第8章 進むべき道の彼方
第98話 バレンタインの願い💝1(迷信?)
「そぅじ~お腹すいたよー……」
「何だよ、まだ4時だぞ、もう少しで勤務時間も終わるんだから、待てよ~なあー」
廊下ですれ違いざまにベルは、僕にすり寄って来た。最近は、時間があれば僕にくっ付いているベルなんだが、どことなく無理に燥いでいる気がする。
「そぅじ~、最近はどこ行っても寒いんだよ~寒いとお腹へるし~」
「仕方ないだろ2月になったんだから。1年で一番寒い時だよ……(2月か……)」
そう言えば、最近はやたらと商店街が賑やかだと思ったら、もうすぐなんだと気がついた。
「(今年は、僕が作ってやるしかないかなあ…………)」
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「ねえ、そぅじ~。どうしてあのお菓子屋さん、あんなに飾り付けてるの?……クリスマスは、この間終わったよね」
「ん?……あれは、たくさんチョコレートを売りたいからじゃないかなあ」
「チョコレート?……普段からいっぱい売ってるじゃない!」
帰り道、商店街のケーキ屋の前で、ベルがそんなことを言い出した。
「まあ、2月のこの時期のチョコレートは、特別なんだよ」
特には説明しなかったので、ベルは少し納得のいかないような顔をしていたが、あまり深く追求してこなかった。
夕食後、風呂上がりのベルは、いつものようにリビングのソファーベッドで布団に包まっていた。
「ねえそぅじ~、何作ってるのー?」
僕は、夕食の片づけの後、少しメレンゲを泡立てながら、カスタードクリームを作る準備をしていた。
「ああ、今度なー甘いお菓子を作ってあげるから楽しみにしてなよ」
「へー、甘いお菓子か……楽しみだなあ~」
「ところでべるぅ~、お風呂に入ったんだろ?早く、布団被って寝ないと、寒くなって風邪ひくぞ~」
2月もまだ1週目、この辺りは零下10度以下になる夜も珍しくない。部屋にストーブはあるが、この古いアパートでは隙間風も馬鹿にならない。
「それより、そぅじもお風呂入ってきなよ~」
「今、片付けたから、そうするわ」
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僕が何気なく風呂上がりに、ソファーベッドのベルを見ると、また布団から足を出して寝ていた。
「まったくべるぅは、寝相が悪いんだから…………」
足を布団の中に入れ、ふとベルの顔に目をやると、目に涙を浮かべながら、ちょっと悲しそうな顔で眠っていた。
何となくその顔を眺めていたら、急にベルの手が伸び、僕のパジャマを掴んでしまった。
「お、おい、こらべるぅ~……」
と、言いかけたが、ベルは寝たままだった。無意識に手を伸ばし、しがみ付いたようだ。
手がしがみついていても、まだベルの表情は悲し気だった。
僕は、そのままそっと布団に潜り込んだ。すぐにベルは両手でしがみ付いてきた。ただ、その後は穏やかな顔になり、静かな寝息だけが聞こえた。
2,3回ベルの頭を撫ででから、僕も目を閉じて眠りについた。
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