29 食材庫

コテージに残った2人がそんな会話をしているとは知らない佑と拓馬は、管理棟とその隣にある食材庫へと向かっていた。

そこではこの日の食事に必要な食材の選別と、炊飯器の貸し出しを行ってもらわなければならなかった。


「さて、いよいよキャンプが始まるわけだけど。どうよ、4日間。やってけそう?」


食材庫に向かう道すがら、拓馬はそれとなく佑に尋ねる。

中学や高校の宿泊を伴う宿泊学習や修学旅行では、いつもある程度の事情を話したうえで風呂を個別にするなどの対応をしてもらっていたらしいと聞いている。

不安そうだった2か月前のオリエンテーションと比べれば、和樹や歩とは良好な関係を築けているため、今なら大丈夫そうにも見えていた。


「やってけそうかっていうのはディベートの方?それとも班の方?」

「どっちもかな。因みに俺はディベートの不安しかないんだけどさ」

「ははっ、それは確かに、ちょっと不安かもしれないね」


拓馬が特に心配しているのは、班で4日間過ごすことの方だ。

しかし、拓馬の心配をよそに、佑は思いの外楽しそうに笑う。


「まぁ、ディベートが大変そうなのは間違いないんだけどね。ちゃんと講義受けて考えをまとめられれば大丈夫なんじゃないかなって思ってる。

班の方は全然心配してないよ。カズも歩も良い人だっていうのはこの2ヶ月で分かったしね。拓馬以外でこれだけ居心地がいい人たちも珍しいなって思うくらいだから、今は安心できてる」

「そっか、それなら良かった。オリエンテーションの時はやっぱ不安そうに見えてたからさ。佑が安心できてるならそれが一番だよ」

「うん。ありがとね」


自身も講義やディベートの不安を抱えているはずなのに、いつも自分の事を心配してくれる拓馬に、佑は有難い気持ちでいっぱいになる。

佑が一番安心することができている理由は、何よりも拓馬と同じ班でいることができるからで、きっと赤の他人と4人で過ごすならこうも穏やかな気持ちではいられなかっただろう。

しかし、とてもじゃないが気恥ずかしくてそれは言葉にはできないので、そっと心の内だけにとどめておくことにする。


「イベントも多いみたいだし、楽しめるといいな、4日間」

「うん。他の学科の人達と交流する機会もなかなかないしね」


食材庫に着き、佑はカレーを作るために必要な食材や調味料を籠の中に集めていく。

その間に拓馬は管理棟へと向かい、炊飯器の貸し出し申請をして戻ってきた。

2人で必要なものが揃っているかどうか確認を済ませると、少しだけ副菜を作るための材料も追加して、和樹と歩の待つコテージへと戻ることにした。

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