26 心労
和樹がモテるという歩の情報はどうやら本当のようで、5月になった辺りからよく呼び出されているのを見かけるようになった。
相手は男女問わず、また他の3人がいる時でも声は掛けられる。
「あの、蔵田くん…ちょっといい、かな」
「あー、うん。いーよ」
基本的に和樹は自分に寄ってくる人を毛嫌いする事は無く、寧ろ見た目が冷たく見られやすいだけで誰にでも優しく接するタイプだ。
だから、用があると言われればついていくし、話があると言われればたとえ初対面の相手であっても話が終わるまで最後まで聞いている。
『来る者拒まず、去るもの追わず』
まさにその言葉がぴったりの性格だった。
しかし、たまに彼氏持ちの子が絡んできて、彼氏を含めたトラブルに巻き込まれそうになったり、実際に巻き込まれたりもしていた。
この日の和樹は女子学生から呼び出されてから数十分ほどして、疲れた様子で3人の元へと戻って来た。
「また告白?」
「んー、そう」
「付き合わないの?」
「や…初対面だったし。何か面倒くさい子だったし。そもそも接点が無くて何で好きになってくれたのか分からないから、多分俺の表面しか見てない子だと思うよ」
「お試しで付き合ったりしないの?」
「お試しした事あるけど大変だったからもうやらない。今後は好きになった子以外付き合う気は無いんだ」
歩の問いに、和樹は割と興味が無さそうに答えている。
確かに告白は多いが、他学部だったり他学年だったりすることも多く、それまで接点が無い女子学生から呼び出されていることも多い。
今回時間が掛かったのは泣かれてしまったからのようで、慰めるのに大変だったそうだ。
和樹は説明を一通り終えると、スマホの画面に目を落とした。
「じゃあカズっていつもどうやって断ってんの?」
「んー、付き合う気は無いって言ったり、気になる子がいるから、とかその辺は適当に返してる。変に期待を持たせて纏わりつかれるのは嫌だからな」
「そうなんだ?気になる子って言うのは?」
「別に、まだ編入して1ヶ月だから学科の女子と関わったことすら無いし。気になる子も今は居ないけどさ」
和樹はもう終わりにしよう、と言って溜息をついた。
説明をするのにも疲れているようで、佑と拓馬は会話を聞きながら、モテるというのも大変そうだなと感じていた。
学科キャンプはもう目前まで迫ってきているが、特に行事ともなるとそれにあやかろうとする者は現れるだろう。
当日の和樹の心労を思うと、少し不憫に思えてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます