3度目の正直、タイトルはまだ未定だけどサーガレコード
星 久遠
第1話
そこに広がっていたのは今まで俺が過ごした日常とは全くの別世界だった。
ファンタジー小説に出てくるような生き物が目を向ければ簡単に見つかる。ふとみつけた発光体に興味が湧いた俺は、俺の隣に立っている俺の親となる男にその正体を聞いた。
「あぁ、あれはスプライトだね。妖精の一種だよ」
成る程、やはり
「しかしスプライトとは、炭酸のような名前だな」
「ふふ、ファンタジーなんてそんな物さ、私に言わせればファンタジーは伝説や伝承が形を得たものに他ならない。養殖なんだよ、この世界のファンタジーはね」
その言葉を口にした彼の目はどこか悲しそうだった。けれどもどこか決意に満ちた物でもあった気がする。
「行こうか。私の屋敷に案内しよう」
そう言った彼は門を開き、その先へと俺を誘った。
「ここが君の部屋だ」
案内されたのはこれまた豪華な部屋だった。珍しい事に部屋の形は六角形、目に入る範囲にはベッド、タンス、クローゼット、作業机、おいおい小型の冷蔵庫まであるじゃぁないか。
「とりあえずこれだけは用意した。足りない物があったら言ってくれれば持って来させよう」
「至れり尽くせりだな。しかも持って来させようと来たか、使用人でも居るのか?」
「まぁ似たようなものだね。いつか君も会う事があるだろう」
次に案内されたのがトイレだ。「いや〜、実は危なかったんだよね」と言って中に入っていく彼には揶揄われた様な気がして少しだけ怒りが沸いた。地味にトイレの中が小綺麗で無臭だった事にも何故かムカついた。同じ物が1階と2階に4つずつあるらしい。屋敷が広いとは言っていたがそんなに広いのか?
次は「ここは図書室、明日にでも入ってみるといい。以上」で締められた。トイレより文字数が少ない図書室の紹介があってたまるか。
玄関、ここで俺はいつの間にか靴からスリッパに履き替えさせられていた事に気づいた。玄関は六角形のタイルが敷き詰められていた。見える範囲に靴が無かったから「俺の靴は?」と聞けば彼は何かの意匠を施したタイルを押し込んで地面から石の靴箱を出現させた。傘立てもこの地面の中にあるらしい。雨とかで濡れたらどうやって干せばいいのやら。
洗面所、大浴場、食堂と回って案内がひと段落し、与えられた部屋で一息ついた頃には既に夜の帷が降りていた。
「ふぅ」と息を吐く。孤児院から出て1日も経たない間に色々な事が起こり過ぎた。知らず知らずのうちに疲れていたのかもしれない。
……ファンタジーか、俺の居た孤児院には『生き残った女の子』の本ぐらいしかなかったからな。実際のところ分からない事が多い、明日は図書室に行ってみるとしよう。『悪魔的な悪魔の本』があるかもしれない。
…今日のところは寝るとしよう。
「おやすみ」
俺は誰にそう言うでもなく呟くと共に意識を落とした。
日の光が瞼を
なんとまぁぐっすり眠ってしまったことか、昨日の時点で気づくべきだった。フカフカのベッドの魔力には抗い難い。いつの間にか用意されていた時計は10時を指している。今日がまだ春休みで良かった………⁉︎
………俺は理解してはいけない事を理解してしまったのかもしれない。…できるのだ。今までは許されなかった2度寝と言う悪魔の所業が今なら許されるのだ。
…どうする、寝てしまおうか……、少しばかり葛藤した俺はすぐに結論を出した。辞めておこう、時間は有限なのだ。俺は昨日までそれを1番理解できる場所に居たのだから。とりあえず起きて顔を洗おう、それから朝食だ。
部屋を出て洗面所へと向かい顔を洗う。この間、俺の視界には誰1人入る事が無かった。食堂に行ってみるとテーブルの上に作りたてのホットサンドが現れた。食べろという事だろうか、それならば頂くとしよう。
「いただきます」
口にするのは意外と大切だ。日本に古くからある言霊という概念に関係するらしい、孤児院の院長が言っていた。言霊とやらもファンタジーなのだろうか。ふむ、中身はハムチーズにレタス、微妙に柑橘系も感じるな。
…普通に美味かった。
「ごちそうさま」
次は彼を探したいところだが無駄だろうな。自由に空間を超えて移動できる彼を歩く事でしか移動できない俺が捕まえられる訳が無い。待つのが1番だ、となると…図書室だな。運が良ければ魔法とか魔術が使えるようになるかもしれない。
やはり図書室に向かう間も誰にも出会う事は無かった。使用人が居るんじゃなかったのか?
さて、図書室だ。入ってすぐの床に牛乳の跡が残っている数本のグラスと一枚の大きな空皿が散らかった状態で見つかった。何故これだけが散らかっているのかは分からなかったが、取り敢えずそれらは拾い集めて近くのテーブルに置いておいた。
取り敢えず本を探そう。できれば魔術の様なものに関する本が良いのだが、見つかるだろうか。
…1時間が経過した。目的の本はまだ見つかってはいない、その理由の一つにこの図書室の乱雑さにあるだろう。日本十進分類法に基づいて並べられていないのだ。9〇〇に分類される物語の次に並んでいたのが1〇〇に分類される宗教に関する本だった事もあった。
おっと、いつの間にか図書室の端まで歩いていたようだ。引き返すとしよう、俺はくるりと歩いて来た方へと振り返る…目の前に本棚があった。…どうやらこの屋敷の本棚は移動するらしい、この屋敷では常識に囚われてはいけないのだな。
せっかくだから目の前に現れた本棚を調べる事にしよう。おっと、興味深い物があるな『創作に役立つ妖精辞典』か、この時俺の脳裏をよぎったのは昨日見た妖精、スプライトだった。俺はこの本を手に取りスプライトの項目がないかパラパラと中身を流し見た。おっ、あったあった。
2つあるのか、1つ目が主にヨーロッパの民間伝承における伝説の生物で妖精の1種とされるが時には亡霊の事を指す場合もある。…これは探していたやつじゃないな、次にいこう。2つ目が近年発見された雷雲上での発光現象が妖精のようだった事から名付けられ、それらがそのまま妖精となったもの…見つけた。探していたのはこれだな、どれどれ…2022年ごろに1度、二人組のカエル系ストリーマーが投稿した『勇者の俺はスプライトを纏って地球の隕石落下の危機を救うけど兎獣人超能力者のヤンデレ幼馴染には逆らえない』って言うなろう系がバズった。
…なんの情報だよ。しかも調べてみたら最終回の5回目は幼馴染に気を取られて隕石が落ちてるじゃないか!
3度目の正直、タイトルはまだ未定だけどサーガレコード 星 久遠 @94572919
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。3度目の正直、タイトルはまだ未定だけどサーガレコードの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます