第55話 自信に繋がること

 昇級を言い渡されたことや、奴隷商襲撃の事件、そんな慌ただしい出来事が立て続けにあったことで、予定よりも魔獣ハンターのランクを上げるためのポイントが稼げていない。

 あまり遅れると、ミスティアやルッコスとの約束、バッディオ狩りに間に合わなくなってしまう――


 朝早く起きた翼は、プリムが昨日は元気に振る舞っていたが、一晩立って悩みが増えていないか心配になっていた。


(いい匂いがする、朝食の準備はいつも通りかな)


 早朝の訓練を終え、家の中へ入ればプリムの様子が分かる。

 悩むことが悪いとは思わないが、元気であって欲しいと、少し緊張しながら匂いの元へ足を運んだ。


「おはようございます。ご飯食べたら、直ぐにでも狩りに行きましょうねっ」


 リビングにいつも以上に元気な声が響くと、翼もやる気がみなぎってきた。


「おはよう。良しっ、今日は予定より遅れた分を取り戻そう」


 ――この日以降、連日狩りに明け暮れる日々を送っている翼とプリム。

 数日後の狩りが終わった帰り道、翼が最近考えていたことをプリムに提案していた。


「ねぇプリム、魔法って習わなくても使えると思う?」


「う〜ん、どうなんでしょうかね?」


 翼の基礎体力が極端に低くなければ、ビスディオ先生から魔法を教えて貰えるはずであった。

 初歩的な魔法であっても、使えていれば狩りに役に立ったかもしれない。


「プリムは器用に魔法を使えるからさ、色んな魔法が使えると思うんだよね。こんな魔法が使いたい、そんな感じに思ったことない?」


「思ったと言うか、少しなら試したこともありますよ」


 エアサークルを応用すれば色々なことができる。

 プリムが試したことは、『風』の量を多くしたり、連続で発生させたりして強風を創り出すことだ。それだけで相手を吹き飛ばしたり、攻撃を防ぐことだってできる。そんな予定であった。


「気が付かなかったな、そんな魔法使ってるの」


「ただの強い風ですからね。それに、実際効果があるかは試せていませんし」


「そっか。あの、実はさ、オリジナル魔法を考えてみたんだけど······聞いてくれる?」


 本当にオリジナルなのかはさておき、翼が考えたのは『風』魔法を使った防御方法であった。

 まずはエアサークルのように周囲に風を創り出し、その風を高速で回転させる。次は、その内側に別の風を創り、最初に創った風とは逆の回転にする。


「2つ別々の回転にすることでさ、敵の攻撃が1つ目の風を貫通しても、次は逆方向に力が加わるでしょ。そうしたら敵の武器を破壊できたりしないかなって······う〜ん、言葉だと分かりづらいかな」


 いまいちピンときていないプリムのために、翼は木の枝を拾ってくる。

 そして右手を左回転の風、左手を右回転の風に見立てて説明した。


「右手の風だけだと、木の枝が動くだけでしょ。木の枝が風より強く向かってきたらさ、自分の方に木の枝が近づくじゃん。そこで左手の風に当たると――」


 プリムに木の枝を持って貰い、翼が右手と左手に力を入れる。すると、木の枝は簡単に折れる。


「こんな感じなんだけど、どうかな?」


「何だか良さそうですね。それに、オリジナル魔法って響きがいいです。翼様は天才ですよ」


「そ、そうかな。そしたらもう一個考えたのも言っていいかな」


 翼が「今度はタイミングが難しいかも」と言って説明を始めた。

 まずは同じ要領で風を展開する。その後、敵の攻撃が外側の風を貫通し、内側の風に触れた瞬間、外側の風を消す。

 すると、より効果的に風の流れに巻き込まれる。それは相手のバランスを崩せたり、武器を吹き飛ばせたりするんじゃないかと翼は言う。


「プリム、ゆっくりパンチして貰える?」


「はい」


「右手の風が当たったらどっちに力を入れる?」


「えっと、左側に力を入れてます」


「そしたら右手の風に力を入れるから、負けないように進んで来て」


 翼の右手に負けないように、プリムは力いっぱい拳を握り腕を動かしていた。

 そこで、翼が右手の力を抜き左手で押すと、強く押したわけでもないのに、プリムは左側によろけてしまう。


「相手の力を利用してバランスを崩すって感じかな、壊れづらい武器とかだったらこっちのが有効かと思ってさ」


「おぉ、何かいい感じですね。帰ったら、早速練習してみたいです」


 プリムの喜ぶ顔を見ると、翼は考えて良かったと満足する。

 でも実は、考えたことはもう1つある。それを言えていないのは、翼の羞恥心に問題であった。そう、それは必殺技の名称であったからだ。


「あの、さ。魔法が使えたら、魔法に名前とかつけるのかな······オリジナルだし、どう思う」


「魔法の名前、そうですね。エアサークルだって名前がありますし、あった方がいいと思います」


「そっか。一応考えてはあるんだけど、自分でつけたいとかあるかなって」


「自分でですか。え〜、直ぐには思いつかないですよっ。とりあえず、翼様の考えた名前を教えてください」


「うん、まぁ単純と言えば単純なんだけどさ。エアサークルに似た魔法だから、似た名前でね。武器を破壊する方がエアシールド『破』で、もう1つがエアシールド『流』。これなんてどうかな?」


「それいいじゃないですか、私のオリジナル魔法。エアシールド『破』とエアシールド『流』――これは何としても習得しなきゃですね」


 プリムが技の名前も気に入ってくれたことに、翼は笑みがこぼれた。恥ずかしいと思う反面、実は言いたくて仕方なかったのだ。


 この後の道中では、帰ったら早速訓練をしようと盛り上がる。

 プリムは、新しい魔法を使えるようになれば、きっと自分が成長してると実感できる。そう思うと、また1つ提案してくれた翼に感謝をするのであった。


(翼様って、こういうの考えるの好きなんだな。恥ずかしそうに言ってたけど、凄く嬉しそうなんだもん)

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