第26話 運動会危機一髪 3 (花火は上がれど……)

「……よし!完成だ。……お疲れ、僕は、運動会の花火を上げて来るよ」

「あ・・・・。うん・・・ん、ふう……んぐうううゥゥゥ………」

 明け方までお弁当作りの手伝いをさせられたベルフィールは、岸川教頭が出かけるとすぐに居眠りをはじめてしまった。

 お腹の方は、途中のつまみ食いで十分満足しているので、しばらくは大丈夫のようである。


 外は、快晴。運動会の決行を知らせる打ち上げ花火は、教頭の仕事である。

「よう、総司、遅かったな」

「あ、技師長……、すみません、ぎりぎりまで弁当を作っていたもので」

「なんだ、ベルちゃんと食べるやつか?」


「ちゃんと、みんなの分もありますよ……」

「おや、ということは、私もごちそうになれるのかな?」

と、南部校長が、PTA会長を連れて花火を上げるグラウンドの中心に表れた。


「校長先生、それにPTA会長さん、おはようございます。今日は、いい天気ですよ。風も無いし、絶好の運動会日和です」


「そうですな……教頭先生、盛大な花火を上げて、地域のみんなに知らせてください。お願いしますぞ!」

 もちろんPTA会長も運動会を楽しみにしている。

 花火の打ち上げは、日の出直後と決まっている。その時間に花火が上がれば、運動会が行われることが確定し、地域の人達は弁当作りを開始する。

 もちろん下ごしらえなどは、前日からしているが、本番の弁当作りは、この花火が合図になるのだ。


「今年は、岸川教頭が、はりきったんですな~」

 PTA会長が、ニヤけた顔して校長と話しているのが聞こえてきた。

「なんせ今年は、ベルフィール主幹先生とコンビを組んで、がんばっていますからね~」

と、校長も目を細めていた。


「(・・・・・?南部校長、詳しいな?……そう言えば、前にも作戦会議の前に電話が来たり、やけに僕らの事に…………)」


「さあ、総司……そろそろ時間だぞ」

 校務技師の鎌田が、打ち上げ花火を手渡した。

教頭は、グラウンドの真ん中に鉄の杭で固定された筒状の発射台に花火の火薬が詰まった球体を静かに入れた。

球体の端は、細長い導火線がついていて、その先は少し切り込みを入れてある。

そうすることで花火に引火しやすくなっているのである。

 すべて、岸川教頭の仕事だ。

そこまで、準備が整ったら、みんなに合図を送る。


「下がってください……点火しまーーす」


 自動の装置で、発射台から1メートルほど伸びた導火線に点火した。あっという間に、筒の中に火が燃え移り、


「ビューーーーーーー」

と、風が巻き上がる音がしたと思ったら


「……ドン……ドドン………ドン………ッドオン……ドン」

と、5発の大きな音が、鳴り響いた。


「よし!これで、運動会がはじまるぞ!」

 青い空に、花火の白い煙りの後が、5つほど小さな塊になって、ふんわりと漂っていた。





=============================

【同時刻、花火の音を聞いたと同時に……】



「ドローン発進!」

「発進します……目標、上空1000メートル」

 キング指令は、意気揚々と命令を下し、部下のトールは巧みにドローンを操った。


「風はないですが、少し重いので、気を付けてください」

 戦闘服に身を包んだジョンが、的確な指示を送る。


「そろそろ、1000メートルです。指令、作戦を開始しますか?」

 トールは、ドローンの操縦桿を握りしめ、小さなモニター画面を見つめていた。

「よし、冷却ストームスイッチオン」

 指令が、次の作戦行動を告げた。

 トールが、操縦桿の親指のところにある赤いボタンを押した。


 上空のドローンに搭載されていた、大きな荷物の中心部分から、白色の煙が静かに湧き出し、みるみるうちにドローンの飛行区域に雲を出現させていったのである。





===========================

【教頭が、アパートに戻って……】



「……ベル?……ベル?……そろそろ起きろよ!……」

「……ん?……あ、総司?……お帰り?……運動会は終わった?」

「何、言ってんだい。まだ、お弁当も食べてないだろう?」


「あ!!そうだった!!……お弁当を食べないと……」

「……だけど、ベルは、けっこうつまみ食いしてたから、もうお弁当は飽きたんじゃないかい?」


「え?……そんなことないもん!!……つまみ食いと、本当のお弁当は、違うの!!」

 口をトンガらがせて、ベルフィールは怒って見せたが、目はいつものように笑っていた。


 その時、彼女が窓の方を見て大きな声をあげた。

「総司、雨だよ!🌧️」


びっくりして、教頭も叫びながら窓の方へ走った。

「そ、そんな、馬鹿な!……あんなに晴れてしたし、天気予報だって……」


今は、涙ほどの雨粒だったが、空は真っ暗で、時期に傘が必要になるくらいの雨は予想ができた。

「何てことだ。急いで学校へ行かないと……ベルも行くぞ!」


 2人は、寝ないで作った弁当も忘れて、慌てて学校へ向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る