第3話 教養より
私の今の名はリンネ。今私は武器庫で爆弾の研究をしています。この前いい案が浮かんだので取り組んでみたものの行き詰まってしまいました。なのでたまたま休暇中のシルクさんに手伝ってもらうことにしました。なのですが…
「どうしてこうなってしまったのでしょうね。」
「ねー。」
細心の注意を払っていたはずが、服の静電気で黒煙が上がってしまいました。
その後はケガ人もなく私がナンバーさんから2時間ほどお叱りを受け無事に終えたわけですが、食事時にたまたますれ違った幹部の皆さんにこんな質問をされました。
「なんでリンネは爆弾作れるの?」
はい、答えは簡単。作っていたから。作る必要があったからです。え?答えになってない?もっと詳しく?
それ以上は不可侵領域というものではないでしょうか。私の過去のお話になるんですけど。え?知りたい?
確かに、そういえば皆さんにお話ししたことなかったですね。ちょっと恥ずかしい気もしますがいいでしょう。私も明日は休暇を頂いているので、よろしければ私の部屋で紅茶でも飲みながら。
もう、何年も前の話ですね。ここに来る前。アルファさんもまだ総統になられる前の話です。
私は人に何かを教えることを生きがいとしていました。しかし教えるには相手より知識がなくてはいけない。リンネ少年はガリ勉でしたね。机にかじり付いては何時間も筆を走らせて食事も忘れるほどでした。
しかし、私の家はいわゆる普通とは違う家庭なのでしょう。当時その国では爆弾魔と恐れられていました。おかげで私も日のもとではガリ勉少年。夜の顔は爆弾魔として生活していました。ある日、こんな依頼が来ます。
“講師としてビルに潜入しろ”
これはつまり一度人にものを教える先生になれと言っているようなものです。両親はこれを断りますが私にとっては願ってもないチャンス。受けた依頼は私を中心として動き始めました。
手始めに軽くそのビルについて調べます。ビルの構造、入ってくる人の特徴、侵入経路。私は当時から運動というものにはとことん鈍くて。父のようにパワフルかつエネルギッシュな動きや母のようにしなやかで俊敏な動きは私にはできません。なので役になりきることにしたのです。ビルで従業員のフリをする。そうすれば簡単に逃げられますし、元々依頼も潜入でしたし。
実際に塾というものをやってみて、それはそれはとても楽しかったです。人に教えるとはこうも気持ちの良いものかと。
でも月日が経つのはとてもはやいもので、いよいよ実行の日になってしまいました。その日もいつものように講師として教壇に立っていたのですが、来客がありました。依頼者かな?と、思いましたがどうやら違うようで。
「俺のところに来ないか?」
まるで口説き文句のようですが、ドスの効いた声でしたよ。来客はどうやらマフィアさんのようですね。まあ、若き日のアルファさんなんですけど。当時私は親の影響で闇市にはよく足を運んでいたので彼を一目見たときピンときました。
「今からここ爆破されるんです。まずは避難してからにしましょう。」
そこからは作戦に集中しました。計算した経路を通り、爆弾を配置。爆発の中私と彼二人だけ無傷で抜けることが出来ました。爆発でビルごと崩したのでその他ビルにいた人は全員死亡。作戦が成功した達成感とともに生徒を失った喪失感がありました。そこで私はマフィアの彼に約束をします。
「私は確かに知識を豊富に持ち合わせています。しかしながら、教養は持っていないのです。今度は爆弾魔としてではなく職員として教壇に立つという夢が出来ました。なので今はまだあなたのご希望には添えません。いつか、夢が叶うそのときまで待ってもらえませんか?」
当時のアルファさんはマフィアのボスという立場でした。名前はアルファではありませんでしたね。私のことを言い当てた挙句、あの事件のことまで…。
とにかく、彼も私のことはすべて知っているようでした。目的は私の知識ではなく能力でしたが。
「お前、爆弾とかチョッキ作れるから有名だろ?でもあのとき起こした事件でお前が作ったのは爆弾じゃなくて拳銃だろ」
自分の顔から血の気が引いていくのを感じました。はい、そうです。幼い頃に両親が国王の暗殺を依頼された時、私が作って持っていたのは自作の拳銃です。殺傷能力は抜群でした。軌道の計算、威力、重さ、握りやすさ。どれを取っても最高の出来でした。今でもそう思います。私が作った拳銃は見事に国王の急所に当たりました。爆発させる依頼なのに何故か銃で撃たれ死亡する不可解な事件として扱われましたが両親にはこっぴどく叱られ、拳銃を作ることは禁止されました。
何故アルファさんが知っているのかわかりませんが当時の私は少し嬉しかったりもしました。
その日から私は猛勉強を始めます。教員になるために全て独学でした。学校に入ると依頼を受けることが出来なくなりますからね。
少しして試験がありました。結果は余裕で合格。無事に教員になることが出来ました。そこからの生活は非常に楽しかったです。再び教壇に立ち教える。相談に乗ったり愚痴を言ったり。結構充実してました。
教員になってからもう何年経ったでしょう。たまたま残業をしていると窓をノックする音が聞こえてきました。そう、彼こそ今のアルファさんです。総統になられて軍服を身に纏い、あのときの彼はとても勇敢でしたね。今とは違って。
「やあ、覚えているか?」
「ええ、もちろん。」
「もうそろそろ頃合いかと思ってな。迎えにきたぞ。」
「そうですね。私でお役に立てれば良いのですが。」
「ああ、そうだな。まだ教壇に立つ元気はあるか?」
「はい、もちろん!」
そこから私は家を飛び出し、今の生活に勤しむこととなりました。始めは勉強を教えるだけでしたが、軍学校の校長となるのも時間の問題でしたね。
自分の部屋を頂いて必要な材料も経費で落ちる。仲間も続々と増え、実験の場所も生徒も豊富。こんなに幸せな状況もこれまでなら想像つかなかったですね。アルファさんには感謝しても仕切れません。
「というわけで、私の過去でした。どうです?」
「なんか意外だなあ。リンネがここまで得意げに話してくるの」
「んー。(うん)」
「何を言ってるんです?ライスさんシルクさん。あなた達もここにくるまでに色々あったのでしょう?あなたに関しては半分人じゃないし。あなたは殺人鬼だし。」
「へへっ!別にいいじゃん。それよりなんで今は銃作ってないの?」
「あー。(確かに)」
「えーっとそれはですねー。」
??「それは簡単だぞ。」
気がつくと私の後ろにはアルファさんが立っていた。
「わっ!いつからいたのですか。」
「アルファさんには感謝してる〜、とか聞こえた気がしたが。」
「げっ。聞かれましたか。」
「割と前半からいたよ。」
「ライスさん!なんで教えてくれないんですか!」
「面白そうだったから。」
「…だと思いましたよ。」
「それでだな!リンネが拳銃を作らない理由は“ない”ぞ!」
「へ?」
「ん?」
「そうです。私、拳銃は“作ってない”のではなく“作っていることを知られていない”だけです。」
「シルク、今持ってる拳銃見せてみろ。」
「ん?うん。」
私は拳銃を作る時必ずあるマークを彫ります。
「はい、ここ。」
「あるな、キツネのマーク。」
「これ?」
拳銃の側面にはキツネをイメージさせるマーク。一番好きな動物をマークにしてみました。
「んー!(ほんとだ!)」
「え?今まで気付いていなかったのですか?」
「うん。(気づかなかった)」
「まあ、ここにある拳銃全て私の手作りなんですけどね。」
「え?それ本当?全然知らずに壊してた。」
「それで最近やけに減ったと思ったら…。」
「ま、まあ、経費は国で落ちるから好きなように作らせてたら武器庫が埋まっただけなんだがな。」
ライスさんはこれからも素手で頑張って欲しいのでともかく、シルクさんは気が付いていて欲しかった。
「まあ、日常的に使っていただき感謝します。おかげでデータがしっかり取れていますので。」
シルクがライスになにかを伝えた。
「(そういうことなら今言っちゃうけど、この銃もっとまっすぐ飛ばない?)だって。」
「改良しましょう。特にあなたの意見は貴重ですからね。もっとお話聞かせてください。なんなら製作段階に立ち会ってください!撃ち方やあなたのクセをもっと研究したいのでできれば…」
またリンネの“暴走”が始まった…最近多いな。彼も疲れているんだろう。たまの休日くらい休んでもらいたいがな。
「まあまあ、今日はもう遅い。時間はあるから今日はもう寝るぞー。」
「んー。(はーい)」
「そうしよ。」
「そう…ですね。では、今日のところはおやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
みなさんがいなくなった後の自室はとても寂しいですね。子どもの頃とよく似た感情を思い出します。ですが…
「アルファーー!また勝手にどっか行ってたん?書類はさっさと終わらせばいいものを!説教も追加じゃい!」
部屋の外が騒がしいので今は寂しくありません。
あのとき声を掛けてくださらなかったら私は今でも爆弾魔の人生をたどっていたでしょう。
生徒を殺したあの日から、ずっと傷ついて欲しくないと願っていました。
本当は教養なんて知識があるので必要ありません。当時のアルファさんならそれをわかっていたのではないでしょうか。
でも、アルファさん。私は二度もアルファさんに救われました。私の希望を救い出し、居場所を救い出した。
心の底からありがとう
表舞台で今度はあなたを救います。(書類から)
教養より強いものってなんでしょうか
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