『奴隷制度』なんて変えてやります。〜プラント産の少女と異世界人〜

西山健悟

第1話 出荷された日

 『奴隷』を育成しているプラント名は『青い果樹園』


 でっぷりとした腹を揺らしながら、慌ただしく動き回るのは、奴隷商の会長を務める男、マグズ・パラライであった。

 マグズは、異世界人が現れた報を受けて、自身のプラントから『奴隷』を差し出すべく動いている、今は第7プラントの扉に手を掛けている所だ。


「やぁやぁ、皆揃っておるか。急だがな、異世界人へと出荷するチャンスが回ってきたぞ。おいっプリム、プリムはどこだ?」


 マグズが第7プラントへ来た理由、それは異世界人が現れたら、兼ねてから出荷すると考えていた、プリムと名付けられた『奴隷』に用件を伝えにやって来たのであった。


「おう、おったおった。プリムよ相手は異世界人じゃ。儂はずっと思っておったのでな、お前みたいな貧相な身体じゃ、変態の異世界人ぐらいしか好まんとな」


「えっ、わ、私が出荷されるんですか、私なんかでいいのですか······」


 肩に掛かるぐらいの黒髪に、身長は150センチで体型はやや痩せ型、年齢は16才で一番の魅力は、大きな目の中にある漆黒の瞳が特徴的な可愛らしい少女がプリムであった。

 可愛らしい少女であるプリムが、卑屈になってしまうのには理由がある。

 この世界では痩せた女性は人気がないのだ、その為、売れ残る可能性が高いプリムは奴隷商から疎まれて生活していたのであった。


「私なんかなどと言ってる場合じゃないぞ、必ず選ばれるとゆう気概を見せてみろ。ずっと売れ残れば儂の儲けが減るだけなのじゃからな」


 マグズは、身支度を30分で終わらせる様に伝えて、その場を去って行く。

 急いで支度をしなければならないプリム。プリムの元へは、プラントの『奴隷』、共に生活していた仲間達が駆け寄って来るのであった。


「プリムが異世界人の元へ行くんだね、それなら私が髪はセットしてあげるよ、カルミアとハティヤは身体を拭いて服を着替えさせてあげなっ」


 この場を仕切ってくれているのは、ビクレイという名の年上の女性だ。

 美しくスタイルも良いビクレイだが、片腕、片目を失って出荷先から戻った経緯を持っていた。


「ビクレイ姉様、私恐いです。異世界人って何考えてるか分かんないんでしょ。もう、絶対に嫌っ······」


 髪をとかして貰いながら、プリムはビクレイに弱音を洩らす、プリムにとってビクレイは、幼少期から面倒を見て貰い、何でも話せる存在であり、姉と慕う家族の様な存在でもあった。

 それと、異世界人の『奴隷』を経験した先輩でもあるのだ。


「異世界人は確かに恐ろしいよ、でも考え方が人によって全然違うみたいだからね、良い人かもしれないし······ごめんね、私には祈る事しか出来なくてさ」


 30分が立った頃、時間通りに奴隷商の人間が迎えに来る。

 仲間との簡単な会話を最後に、プリムは、16年間過ごしたプラントを去っていく――


✩✫✩✫✩


 小高い丘の上に、3メートル程の大きな扉だけが置かれているのが見える。

 その扉は、魔導具の一種であり、現在起動しているのが確認できるのであった。


「もう3時間が経過するな、そろそろ出て来るかもしれないぞ」


「今回は、どんな人が現れるのか楽しみ。私はね、イケメンの男性がやっぱりいいかなっ」


 扉が起動してから開くまで、3時間程の時間が掛かるのがいつもの流れだ、そして開いた扉からは、異世界人が姿を現す予定であった。


 扉の前に待機しているのは、案内人兼、王国監査官を任されている人物、ドーガ・クビラヘルとビネット・クビラヘルの兄妹である。

 2人は上流階級5を持つ国でも上位の人間であり、今回の役目は、異世界人を国に留めるためにと、案内人としてやって来たのであった。


 兄弟が会話をしている内に、扉が音を立て始める、異世界人が顔を現すまであと僅かということだ。


(うっ、眩しい。ん、ここは何処だろう······)


「ようこそいらっしゃいました、突然の質問お許しください、言葉は理解出来ますか?」


「······はい、あ、あのここは何処ですか?」


「それは良かった。それでは改めまして、ようこそ『グリードベリル』へ。私はドーガ・クビラヘルと申します。さてさて、気になる事だらけでしょう? 何でも質問してくださいね」


「初めまして、私は妹のビネット・クビラヘルです。この国の名は『トゥーレイ』貴方の様な方がこの国へ来た際、案内人を務めさせて頂いております。どうぞ、よろしくお願いします」


 自己紹介をするにも、言葉が通じることは何よりであった。

 この世界の人間も異世界人も、言語魔法を習得して産まれることが殆どなのだが、稀に言語魔法が使えない異世界人もいる、そうなると意思の疎通が格段に難しくなってしまう。


「あっ、ご丁寧に、ど、とうも。ぼ、僕は、白崎翼です。よろしくお願いします」


「白崎翼様ですね、先ずは宿へ向かいましょう。色々と聞きたい事があるでしょう、歩きながらでも質問してください」


 突然異世界へと訪れた白崎翼は、何も解らないまま、案内人の後を着いていく――


 こうして、プラント産の少女『プリム』と異世界人『白崎翼』の物語が動き出すのであった。

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