第17話 ベルフィールの杞憂 2 (誰と比べて?)

「ベルちゃん、また敵をやっつけちゃったんですって?」

 教頭お手製のパンプキンスープをスプーンですくいながら、めぐみは楽しそうにベルに話しかけた。


「ええ……」


 しかし、一言だけの返事しか返ってこず、ベルの様子にめぐみは不審を抱いた。

「教頭先生、まさかベルちゃんに、何か変なことしました?」

 次の料理の仕込みをしている教頭を、めぐみが下から覗き込むように見た。


「何を言ってんだ。

……ところで、いつの間に来たんだ。さっきは、忙しいとか言って来なかったくせに」

「……だって、暗くなってからの音楽室なんか、誰が……」

 さすがのめぐみも、怖いものはあるようだった。


「ところで、教頭先生、ベルちゃんの様子がおかしいような気がするんだけど………」

「ああ、めぐみも気がついたか……僕は、てっきりガス欠かと思ったんだけど………」

 教頭は、ベルが平らげた料理の皿を指さした。


 前菜のサラダの皿10枚、

パンプキンスープ皿10枚、

これを今平らげたばかりだ。

そして、今メインディッシュ、牛のステーキ10キロを焼いているところだ。


「ええ~と、これだけ食べて、

あのテンションの低さは、おかし~~~い。ぜ~~ったいに、おかし~~い!」

 めぐみは、これ以上教頭には任せられないと考え、ベルの傍に行った。


「ベルちゃん、次はねお肉なのよ。

おいしいお肉には、おいしいお酒が合うの。

先にちょっと飲んでおくと、体がなじむのよね~

一緒に飲みましょう。はい、どうぞ……」

と、言ってめぐみは、シャレたグラスに、赤ワインを入れて渡した。


「ええ、いただくわ……」

 そう言って、ベルは一口でグラスのワインを飲み干してしまった。

すると、ベルの頬がほんのり薄ピンクに染まってきた。

それを見ためぐみがすかさず、

ベルの手を握り

すぐ近くに座って

耳元でささやき出した。


「ねえ、ベルちゃん。何が心配なの?

困ったことがあったら、言ってごらんさい。」


 しばらくベルは、目を閉じて下を向いたままだったが、

ゆっくりと顔を上げてめぐみの方を見ると


「メグちゃん、私心配なの。

あの悪者達……あんなに弱いんだもの……

きっと、何かあるんだわ……きっと………なにか………たくらん………で…………グウ……ス……zzzz」

「寝たわ……」

「え?どういうこと?」


 教頭は、びっくりして、聞き返した。


「ベルちゃんは、敵が弱すぎることを心配してたのね……」

「そんな……あの敵は、弱くはないぞ……君だって、やられそうになったじゃないか?」

 教頭は、最初にめぐみと出会って仲間にした時のことを思い出し、反論した。

「教頭先生、何言ってるの?

……私やあなたは、普通の人間よ。

あの敵より弱くて当たり前なの…………

でもベルちゃんは、違うの。

ベルちゃんは、エルフなの。

しかも、一流の警備会社の社員なの。

今までは、もっと強い敵と戦っていたのよ」


「そうなのか……」

 今更ながら、驚いた教頭だった。


「………めぐみ、

ところで、何でベルは急に話してくれたんだ。

ベルは、ワインぐらいでは酔っぱらわないだろう?」


「ああ、だから、赤ワインにテキーラを混ぜて、カクテルを作ったのよ。

あれなら、さすがのベルちゃんも、酔って話してくれると思ったのよ……」


「まったく、お前は、敵にまわしたくないタイプだね……」

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