外れスキルの大師匠〜スキル「にげる」しか持たないRPGの最弱ボス【悪役貴族】に転生した俺は、死にたくないので原作知識と知恵を駆使して勇者【ヒロイン】を最強に育て上げ、死亡イベントをクリアします〜

三丈 夕六

最弱の師匠編

第1話 その男、最弱ボスに転生す

 なぁ、アンタ異世界転生って信じるか? それも自分がガキの頃やり込んでた・・・・・・ゲーム・・・序盤のボス・・・・・になっちまうなんて。


 まぁまぁそう言わずに聞いてくれよ。


 きっと想像してる話とはちょっと違うと思うぜ?


 俺は元々サラリーマンだったわけよ。そんでなんとなく会社に嫌気が差して辞めてやったわけ。


 それで「これから自由を満喫まんきつするぞ〜」って時に気付いたらコイツになってた。



 悪役貴族「ジェラルド・マクシミリアン」に。



 今から2年くらい前にな。最初はこの世界に慣れるのに苦労したぜ……。



 ジェラルドを知らない? ……まぁ普通知らないわな。教えてやるよ。



 ジェラルドはRPG「ロスト・クエスト」に登場する序盤のボス。それも、ゲーム最弱と言われてるネタキャラ。



 見ろよこの引き締まった肉体と右目の眼帯を。見た目的にはクッソ強そうだろ?



 でもコレはネタなんだよ。実際はスキル「にげる」しか持ってないし、レベルも10。ほぼイベント戦闘でさ、勇者一行に一撃で負けちまう。


 それで「なんだぁ〜おもしろイベントかよ〜」ってプレイヤーが油断した後……。



 突如現れた魔王軍の幹部に殺されちまうんだ。



 え? 勇者はどうしたって?


 勇者一行はその魔王軍幹部と戦うぜ。だけどレベル差がありすぎるんだよ。確か、勇者達がレベル20くらいの時、その幹部はレベル50。絶対勝てる訳ねぇ。


 で、動けなくなった勇者達の目の前でその幹部が俺を殺して、魔王軍の恐ろしさを印象付ける……そんなイベント。その為だけにジェラルドは生まれたんだ。


 勘弁してくれよ。


 だってよ。このまま行ったら俺死んじまうだぜ? せっかく自由を満喫しようとした矢先死ぬなんて許せるか!


 だから俺はある計画を行うことにした。領地も部下も全部捨てて。



 それが、勇者を育てること。幹部を倒すには俺1人じゃあ無理だからな。



 昔攻略本で見たことあるんだ。レベルさえ超えればこの負け戦闘は攻略できるって。やってるヤツ見たことねぇけどな。まぁ、誰がジェラルドなんかわざわざ助けるかってことだ。


 だけど俺は意地でもやんなきゃいけねぇ。自分の命がかかってるからな。


 だから入念に準備して来たって訳さ。



 ……。



 …。




「……と、いうわけでこの馬車に乗ったのさ。勇者のいる村に向かう為に」


 ジェラルドがズレた眼帯を直す。日光が当たり、黒い眼帯から炎のような模様が浮かび上がる。


「うぅん……アンタの言ってること全然分からないわねぇ」


 馬車を操る女はこちらを振り返らず首を傾げた。



「なんだよ〜ちょっとくらいは同情してくれたっていいだろ」


「ごめんね。私、よく分からない言葉は聞き飛ばしちゃうの」


 ……ま、そうだよな。ゲームだのなんだの言われても信じられないわなぁ。


「でも魔王は? 恐ろしいだろ?」


「実感無いわねぇ。この辺には現れたこと無いし」


 どんだけ平和ボケしてんだよ。あ、俺が言えたことじゃねぇか。



「それはそうと、約束の場所にもう着くわ。言ってた村はこの奥よ」



 女は、そう言うと森の手前で馬車を止めた。



「おう、あんがとな」


「はい、お代。150ゴールド」


「はぁ!? 150ゴールドもする訳ねぇだろ!」


「人生相談も聞いてあげたじゃない。その分も上乗せ」


「人生相談扱いかよ……いや、言っても意味ねーことくらい分かってたけどよぉ……」


 ジェラルドが文句を言いながらふところあさる。



 その時。



 3人の男達が茂みから飛び出し、馬車を取り囲んだ。


「金目の物を出せ!」


 粗末な革鎧にナタのような武器、明らかに「山賊」と言った見た目の男達……その中のリーダー風の男が刃をジェラルド達へと向ける。


「ひっ!? 山賊よ!?」


「そこの女と眼帯の兄さんよぉ。俺達に金恵んでくれや〜」


「どどどどうするの!?」


「落ち着け。俺がなんとかしてやる」


「え? だけど貴方……弱」


 女の言葉を遮るように、ジェラルドは彼女を手でかばう。


「なんだ兄さん。俺達とやろうってのか?」


「いいや? なんで山賊なんて仕事してんのかなぁって思ってよぉ」


「テメェには関係ねぇだろ! 黙って金を……」


「待て待て。お前らも何も好きで人を殺したい訳じゃねぇよなぁ? この辺りはまだ王都の領地。人なんて殺しちまったら王都の強え兵士達に追われる身になるもんなぁ?」


「な、何を……?」


 盗賊は脅しても一切怯まないジェラルドに戸惑った。


「分かるよ。分かる。生活の為に仕方なく山賊やってんだろ? だってそうだろ? 金持ちになりたいなら金持ちの行動を真似するはずだ。賢明な者ならそうする。まさか山賊のリーダー様が愚か・・なんて事ないもんな」


 「愚か」と強調され、リーダーが顔を真っ赤にする。


「俺は愚かじゃねぇ!」


 ジェラルドは優しげな笑みを浮かべ、リーダーに耳打ちした。


「まぁ聞け。俺はお前の味方だ。仲間にも頼られる兄貴分でいたいだろ? 俺が賢明な方法・・・・・を教えてやるよ」


「け、賢明な方法……? なんだよ?」


 ジェラルドがさらに声をひそめる。


「実はこの先の森にすげぇモンスターがいるんだ。少し手強いがお前らで倒せない相手じゃねぇ。ソイツを倒せば1000ゴールドは吐き出すぜ」


「せ、1000ゴールド!? 本当だろうな!?」


「ああ。ちょうど俺の通り道だ。連れてってやる。どうだ?」


「……」


 山賊のリーダーが唸りながら腕を組む。ジェラルドはその背中を押すように告げた。


「考えてみろよ。山賊なんかよりよっぽど割もいいし人に感謝される仕事だ。お前らを責める奴は誰もいねぇ」


「……分かった。乗ってやるぜ」


「よっし! じゃあ俺に付いて来な!」


 ジェラルドが山賊を引き連れて森へと駆けて行く。


「じゃあな〜! 元気でやれよ!」


「あ、うん……貴方も……」



 女は戸惑ったように手を上げる。


 ジェラルド達が見えなくなった後、女はあること・・・・に気が付いた。



「あ、お代……」



 女は複雑な気持ちになった。





◇◇◇



「ぎゃああああああ!?」

「助けてえええええ!!」

「ツルが! ツルが体に巻き付いて!?」


 森の中に叫び声がこだまする。


 草系ボスモンスターのツルに巻き取られた山賊達の声が。


「テメェ! 俺達を騙しやがったな!?」


 山賊リーダーはもがきながらジェラルドを睨み付けた。


「いやぁ? 俺は嘘は言ってねぇよ? ソイツ倒せば1000ゴールド吐き出すし」


「な、なんだとぉ!?」


「ま、山賊なんてやってたんだから死ぬ気で戦うことぐらい想定してただろ。今がその時ってことだな」


「ぜってー許さねーからなぁ!!」


「お〜がんばれよ」


 ジェラルドは山賊達を置いて先を急いだ。


「いやぁ。良い囮が見つかって良かったぜ。この森のボス強えからな。ま、3人いりゃ勝てる相手だ。死にはしないだろ」



 その後、ジェラルドはスキル「にげる」を駆使して森を抜けた。


 「にげる」は己の逃走する速度を飛躍的に向上させ、ボス戦以外は確定で戦闘を回避できるスキル。彼は転生してから2年かけて自身の能力を熟知していた。




 草原を進み、村の手前まで来た所で池を覗き込む。




 水面に彼の姿が映る。金と時間をかけて手に入れた「ドラゴンメイル」とさやニワトリ模様が付いた剣「ガルスソード」、そして右目に黒い炎の模様が付いた眼帯の男が。


「装備は……程よく傷付いてるな。これなら高レベル冒険者に見えるだろ」


 最後に声色を確認して彼は村へと向かった。


 勇者つっても今はゲーム本編が始まる前。ただの子供だ。信じさせるなんて楽勝だぜ。



 元営業マン舐めんなよ〜口で契約結んでナンボだったからな。



 待ってろ勇者ロナ。今お前のお師匠様が迎えに行ってやるからな〜。




―――――――――――

 あとがき。


 第一話をお読み頂きありがとうございました。新作ファンタジーは最弱なのに自信に満ちた男の物語となります。


 果たして最弱ボスのジェラルドは運命を乗り越えられるのか?


 次話よりヒロインが登場します。お楽しみに。


 少しでも楽しんでいただけた方は☆や作品フォロー。応援を入れて頂けると、とても励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。


※☆は目次や最新話下部の「☆で称える」から行ってください。




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