28 歩の決意
佑と拓馬が食材を取りに行っている間に、和樹と歩は使う分の食器と調理器具を洗って下準備を済ませておくことにする。
歩がスポンジで食器を洗い、終わった分から和樹が水で流していく。
「ねぇ、カズ。今日なら…教えてくれるかなぁ」
食器を洗いながら、ふと歩が呟いた。
和樹が、何を?と首を傾げて歩を見ると、何かを決意したように見上げてくる。
「決めた。俺さ、今日タイミングを見て佑に触ってみようかと思ってるんだ」
「…は?」
歩の言葉に、和樹は驚いて動きを止める。
あれだけ他人との距離に気を遣っている佑のことだ、相当な理由があるということは予想がつく。
和樹は少し考えた後、それはやめた方が良いんじゃないか?と目を伏せた。
「何で?カズは佑のことが気にならないの?」
「佑が何かを抱えてるんだってことは分かる。でも、何が起こるかわからないし、嫌がると思うんだ。それに…拓馬にも止められたし、さ」
「カズは、佑が大事なんだね?」
歩はそう言って笑う。
それは微笑ましいと思う表情なのか、それとも別の意味を持っている笑顔なのか、和樹には判断がつかなかった。
歩のその問いにはすぐには答えられず、和樹は黙って洗い終えた皿を濯ぐ。
確かに佑のことは大事な友人だ。
編入先で出逢った気の合う友人が拒否しようとしていることを、自分たちの方からわざわざする必要があるのだろうか、と、和樹は悶々と考えを巡らせる。
「俺ね、拓馬はちょっと過保護過ぎるんじゃないかと思うんだ。俺はもっと佑のことを知りたい。何であんなに人と距離を置いているのか、そろそろ教えてくれても良いと思う。まだ友達としての日は浅いかもしれないけど、それも許されないのかな?」
「佑から話すのを待ってるんじゃ駄目なのか?」
「待っていたらいつになるか分からないし、それに、何か行動を起こしたら変わるかもしれないでしょ?4日間一緒にいられる今がチャンスだと思うんだよ」
「それはそう、だと思うんだけどさ」
歩が言いたいことを頭では理解した。
でも、素直に同意することができなかった。
「俺は決めたから。止めないでね?」
「歩がそうしたいって言うなら、止められないけど」
和樹はそれだけしか返事が出来ず、ただ俯く。
蛇口から流れる水道の水の音だけが、大きな音を立てて響いていた。
佑のことを知りたいと思うのは本心だから、歩の決意も分からなくはない。
しかし…何故か胸騒ぎが拭えないのだ。
佑から拒否されてしまうような気がして…最悪の場合、嫌われてしまうような気がして。
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