第5話 ゴールデンウイークが明けて……
「俺は
「私は
眠くなるほど退屈な入学式を終えて新たなクラス、1年1組に配属された俺たちクラスメートはそうやって軽い自己紹介を行った。
中学の頃から不良でこの高校もマークシートをテキトーに塗って奇跡的に正解を引いて合格した俺みたいな男には、凛香は「
噂じゃ彼女が通っていた中学校では「クラスメートの男子は必ず1回は彼女に恋をする」だとか言われて相当な回数告白されていたらしい。容姿端麗かつ成績優秀の元生徒会長様ならそこまで人気が出てもうなづける。
「クラスメートだけど1度も会話しない相手」だとその時は思っていたんだが……。
◇◇◇
「凛香さん、このクラスにも不良があんなにいるなんて……なんか怖い」
「大丈夫よ。ああいう連中は見た目だけで何もしなければ害は無いから。舐められないように威嚇してるだけだから気にしなければ問題ないわ」
中学時代からの取り巻きがクラスの不良を怖がっているが、そんなに怖がる必要はないとアドバイスを送る。
私からしたら不良なんて何考えているか分からないけど、基本的には近寄りさえしなければ無害だとは分かっていた。
その不良である林太郎とは「クラスメートだけど1度も会話しない相手」だとその時は思っていたのに……。
◇◇◇
ゴールデンウイークが明けた日の凛香と林太郎が通う高校のクラスでは、2人の話が話題の中心だった。
教室のすみに固まっている、校則で禁止されているピアスを耳や口に付けたグループの中に彼の姿があった。
「よう林太郎! お前『お兄ちゃん』になったんだって? しかもあの凛香の兄と来たもんだ」
「!? なっ! テメェら知ってんのか!?」
「もちろんだよ、お前凛香のお兄ちゃんになったんだろ? 大出世じゃねえかやったなお前!」
「良い話だよなぁ。お前毎朝凛香から「おはよう、お兄ちゃん」って言われて毎晩「お休みなさい、お兄ちゃん」って言われるんだろ? っかーっ! うらやましい話だよなぁオイ!」
「テメェらそのネタで茶化すんじゃねえぞ。俺だって兄になりたくてなったわけじゃねえんだぞ?」
いわゆる『親しき仲にも礼儀あり』というわけではないが、そのネタで茶化そうとする仲間に対しにらみは利かせておく。不良という商売は舐められたら終わりなのだ。
「しかもアレだ。お前凛香以外にも妹が4人もいるんだって? マンガでも中々ないぜそういうの。お兄ちゃんは大変だねぇ?」
「ハハハッ、そうだそうだ。妹が5人もいるだなんて羨ましい限りだなぁオイ! 着替えや風呂場をのぞいたりはしねえだろうな?」
「バ、バカ言え! ンな事やったらどうなるか分からねえのかお前らは!」
「何だぁ? 林太郎、もしかして女に興味ねえとか? そっち系の人間かい?」
「なわけねえだろ! 妹相手だとしてもやって良い事と悪い事の区別くらいつくに決まってんだろ。ったく……」
『お兄ちゃん』になった事をいじられる林太郎だったが、その『妹』も大体同じような目に遭っていた。
「凛香さん、お兄ちゃんが出来たんですよね? おめでとうございます」
「おめでとうございます? 祝ってもらうような事じゃないわ。相手はあの不良の林太郎よ? アイツが私の兄になるなんて聞いてないわよ!」
「でも凛香さんは4人の妹の姉としてちゃんとやってますし、今度の兄が加わったことも何とかなるんじゃないんですか?」
「だといいけど……」
妹や姉なら自分と同じ「女」であるからある程度は分かる。だが相手は「兄」であり「男」だ。性別の違いというのは脳や身体の構造が違う位に大きな差だ。
彼女にとって男は未知の生き物だ。そんな奴と同じ屋根の下で暮らしていけるのだろうか? それがズシリと重くのしかかる。
妹の姫からは「自分達妹を頼っても良いよ」とは言われているが、最後の手段だ。自分で何とかしなくては、という思いは強かった。
「林太郎の奴も『年上の弟』みたいにあしらえるかもしれませんよ? 不良って一見扱いにくいけど実際には仲さえ深くなれば操りやすいっていうし」
「アンタは当事者じゃないからそんな事ホイホイと言えるんでしょ? 実際にあんな奴と一緒に暮らすことになった私の気持ちも少しは理解してってば」
「何か凛香さんらしくないですよねぇ。どんなことが起きても動じないと思ってたんですけど」
「そりゃ、私だって戸惑う事の1つや2つあるわよ。林太郎の奴が兄になるだなんて聞いてないし……」
中学の頃から凛香の事を知っているクラスメートという名の腰ぎんちゃくと話をしていると……。
「おはよう、朝礼を始めるぞ。席につけ」
いつの間にか教師が来て朝礼が始まる。
多くの生徒にとっては入学から1ヶ月も経っていることもあっていつもの通りの1日が、
林太郎と凛香にとっては「入学式のやり直し」とでも言える新たなスタートを切った日が始まった。
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