第27話 運動会危機一髪 4 (これは序章です…)
「大成功だったな、さすがジョンだ!」
「いいえキング指令、これはまだ序章なんです……」
アジトに戻ったジョセフィーヌは、すぐに衣装も会計係用の事務服になっていた。ただ、黒縁の眼鏡だけは、相変わらず彼女の迫力を感じさせていた。
「キング指令、私はこれから商工会の副専務と会ってきます。後は、よろしくお願いいたします」
黒縁の奥で輝く眼光が、もう次のターゲットを照らしているようだった。
「ああ、わかった。ジョンも、無理はするな……先は長いぞ!」
「はい、わかっています……」
傘をさして、急ぎ足で彼女は、商店街にある商工会の事務所ではなく、その裏手にある副専務の経営する小さな貸倉庫店を目指した。
「あーあ、いつまで降るんだべか?」
自分達で降らせた雨のくせに、タンクは、恨めしそうにぼやいていた。
実は、タンクも運動会を楽しみにしていたのである。
「なーに、心配することはない、雨はもうすぐ止んで、明日は運動会ができるんだ!」
トールは、薄笑いを浮かべながら、はっきりと宣言したのだった。
「え?……こんなに雨が降っているのに?……もうすぐ止むの?」
「タンクってば、お前、ジョンの話を聞いてなかったのか?
……あのドローンで、積んでいったのはドライアイスだ。
ジョンは、昔、ある会社の研究室にいて、いろいろな武器の研究を任されていたそうだ。
ドライアイスに、特殊なレーザー光線を当て、冷却ストームを作り出すことに成功したそうだ。
これは、特別な雨雲を作り出し、急激に雨を降らせるそうだ。
ただ、ドライアイスで作った雲なので、一定時間が経過すると、すぐに雨は止み、青空が戻る特徴があるんだそうだ」
「へーーー、便利な機械だなーーー」
タンクは、今、初めて聞いたような驚きの声をあげていた。
「わしは、トールをドローンのパイロットにして正解だったな……。
こらっ!タンク、今度、作戦会議の時に、寝ていたら、許さんぞ!」
「へい、すみません……」
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【同じ頃、学校では………】
「校長先生……今日の運動会は、この雨では無理です。今から、連絡して明日に延期ということでよろしいですか?」
岸川教頭が、予定通りの行動を確認した。
ベルフィール主幹をはじめ、校務分掌のリーダーを担う教員や校務技師の鎌田、PTA会長や主だったPTA役員も集まっていた。
「教頭、それじゃあ今日は、日曜日なので、お休みなのか?」
ベルフィールが、確認した。
「そうだな……仕方ないが、運動会は順延で、天気がよければ、明日ということになるが……」
と、言いかけて窓の外を見ると、あれだけ強い雨が降っていたのに、少しずつ雨足が弱まり、いつしか雨は止んでしまった。
「……雨が、止んだぞ……」
PTA会長が、そう言って窓際まで走り寄っていった。
「そうですねー………できますね…………運動会………」
校長がそう言うと、職員室にいるみんなが、急に盛り上がり、声も沸き上がってきた。
「ああ、でも、今日はダメですよ……
これだけ、グラウンドが濡れたら、今日はできませんからね………明日です」
校長は、いたって冷静に結論を確認した。
岸川教頭は、急いで全校メール配信で、今日の運動会中止と、明日への延期についての連絡を保護者に流した。
また、PTA会長は、商店街の商工会会長を通して、町民防災無線を使って、第1古里山小学校の運動会が、明日に延期になったことを校区内の一般家庭にも連絡した。
「……なあ、教頭……」
ベルフィールが、教頭の傍に来て、小声で心配そうに何かを聞きたそうに話しかけた。
「ん?……どうした?ベル」
「あれは、どうするんだ?」
「あれ?……あれって?」
「夕べ、2人で作ったあれだよ?」
ベルは、教頭のジャージを引っ張りながらしつこく聞いた。
今朝は、花火を上げたり、雨で急いで学校へ向かったりしたので、教頭もベルフィールも、ジャージ姿だった。
「おや、何を2人でこそこそとやっているんですか?」
PTA会長が、ニヤニヤしながら、教頭とベルフィールの話を小耳にはさんで、話しかけてきた。
教頭はあわてて、
「いや…何でもありませんから、こっちのことで………」
と、ごまかしたつもりだったが、余計に怪しくなった。
「そういや~、お2人とも、御揃いのジャージとは、仲のよろしいことで……」
「(あちゃー、運動会では着替えようと思ってたのに……焦ってそのままだった…)
いや、これは、2着だと安かったので……」
と、またまた変な言い訳になっていた。
すると、ベルフィールが、
「えっとな~~、……教頭が作ったお弁当が、もったいなくて、運動会が無くなったら、どうなるのかな~~と思って……」
と、真剣な顔で、言った。
「そうか……お弁当か、教頭先生の料理の腕は、評判だもんな…………」
と、PTA会長も料理のことを知っていた。
「じゃあ、教頭先生、仕事が終わったら、今日作ったお弁当を学校へ持ってきたらどうかな?
みんなで味見してあげますよ!………ねえ、みなさん、どうですか?」
「「「「「「 さんせーーーい!!!」」」」」」
その場に居る人が、全員賛成した。
「いや、運動会の時は、そうするつもりでしたから、いいんですけどね……わかりましたよ……じゃあ、もってきますよ」
「わーーーい!!やったーー。お弁当が、食べられる!!!」
誰よりも喜んだのが、ベルフィールだったかもしれない。
「持ってくるの、手伝うよ、総司!いくらでも持てるから、任せて!」
運動会は、延期になったが、日曜日の学校の午前中、少し早い時間ではあったが、岸川教頭とお手伝いのベルフィールが作ったお弁当のお披露目の時間になった。
その場にいた人達で、運動会以上に楽しいひとときを過ごせた、お弁当タイムだった。
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