もない。



 ジェラルドとロナ……だったか。ドーケスの館のファントムフェイスを倒すとは。



 上位の魔物を配置すればあの地域の拠点とできると考えていたが、そう甘くはないか。



 だが、ヤツらの成長という収穫はあった。


 魔王軍豪将ヴァルガン。


 最高のかてを用意してやった。その壁、突破してみせろ。


 殺されるようではその程度の器だったということだ。



 どちらもな。




―――――――――――

 あとがき。


 ついにジェラルドの死の運命そのものである豪将ヴァルガンが動き出した。そんな中ジェラルド達は新たな仲間を……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る