桟橋屋タイプ・ゼロ再び その2
「わたくし、エリザベス=シュトラッサーともうします」
とにかく自分の名前とこの街に来た理由。大学のための下宿屋周りをしていることを説明した。その途中で道に迷ってここに来たと……。
もちろん、テリーの後ろを付いて来たなど、口が裂けても言わない。
「大学生!?」
二人とも、そこで二人はびっくりしてリジーを見た。
どこかで体験した気がするが……もうなれている。だけど、気になるのは、説明している間、エリナという子が終始、ニタニタと笑っていたことだ。
「悪いが、オリバー=スミスという人は知らないねぇ」
一応、話の中にでっち上げた下宿先の名前が出てきた。
まだその設定が生きていたのか……リジー自身も半分忘れていたが、嘘を突き通さなければ、バレてしまうだろう。
「シュトラッサー? シュトラッサーってあの……」
レジスターは別のことで引っかかったようだ。
「あッ」
「ルイス・ヴォート社のシュトラッサー氏かね」
しかし、もっと別の隠していたことがバレるとは思わなかった。
「……ご存じなんですか?」
「ご存じも何も……」
レジスターは含み笑いをした。だから、嫌だったのだ。
その会社名を出たときに、嫌な予感がした。
シュトラッサーなんて、北方の国ではありふれた名字だが、このコンスティテューション連邦では珍しい。とはいっても、名字がすぐに『ルイス・ヴォート社』と直結するのは、彼が言う
(何者なの? この人?)
確か渡された名刺には『貿易商』と書かれていたが、本当かどうか怪しい限りだ。
「ルイス・ヴォート社って何ですか?」
無邪気にエリナが質問をした。
リジーは人の気も知らないで、と思っていたが、彼女が説明するよりも、このおしゃべりなホワイト・エリオン族が説明し始めた。
「
嫌がらせか、と思えるぐらいに『大型旅客』とはっきりと発音をした。
確かに彼女の実家は飛行艇メーカーだ。祖父の時代は、である。
あくまでも彼女の中では、翼が付く乗り物はすべて作っている。その中には大型飛行艇も含まれている、と言う認識だ。
手広く広げたのはあの父親だ。
元々は大型飛行艇一本だったが、小型機も下請けで製造していた。
それが気に入らなかったのか、父親は自社で開発できるよう技術者を集めた。そのために、強引と言われるようなヘッドハンティングしたのは聞いている。そうやって集めた優秀な技術者を集めて、小型機、ひいては軍用機の分野に入り込もうとした。だが、いきなり挑戦するハードルが高かった。
ちょうど海軍の新型機の開発競争に挑戦し……失敗した。
「お宅は
そう担当した海軍士官に言われたらしい。
性能面ではライバル会社の機体とは一線を画すものだったらしい。が、デザインが気に入らないだの、難癖が付けられたらしい。追加の要求にもなれていなかった。
そして決定的だったのは、量産能力に欠ける。と、言うものだ。
それは仕方がないことだ。元々、大型の飛行艇なんて大量生産するようなものではなかった。一機一機、手作りが基本だったところに、いきなり何百機の機体と、その予備部品の発注を処理する能力を求めるのは酷な話だ。
リジーは物心ついたときから、そんな父親を見てきた。でも、父親は諦めていないようで、たまに新規開発があると聞けば飛びつき、失敗を繰り返している。ただ不思議と経営が傾くようなことまではない。まあ、その辺のサポートは母親が全ういているのがあってのことだ。
「御社は
と、忠告されそれ以来、海軍では相手にされなくなった。
そして、海軍内では小馬鹿にされている。
それを、彼が言う
海軍に出入りしている商人ならまだしも、ましてや貿易商が知っているのはおかしい。
このレジスターという男。海軍の関係者に違いない、とリジーはにらんだ。
一般市民に紛れて情報収集する武官がいる、という噂はちらほら聞いたとがある。この人はそういう仕事をしているのではないだろうか、と……。
「スゴい! そんなお嬢様なんですね」
無邪気にエリナは言う。
確かにリジーはお嬢様だ。だが、何かといえばシュトラッサー家の人間、お嬢様と、別格扱いされたことに嫌気がさしていた。
自分が嫌がっても、家の名前は付いて回ってきた。
高校の飛行機クラブに入ったのも、一人の人間として扱ってほしかったからだ。
母親からは危険だと反対されたが、機体の中では家柄なんて関係がない。
その人の能力がすべてだ。
生きるのも死ぬのも……。
(この子に分かってもらうのは無理か……)
リジーにはエリナが自由そうに見えた。
そして、自分の悩みなど分からないだろうと、感じてしまった。
これ以上ここで、話すことはない。先ほどの
立ち上がって退散することとしよう。
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