ポストマン・ゲーム その1

「ねえ、エリザベスちゃん」

 北上を開始してしばらくしていると、エリナが機内通信で問いかけてきた。

「何よ……」

「エリザベスなんて言いにくいから、名前、約してもいい?」

 リジーは、なれなれしい……と、一瞬思ったが、一緒に飛行機に乗っているのだ。

 それに彼女は、ヨークタウンで初めての知り合いになってしまった。もう他人では済ませなくなってきている。

「……別にいいわよ」

 果たしてどんな名前の約が出るのか?

 先ほど飛び上がったとき、考え事していたと言ったが、このことか?

「じゃあ、ベティちゃん」

「えッ、嫌よ。そんな……どこかの女優みたいなの」

 チラリと巻き毛のその女優の顔が浮かんだ。だが、それは自分とは似ても似つかない顔をしている。体格も全く違う。

「ベティって、故郷のパン屋の娘さんだった人との愛称なんだけど……」

「絶対、不許可よ。そんな名前」

 ますます、そんな名前では呼ばれたくないと、彼女は拒絶反応を示した。

「じゃあ、なんて呼んだらいい?」

「他の人からは……リジーって呼ばれているわ」

「リジーか……エリザベスを、どう約せばそれになるの?」

「エリナだって、愛称はネルよ」

「何それ? わたし、そんな風に呼ばれたことが無い」

「アンタはエリナで十分。だから、アタシのことはリジーって呼びなさい」

 そうリジーが言い切ると、機内通信の向こう側で笑っているように感じた。

「何よ。何か面白いことがあった?」

「いやぁ、ようやく緊張が解けた、と思って……。

 会ったときから、何かよそよそしい喋り方していたから……」

 そう言ってエリナは笑う。

「何よ。笑うことは無いでしょ」

 たしかにこれまで、彼女たちとの接し方に予防線を張っていた気がする。

 このヨークタウンの人……この桟橋屋タイプ・ゼロの人たちが、どんな人なのか計りかねていたのもあるかもしれないが、ふと彼女と話していて、なんとなく感じていたことがあった。

 この子なら、

 と……。


 エリナはリジーの指示に従い、何度か進路を微調整して目的の空域に侵入した。

 下は一面、乾燥した大地が広がっている。

 わずかに木がまばらに根を下ろして、その周りだけ枯れ草があるだけだ。

 彗星が落ちたおかげで、そこら中水浸しになったが、天変地異が落ち着くと元の気候に戻っていた場所もあるかもしれない。

 予定ならこのあたりのはずだが……。

 目をこらしても、代わり映えしない風景が続いている。

「無線に問いかけてみた?」

 と、エリナの言葉に思い出したことがあった。

 目的地に着いたら「特定の周波数で呼びかけてほしい」と、レジスターから言われていたことを……。

 メモした周波数に、無線機のダイヤルを合わせて呼びかけてみる。

 と、後方に信号弾があがった。

「エリナ、行き過ぎたみたい。ちょっと戻ってくれない」

「了解……」

 と、突然、機体が

 また急に向きを変える。中の人間は前のめりになると、右に押しつけられる。

「だから、急に曲がるなって言ったでしょッ!」

「ごめん。リジーちゃん」

 一応謝っているが、言葉だけかもしれない。


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