第14話 明のサッカー

 その日は土曜日。七菜ななな家の家族一同は一家全員分のサンドイッチと飲み物を持って県内のサッカーグラウンド場へとやってきた。

 あきらが所属するサッカークラブの試合の日なので家族総出で応援しに来た、というわけだ。


「行け! 行け!」

「マサル! 行け!」


 明は得意のドリブルで突破すると逆サイドにいるマサルに向けてボールを蹴る。彼はそれに合わせてヘディングしてゴールを狙うが……。


「あぁーっ……」

「惜しいねぇ。決定力がないのかなぁ……」


 ひめ林太郎りんたろうにわざと胸を押し付けながらそうぼやく。明の応援をしに来たんだろ? と言われてもお構いなしだ。

 確かに彼女の言うように明のチームは攻め込むが相手のゴールキーパーに阻まれたりゴールポストに弾かれたりと中々点が入らない。

 と同時に前半終了のホイッスルが鳴った。明所属のチームは前半戦が終了した時点で6回くらいは相手ゴールに食らいつくが決定打にはならず、結局前半は0-0で終わった。




「明のチームは攻めているんだけど決めきれてねぇよなぁ。積極的にゴール狙ってるから1点くらいオマケで入れてくれねえかなぁ?」

「林太郎、そんなルール改変したらサッカーじゃなくなるわよ?」


 サッカーについてあまり興味が無いのか、林太郎はそんなド素人のテキトーな意見を言うが凛香りんかからツッコミが入る。


「あら、凛香ってば林太郎君にも随分と慣れてきたかしら?」


 今年の秋で16歳という年頃だというのに男っ気の1つ無い凛香にも少しは男を意識できたかな? と彼女の母親である江梨香えりかがニコニコしながら娘の事を見ていたが……。


「お母さんってばすぐそうやって、私たちを男とくっつけようとするよね。そのクセ、直した方が良いわよ」

「いいじゃない。恋するって素敵な事でしょ? 私も栄一郎えいいちろうさんを見つけて婚約できたんだし」

「誰があんな奴に恋なんて……いつまでも白馬の王子様を信じていないで母親をやってってば。あ、後半戦が始まるみたい」


 ハーフタイムが終わり、前半後半あわせて40分のU-12の少年サッカー後半戦が始まった。




「「「がんばれー」」」


 七菜家の家族が応援するが後半戦になって5分もしない内に旗色はたいろは怪しくなる。

 明のチームはスタミナ切れでも起こしたのかメンバーの動きが徐々に鈍くなり、ボールについていくのがやっと。という状態だ。


 勝負が大きく動いたのは後半8分の頃だ。明のチームは味方のゴールポスト前まで相手チームに攻め込まれ、

 ボールを持った相手が右サイドから左へとボールをパスし、ボールが回ってきた直後にシュートを放つ。素早い動きにゴールキーパーも反応できずにゴールネットが揺れた。


「「「あぁーっ」」」


 明側である七菜家一同から落胆らくたんの声が出る。相手に先制点を許してしまったのだ。


「あと10分かそこらでゴールを決めなきゃいけないって、難しくない?」

「姫姉さん、姉さんの言う通りかなり難しいクエストだな。仲間はだいぶ疲れてるみたいだし……」

「姫、霧亜、縁起でもないこと言わないの。明を信じて勝てるよう応援しなさい」


 凛香は弱音を吐く妹2人に真っ当な事を言って応援させようとするが、点を取られたのは痛い。


 後半17分、またしても相手チームの攻めでシュートを打ってくる!

 ゴールキーパーは何とかボールをはじいて守るが攻めの手は緩まない。そのこぼれ球からダイレクトシュートを打ってくる!

 今度は反応できず、相手チームにとってダメ押しの追加得点を許してしまった。


 結局、今日の試合は0-2で明の所属するチームの負けだった。




「悪いな、みんな。応援してくれたけど勝てなかった」


 明が申し訳なさそうな顔して家族のもとへとやって来た。


「良いのよ明。アンタは十分活躍したわよ。前半戦の動きは良かったわ」

凛姉りんねぇ、励ましてんのか。ありがとな」

「明。試合で負けたのは悔しいってのは分かるが、悔しくても相手を恨んだりチームメイトにあたることだけはするなよ。

 サッカーはもちろん、ボクシングだって対戦相手がいて初めて試合が成り立つんだぞ? その辺は「スポーツマンシップ」って奴だ。対戦相手や仲間に対して最低限の礼儀を忘れるなよ」

「分かったよアニキ」


 凛香と林太郎はそう言って明に対して出来るだけ優しく接して試合に負けた彼女をねぎらう。


「明、お疲れ様。結局負けちゃったけど十分頑張ったわよ。じゃあお昼にしましょうか」


 そう言って持ってきたサンドイッチと水筒を出して、家族そろっての昼食が始まった。

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