第93話 旅先での奇跡 💒1(ジョンのキセキ)

「ソージすごいよ~いっぱい並んでるよ!……どれにしようかな~」

「ベル~待ってくれよ~……そんなに急いだら危ないって、着物も慣れてないんだから……」


 確かに朝食バイキングは、珍しいけど……ベルは、また食べ過ぎなきゃいいんだけどな~心配だ………。


「うわぁ~、お寿司🍣の行列だ……あ、『頼んだもの何でも握ります!』だって。ソージ面白そうだよ!」


「ふーん、普通のネタ以外でもお寿司作ってくれるんだ?」





「どうだい、珍しいだろ?俺が職人を集めたんだぜ!他にも、『何でも天ぷらにします!🍤』とか『何でもアイスにします🍨』とかあるんだ。

 ぜひ試してくれよ!ね、ベルちゃん!」


 いつの間にか父ちゃんが傍に来ていた。相変わらずコック👨‍🍳の制服と帽子を被っているが、ホテルの中なら神出鬼没だ。




「あ!お父さん!夕べのご馳走、とっても美味しかったよ!

 あたしの知らないお料理もいっぱいあったし、デザートのアイスも最高だったわ」


 ベルは、父ちゃんに抱き着かんばかりに傍に行って手を握った。もう、父ちゃんはデレデレになって、顔がトロケそうになっていた。



「いやあ~、そこまで褒めてもらえると、オレも安心だなあ。

 こんなに料理を愛してくれる若女将なら俺は何でも言う事聞くからな…………おい総司、頼むぞ!」


「もー父ちゃんまで、何を言ってんだよ~…………ベル?気にしなくていいからな!」


 慌てて父ちゃんの口を塞いだんだけど、見るとベルはなぜか、ニヤニヤしてまた父ちゃんの手を握っていたんだ………。



 僕は小声でベルにささやいた。

「ごめんよベル。父ちゃんも母ちゃんと同じで、思ったこと何でもすぐ言うんだよ。勘弁してくれな……」


「何言ってのソージは。

お父さんもお母さんも、とってもいい人だよ。それに、あたしだって可愛がってくれるし。

 …………ねえ?あたし“若女将”になれるかな?」


「え?……お、おお……ベルだったら何にでもなれるさ!……」




「ねえソージ、ところで“若女将”ってな~に?」


「あは、はは、ははははは…………」




 僕は、一人で舞い上がってしまって、ベルには“若女将”が何かなんて、説明する余裕もなく、うやむやにしてしまった。

 それから、しばらく2人で、食べきれないんじゃないかと思うぐらい料理を皿に取り分けながらバイキングの料理を見て回っていた。






 すると、しばらくして、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……きゃあー、ベルちゃーーん!……ベルちゃーん!ヤッホー!!」


「うわあー!!ジョンちゃん!……どうしてここにいるの?」




 ベルが、手に持った料理の皿を僕に預けて、ジョンに抱き着いていた。



「ベルちゃんこそ、きれいな着物を着て、どうして?…………あ!岸川さんとお揃いだ!!

 …………そっか、分かったわよ!

 とうとうここで結婚式あげるのね!おめでとう、ベルちゃん!!」


「おいおい、まてまて!……何を勝手に決めたんだよ、ジョン!」

 

 さっきから、僕は焦ってばかりだ。正月から何だか落ち着かないんだけど……




「だってね~

 ……ここ立派な結婚式場も付いてるホテルなのよ!わたし詳しいんだからね!」


「ジョンちゃんすごいね!ソージの家のこと、何でそんなに詳しいの?」


「え?ソージの家?…………と、いうことは、このホテル岸川さんの実家なの????」




「ああそうだぞ!ここは、僕の実家なの。

 それで、今は里帰り中。

 ベルも近くの動物園が見たくて一緒に来ただけなの!……分かった?」



「なーんだ、結婚式は、岸川さんじゃないんだ!……ちょっとガッカリ」


 何なんだよ、結婚式は僕じゃない?……他に誰か結婚するのか?



「やあーー岸川教頭。君も来てたのか?」


「あれーー、玉佐間さんと高背さん。あなた達も来てたんですか?」


「うん、まあー俺達は半分仕事なんだけどなあー」


「どういうことですか?」





「おーい、こっちこっち、アンディス~……ベルちゃん見て……私達も着物貰ったの、アンディスとお揃いなのよ!」


「あ、みなさん、明けましておめでとうございます」


 んー、何かアンディスが一番まともに見えるな~それにしても、どうなっているんだ?






「……なーんだ、ベルちゃんとジョンちゃん、もう会っちゃたんだ!後でサプライズでもしようかなって思ってたんだけどなあー」


「母ちゃん、どういうことだよ……何か訳があるんだろ?なあー」




「はいはい総司、落ち着きなさいってば。

 …………ベルちゃんには昨日、話したんだけどさ、ジョンちゃんは一昨年、家で働いてくれたんだよ。一生懸命だったよ。

 理由を聞くと友達を探しているって言うじゃないか。


 そして、何とその友達がベルちゃんだったんだね~、私は昨日それを聞いて思ったさ。

 きっとこれは奇跡だってね。

 だから、ベルちゃんが総司のお嫁さんになるんじゃないかって、思ったのさ。


 去年は、お金も溜まったし、その友達のことも分かってきたからと言って、うちを辞めて旅立ったんだ。


 そしたら、去年の秋ごろにひょっこり戻ってきて、友達に会えたと報告してくれたんだ。

 嬉しそうだったね、なあ父ちゃん!」

 

「そうそう、それでいろんな話をしているうちに、俺が愚痴をこぼしたんだ。最近、景気が悪くて、お客さんも減ってきたってさ…………」


「そしたらね、ジョンちゃんがホテルを改装したらって、アイディアを出してくれたんだ。ジョンちゃんはすごいんだよ…………うちの経理帳簿を見るなり、必要な予算と予測収益も計算してくれたんだ」



「そこで、俺達の出番という訳さ。俺と高背で設計を詰めて、後はアンディ―にフル回転してもらったんだ」


「それにねえ~たま先輩の設計がまたすごいんだよ。なんせ、地下を3階ぶち抜きでプラネタリウムだからね~お客さんがこれを目当てに泊まりに来るってわけさ」


 何だよ、うちのホテルは、悪の組織フル回転で、リニューアルしてたんだ。だから、あんなにメカニック満載のプラネタリウムになってたのか。


「ひょっとして、最上階の大浴場も改修したのは、玉さん達なのかい?」


「お、さすが教頭先生、ご名答。とは、言いたいけど、それだけじゃないんだ。……最上階にはもう一つ、とっておきのお風呂があるんだよ」


「おおーーと、玉さん、それは今晩、ベルちゃん達の貸し切りで披露することになっているから、まだ話しちゃだめだよ」


「ああ、女将さんそうでしたか。……ベルちゃん、教頭、今晩を楽しみにな…………それじゃ、俺達はこれからプラネタリウムの営業開始準備に行ってくるから、また結婚式でな」


「ああ、……結婚式?……誰の?いつ?……」



「ソージ、あたし達も行くよ~早く食べないと、美味しい納豆アイスが溶けちゃうよ~」


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