小学校教師の場合

ねぇ、霧島さん。


あなたは............お化けっていると思います?


あ、別に、信じろって言ってるわけじゃないわよ?


そりゃあ、学校で働いていると、嫌でも学校の怪談の話は聞くけど......個人的に、あの出来事はそれに匹敵する程に、恐怖を感じたわ。


だって.............彼女は、アノコは本物のお化けなのだから。


........何でそんなことが言えるのかって?


私ね、あなたの調べている存在............アノコに出会ったことがあるの。


と言っても、もう何年も前の話なんだけどね。


あの頃の私は、三年生のとあるクラスを担当していたんだけど.........そのクラスの中に、誠くんっていう、少しだけ変わった子がいたの。


新学期が始まった時期に転校して来て、子供達と積極的に関わる.....っていうことはなくて、いつも一人でポツンといて、たまに変な歌を歌うの。


.....そうそう!!


『アノコドコノコダレノコ、アノコドコノコシラヌコ、アカイアメハチノアジ、アオイアメハミズノアジ、アノコハダァレ?アノコハダァレ?』


って歌だったわ。


一応、誠くんにその歌は何なのかって聞いたら............引っ越す前に暮らしていた町に伝わる、わらべ歌みたいなものだって言ってたわ。


........その町の名前の覚えているか?


ごめんなさい、何年も前のことだから、忘れてしまって........


.....でも、誠くんがその町の話をする時は、とても楽しげだったことは覚えているわ。


だけど、さっき言った通り、誠くんは一人でいることを好むタイプの子だったから、クラスの中では浮いた存在で、次第にイジメられるようになったの。


ほら、たまにあるでしょ、特定の人を病原菌扱いするイジメ。


そういう感じのイジメが、彼に対して行われていたの。


あ、もちろん、私はそのイジメを止めようとしたわ。


..........今思えば、それが全ての始まりだったかもしれないわね。


とにかく、その日から.....誠くんがイジメられるようになってから、学校で奇妙な女の子が目撃され始めたのよ。


その女の子を目撃した生徒達によれば、セーラー服を着た女の子が、ジッと生徒達を見ていたそうなの。


しかも、アノコを目撃した生徒全員が、アノコの顔だけは覚えていないって、口を揃えて言っていたわ。


それが原因なのかは分からないけど............生徒達は、みんなアノコを恐れるようになって、私のような教師や、保護者達が学校周辺を見回るようになったの。


そうすれば、不審者を捕まえることが出来る。


最初はそう思っていたんだけど........アノコは、どういうわけか、そんな私達を嘲笑うかのように、生徒達の前に現れるようになったのよ。


そして、生徒達の前に現れては


「飴食べる?」


ということを言っては、赤い飴と青い飴を差し出していたらしいわ。


........その飴を食べた子供はいるのか?


いいえ!!万が一のことを考えて、生徒達には、飴を食べないように注意喚起をしたからか、その飴を食べた生徒はいなかったわ。


それでも、子供の好奇心は抑えきれなくてね............子供達は、アノコの正体について、考察し始めたのよ。


その中でも、有力視されたのは宇宙人説で、学校の近くに、宇宙基地と呼ばれる廃墟があったから、そういう説が必然的に上がってきたというか、何というか.....


私の担当していたクラスでも、そういう話が出てたんだけど.........そんな生徒達に対して、誠くんは落ち着いた様子で、こう言ったの。


「アノコは宇宙人じゃないよ。アノコはアノコだよ」


その言葉は、まるでアノコを擁護するような感じでね、それを聞いた生徒達は、手のひらを返して、アノコのことを誠くんに教えてもらおうとしてたのは、今でも覚えているわ。


でもね.....結局、誠くんはアノコのことを一切語らなかったの。


多分、誠くんはある意味では大人っぽい子供だったのかもね。


それから、しばらく経った頃......生徒達が、アノコのことを忘れかけていた頃かしら?


私が、夜の校内の見回りをしていた時............廊下で、アノコを見つけたの。


アノコを初めて見た時、どう思ったかって?


............そうね。


雰囲気的には、普通の女の子みたい感じだったわね。


だから、彼女が本当にアノコなのかって、疑問に思ったけど........スカートの中から、たくさんの飴が出てくるのと同時に


「欲しいなぁ、欲しいなぁ、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」


って言いながら、私に襲いかかってきたの。


その瞬間.....私は本気で死を覚悟したわ。


だって、人の姿をした化け物が襲いかかってきたのよ?


死ぬって思って当然でしょ?


もうダメだ、私は死ぬんだ。


そう覚悟を決めた時.....突然、アノコは私の元から離れて


「違う、この人は違う。違う違う違う違う違う......」


って言いながら、闇の中に消えていったの。


まさに、九死に一生と言っていいほどの体験ね。


で、その次の日、私が普段通りに学校にいると......誠くんがこう言ってきたの。


「良かったね、先生。お腹の中に赤ちゃんがいて」


......その言葉の意味は、今でも分からないわ。

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