第45話 砂浜への前哨戦🍧3(どれがいい?)
「いかがですか、お客様?………」
黒のスラックス、白のワイシャツに紺の蝶ネクタイ、首にはメジャーを垂らしている。
「どこから見ても一流の店員さんね……」
ジョセフィーヌが、少しうっとりしながら褒めた。
「おいおい、ジョン。これは、あのバスパの変装なんだぞ……お前が見とれてどうするよ!」
呆れてトールが、ぼやいた。
「イエイエ、トール様、ジョセフィーヌお嬢様も、今は私の大切なお客様ですので
………この私の100万ドルの微笑みを手に入れていただけると、私の商売もしやすくなるというものです……」
そう言うなり、片手を伸ばして、ジョンの目に自分の視線を合わせてから、ウィンクを一つ送った。
「……あーああ~……」
彼女は、その場で座り込んでしまった。
「あーはいはい、もーいいから、バスパは、さっさと行きなさい……ジョンが正気に戻ったらすぐに追いかけるから……」
キング指令は、部屋の戸を開けて送り出し、部下のトールを同行させた。
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〔街の総合デパート〕
「……教頭先生、本当にここで買うのか?」
栄養教諭のめぐみは、デパートの水着売り場を一渡り眺めてから、不服そうに聞いた。
「何言ってる!ここは、この町一番の品揃えなの!……ここで十分なの」
岸川教頭は、自信をもってここを推薦した。
「いいじゃないか、メグちゃん。総司がそう言うんだから、きっとお前さんに似合うものもあるよ」
校務技師の鎌田が、めぐみをなだめた。
「それにしても、ワシまで来なくても良かったんじゃないか?」
「ううん!鎌田のおっちゃんも仲間なの!一緒に水着を見てね……」
ベルフィールが、甘えるように言うと、めぐみも少し意地悪な笑みを浮かべて付け加えた。
「おっちゃんと教頭先生にも水着を買ってもらわなきゃならないのよね~」
今回の旅行は、海と温泉に行くことに、教頭の発案で決まった。でも、どこに泊まるか、何をするか、などの細かなことは、まったく未定だった。
そこで、張り切ったのがめぐみだった。
旅行の計画や旅館の予約、行先でのイベントなど、すべて一人でこなしたのだ。
だから、恐ろしいことに、秘密の部分が多く、他の誰も知らないことが、山ほどあった。
「じゃあ、まず、海に入るための水着を買いましょうね……サイズはみんなわかるかな?」
めぐみは、みんなを舐めるように見まわした。
「え~サイズなんて、私しらないよ~」
ベルフィールだけが、両手を上げて、首を横に振った。
「そうよね~、ベルちゃんは、洋服も教頭先生が買っているんだもんね~
………ところで、下着とかはどうしてるの?」
「ああ、もちろん、あれも全部、教頭が買ってくれるよ!」
「えええ!」
「だって、どうせ、洗濯してくれるんだし、いいじゃない!……ね、教頭!」
岸川教頭は、頭を抱えてしまった。
「ああ、ベルちゃん、それは、あんまり言わない方がいいかも…………んっと、教頭先生、ベルちゃんのサイズは?」
「……あ、ああ~えっと、Fカップで、トップが☆☆で、アンダーが☆☆で、ウェストが☆☆、ヒップが☆☆で、身長が僕と同じで……体重が…」
「あああ、もういいです、いいです……わかりました。
十分です。
すごいわ……教頭先生……。
やっぱり、もう十分お母さんじゃないかしらね……。
ベルちゃん、本当によかったわね…うううううゥゥゥゥゥ………」
めぐみは、呆れ果ててしまって、最後は泣きそうになっていた。
「あら、可愛いお嬢様達と素敵なダンディーの御二方?水着をお探しですか?」
「あ、店員さん、丁度良かったわ……私とこの子に合う水着はどれかしら?今度、海に行くのよね~」
めぐみは、蝶ネクタイの店員に、自分達のサイズ票を渡して、いくつか水着を見繕って貰おうと考えた。
「おや?お嬢様方は、もう素敵な水着を持ちじゃありませんか!」
店員は、2人を見るなり、満面の笑顔で踊り出した。
「え?何言ってんの?……私達は、まだ、水着は、買ってないわよ……」
「いえいえ、こんな、売り物じゃなくて……その素肌が……最大の水着じゃありませんか?
……その素肌のままで海に入れば、人魚そのもの。
その辺の男も女も海に浮かぶ泡のごとく群がってくること間違いなしですよ~~オホホホ!」
「まったく、何言ってんだろうね~この店員さんは~」
めぐみは、口ではそう言いながらも、口元が緩み、目じりが下がって、満更でもなかった。
「ねえ、総司?私達は、何も着ないで、すっぽんぽんで海に行った方が、みんな喜ぶのか?」
ベルフィールが、岸川教頭の耳元で真面目な顔をして尋ねた。
「ううーん……」
「そりゃ、みんなは、喜ぶけど総司はきっと怒るからベルちゃんは止めておけよ……」
すかさず鎌田技師は、笑顔でベルフィールに耳打ちした。
「メグ、いいから、早く選べって……」
岸川教頭が、眉間に皺を寄らせて、急がせた。
「……冗談はいいから店員さん、いくつか持ってきてよ……」
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いくつかの候補から、
ロングで黒髪のベルフィールは、白いドレス型スカート付きにした。
めぐみは、活発で活動的なスタイルからグリーンとイエローのグラデーションが斜めにかかったオーソドックスな上下つながった水着にした。
ただ、緩やかなウェーブがかかった明るい肩までの髪と蛍光色の水着は、とてもよくマッチし華やかに見えた。
男子も筋肉質の鎌田技師は、黒に白のラインが入ったハーフパンツ型、少しぽっちゃり系の岸川教頭は、明るいオレンジと黄色のストライプ柄にした。
どちらも、よく目立つので女子からは高評価だった。
「さて、ここで、もう一点水着を買ってもらいます。どこで使うかは秘密ですが、女子は、ビキニを、男子は、競泳用のビキニを購入してもらいます」
今度は、怪しい笑いをこらえているのが良くわかった。
「……それならば、どうぞこちらへ………」
先ほどの店員に連れていかれたのは、怪しい物ばかりが展示されている場所だった。
「ちょちょちょっと……ここで、選ぶの?」
言い出した、めぐみでさえ、驚くほどのものが置かれていた。
「んんっとね……教頭は、どれがいい?」
「え?僕に聞く?……あ、う、……何でもいい……」
「じゃあね……私は……これにする!!………教頭も、これにしたら?」
「うん、……じゃあ……いいよ……それで……」
「ふーーん、それでいいんだ………、おっちゃんは?」
「わしも、何でもいいぞ!」
「じゃあ、おちゃんも、これね!」
「毎度ありがとうございまーーーーす。よい、ご旅行をーーーー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「バスパ、うまくいったか?」
「もちろんですよ~指令!うふぁふぁふぁ……あの水着……楽しみです……」
「ところで、バスパ……私も水着が欲しいんだけど」
「おーーーこれは失礼しましたお嬢様……どうぞこちらへ………」
「え?……何、これ?……これが水着なの?……こんなので大丈夫なの?」
「何をおっしゃいます……あのベルフィールは、すぐに“これ”に決めて買っていきましたぞ!お嬢様は、どうされますか?」
「何ですって!……じゃあ、私は…………うーーーもっと……すごい……これにするわ!これください!!」
「ありがとうございます。毎度どーーーも。お嬢様―も、よいご旅行をーーーーー!!」
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