第35話 がんばれ!宿泊の攻防戦💛3 (わざわざテント)
「うーーん!お弁当も食べたし、今度はお昼寝だな!」
「こら、ベル(#^ω^)……違うだろ?」
満腹でリラックスのベルフィールは、また岸川教頭に怒られてしまった。
「あはははは、それにしてもベルちゃんと教頭先生は、仲がいいんだね~」
ただ、それを見ていた細谷先生は、目を細めて喜んで見ていた。
「あのー、次はテントを建てないとダメなんじゃないかと……」
1組の小田先生が、今日の“旅のしおり”を見ながら言った。
宿泊学習の下見が決まった時、細谷先生と鈴木先生は、教頭先生と相談して日程などを細かく記した“旅のしおり”を作成した。
「そんなの簡単じゃん、魔法でジャジャジャアーーンとやれば、あっという間にできるぞ!」
ベルフィールは、簡単に腕を振りながら、(見せようか?)という素振りをした。
「だから、お前ができてもダメなの!……子ども達は魔法が使えないの!!」
「チェッ!不便だな!!」
「今更、何言ってんだよ……さあさあ、自分でやり方を覚えるの?」
と、岸川教頭に言われて、頬っぺたを膨らませすねて見せた。
すると、2組の松田先生が、
「でも、ベル先生は、すごいわよね~。
何でも魔法で出来るんだものね~。
料理は苦手って言ってたけど、
毎日一人で生活してるんだもの。
この異世界に来て頑張ってるなんて、尊敬するわ~。
一人で生活するには、毎日の洗濯や掃除、おうちの家事全般なんか、面倒だもんね。
私も一人暮らしで大変なのよ、仕事だけでもうヘトヘトになっちゃって
……本当にすごいわ、ベル先生は……」
と、ベルフィールをベタ褒めした。
「いや~それほどでも~~…………」
急にベルフィールは、顔が赤くなり、照れてしまったが、岸川教頭の方を見てしまったら、さらに顔が赤くなってしまった。
「誰が、頑張っているって?……ベル?……え?」
岸川教頭が、ベルフィールに念押しをすると、
「まあ、あ、ああ、教頭先生も、頑張っていますよね……」
「…教頭先生も……?」
「あ、いえ………教頭先生は……です…」
「……はい、よくできました……」
まわりの人達には、今一つ2人の会話の本当の意味は伝わらなかったが、仲の良さは何となく理解された。
その時、遠くから荷物を抱えた男の人が、大声で呼ぶ声がした。
「おーい、忘れ物だぞーーー」
「あ、管理棟の人だ。大量のマットを持っているぞ……ちょっと、オレ様子見てきまっす」
園部先生は、走って傍まで何事か聞きに行った。
「いやーーいすみませんねー。これを、渡さなくては……」
管理棟の人が持っていたのは、テントの下に敷く防寒用のマットだった。このマットは、防水とクッションの役割も兼ねていて、これを敷くことで、体への負担も軽減されるとのことだった。
「ついでに、テント設営について、簡単に説明しておきますね…………
うちのキャンプ場は、ところどころに小さな林があり、風よけになっています。
これを目安にテントを張ると、いざというときにテントが風で飛ばされる心配が減ります。
また、この林を拠点に炊事場と仮設トイレがありますから、テント設営の目安になります。
ただし、あまり林の近くにテントを設営すると、
人の出入りも多くなりますから、
夜は落ち着かなくなることも予想されますので、ご注意ください………
あ、広場のところどころに、
キャンファイヤー用のエリヤが設けられていますのでご自由にお使いください。
薪の準備も近くにしてあります。
最後に火の始末だけしてくだされば構いません。
手持ち花火もそこの場所でしてください。
うちのキャンプ場は、打ち上げ花火は、禁止です。
では、ごゆっくりお楽しみください」
この男性の管理棟の職員は、にこやかに説明を終えるとそそくさと帰っていった。
見送りながら、園部先生は、
「それにしても、あの人すごいっすよー。
1人であのマット6本を軽々と担いでいたっす。
途中で、オレ2本持たせてもらったんすが、長いマットだったんで、前が見えなくて大変だったっす。
……オレならぜってイ、ありえないっす」
と、荷物をその場に放り出して、両腕をマッサージし始めた。
「じゃあ、少し炊事場から少し離してテントを建てるか…………道具の移動………ベル、頼む」
と、岸川教頭は、手を合わせた。
「おう!このくらい……ベンはだらしないなあ~」
と、ベルフィールは言いながら6本のマットを片手で持ち上げて運び出した。
「「「「ひへええええーーーーΣ(・□・;)」」」」
初めて彼女の怪力を見るみんなは、驚きの声をあげた。
・・・・・・・・・・
「まずは、真ん中に共有テントをみんなで建ててみます」
「はい……教頭先生、共有テントって何ですか?」
「朝子先生、いい質問ですね………
共有テントとは、みんなでご飯を食べたり、会議を開いたり、そこで共通のことをする場所です。
もし、どこかのテントでそれをやってしまうと、早めに寝たい人は困ってしまいます。
だから、来週の宿泊学習でも、先生達の共有テントを作ります」
「……なるほどなあ……じゃあさ、保健室テントも、1張り作ってくれ。
ぐわいの悪い子は、たぶん家に帰すことになるが、それまで休ませるためには、他の子と別なテントにした方がいいと思うから。
それにちょっとした手当なら、そこでできるだろう?」
「さすが、細谷先生。養教としての意見、承りました……テントは追加しておきましょう」
「はい!教頭……」
「おや?ベル君、何ですか?」
「オヤツテントも欲しいです」
「オヤツテント?…………なんですか、それは?」
「いつでも、好きな時に、そこに行けば、オヤツが食べられるテントです」
「却下です」
「ケチ!!!!」
「このテントは、子どもが使うやつと同じです…………
組み立て方は、同じです。
四角い形になっていて、一方が出入り口で、縦にチャックが付いています。
広げて方向を確認してください。
…………大事なことは、地面のどこに置くかです。
下は芝生ですが、意外とデコボコしていたり、穴があったりしますので、そこを確かめます。
あと、斜めになっていたら、出口が下向きの方向がいいです。
もし雨が降っても、入ってこないようにです」
「え?教頭!雨が降ってもやるのか?」
ベルフィールが、慌てて聞いた。
「もちろんやります。宿泊学習は、半分サバイバルの訓練も入っているから楽しいのです」
岸川教頭は、ニヤッと笑って半分冗談のつもりだったが、
「そりゃ、私は、慣れているから平気だぞ……
雨なんかは、防御魔法を広範囲に広げるだけでしのげるが…………
子ども達に使ってもいいのか?」
「防御魔法??……ああ、ううん……まあ、使うときは、指示するから
……勝手に使うなよ……」
逆に岸川教頭の方が、引きつってしまった。
「後は、このテントの上部の差し込み口に、アルミの棒を組み立てて差し込み、角の4本の足を地面に突き立て、ロープで固定するんだ」
「簡単ですね……これなら、私でもできますよ」
キャンプ素人の松田先生も安心したようだった。
「ロープを打ち込む力仕事は、オレに任せてほしいっす……ベル先生ほどには無いけど、ピンぐらいは刺せますから」
園部先生も張り切っていた。
「そして、最後に、この防寒マットを1張りにつき2枚敷き詰めてください。
後は、寝るのは各自寝袋で寝ますが………
頭の方向だけは、話し合って決めた方がいいでしょう」
「教頭先生……どういうことですか?みんな同じ方向じゃないんですか?」
小田先生が、不思議がって質問した。
すると、養教の細谷先生が、
「あのなあ~、世の中いろんな人がいるんだよ………イビキのひどい奴がいるんだったら、気にする奴は頭を逆にすればいいことさ、いいじゃんじゃない」
と、ストレートな言い方をしたが、これには鈴木先生も賛成してくれた。
「うちの旦那なんか、疲れた時に限って、すごいイビキをかくのよね~。
そんな時は、こっちも疲れてるもんだから、ヘリコプターが部屋に飛んで来たんじゃないかって、子どもがびっくりして起きてきたことがあったわよ!あははは……
だから、いいんじゃないの
………イビキでも、歯ぎしりでも……
かきたいだけかけば、
自分が寝てる時のことなんだから平気よ、気にしなくて大丈夫よ!
気にする人が、対策すれば……それでOKよ」
「「「 わかりました……そうしましょう 」」」
「教頭、お前は、イビキをかくのか?」
ベルフィールが、まじまじと岸川教頭の顔を見ながら聞いた。
「僕か?……僕は、ほとり暮らしなんで……知らん!」
「そうか…………」
彼女は、それ以上は何も言わなかったが、口角が微妙に持ちあがった。
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