神秘のアルカナ
回転
第0話
この世界は神秘であふれている。
広大に広がる海。命の呼吸を感じる森林。眼前に広がる一面の花畑。骨が徘徊し、魂が楽しそうに飛び回る町。
この世界には、様々な景色がある。
だが、数々の心躍る神秘的な光景が世界にあろうとも、家の扉を開け、外に出なければ知ることはない。
なら、取るべき行動は一つ。
扉を開け、外に出よう。
神秘のアルカナ
「ジズや、明日、ついに行くのじゃな。」
月明かりが地面を照らすころ、町から少し離れた家に住む老人が少年に言った。
「うん。明日から学校だよ。当分この家には戻ってこれないね。一人でも大丈夫だと思うけど、気を付けてね。ルーンおじさん。」
僕、ジズは、ルーンおじさんにそういった。
ルーンおじさんは、両親が他界してしまい、一人になった僕を引き取ってくれた。
僕にとってはとても大切な恩人であり家族だ。
僕は、そんなルーンおじさんの元を離れ、明日から学校へ行くことになった。
この国では、15歳になった人間は学校へ1年間通い、生きていく最低限のすべを学ぶことになっている。
だが、ふもとの町には学校がなく、隣町まで行かなくてはならない。隣町へは馬車で1時間ほどかかり、馬車代も高くつくので苦汁の決断で入寮することを決めた。
「明日からこの家ともさよならかぁ。」
「寂しくなったらいつでも戻ってくると良い。ここはまぎれもなくジズの家じゃ。」
「ありがとう。ルーンおじさん。」
「明日は早いんじゃろ?今日は早めに寝ときなさい。」
「うん。準備も終わったし、お風呂に入った後に寝ようかな。」
「そうかそうか。わしは先に寝ておるぞ。お休み。ジズや。」
「お休み。ルーンおじさん。」
その後、僕は入浴し、少したってからゆっくりと布団に入り、静かに眠りへと入った。
次の日、朝早くに目覚め、顔と歯を磨き、着替えを済ませた。
「おはよう。ジズ。」ルーンおじさんは今起きたらしい。
「もうそろそろ時間か?」
「あと少ししたら出るよ。」
「そうか、なら少し待っておれ。」
そういい、ルーンおじさんは部屋の奥の方へと行き、3分ほどたった後に戻ってきた。
「ジズはアルカナは知っておるか?おそらく学校で学べると思うが。」
「あんまり詳しくは知らないよ。火を出したり水を出したりする「魔法」が使えるってことぐらい。」
アルカナは、50年位前に誕生した、魔法を使うためのカード型の道具だ。町では、主に自警団や、警官などが護身用に持っているらしい。
「そうか。なら、これを渡そう。」
ルーンおじさんはそう言い、「棒を肩にかけた人」のような絵が書いてあるアルカナを出してきた。
「このアルカナは、ほかのアルカナと違い、なんの力も、できることもない。形だけのアルカナじゃ。じゃが、持っていると幸運が訪れるとも聞く。お守りとして持って行くといい。」
そういい、ルーンおじさんはアルカナを差し出してきた。
「ありがとう。大切にするね。」
そういい、僕は差し出されたアルカナを受け取った。
「そろそろ時間じゃろ。準備はできておるな?」
「もちろん。荷物を持ってくるね。」
そういい、僕は部屋に置いてあった大きめのリュックサックを背負い、靴を履いた。
「それじゃあ、行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい。頑張って学ぶんじゃぞ。」
「もちろん!」
そういい、僕は家の扉を開けた。
眼前に広がるのは、海の奥に見えるまだ低い位置にある太陽。薄く赤みのかかった空に、広がる草原。少し遠くに見える町。
そんな景色の中、僕を前へと穏やかな風が僕を撫でた。
僕はこの景色を忘れないだろう。何も特別な景色じゃない。珍しい光景でもない。
でも、僕はこの景色が大好きだ。
この景色を覚えているからこそ、扉を開けるんだ。
新たな期待と不安を胸に、僕は外へと飛び出した。
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