20 手
あの後どのくらい話していただろう。
恋愛遍歴の話の後は何となく好きなものの話になって、佑と歩は甘い物好きだという共通点を見つけて盛り上がっていた。
2人で近くのスイーツの店の話に花を咲かせ始めたので、和樹も拓馬もそれを微笑ましく見守りながら、意外とこれまであまりよく知らなかった自分達の話をしていた。
しばらくすると、気が付けば話しているのは和樹と拓馬だけで、歩と佑は床の上で気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「ありゃ、2人とも寝ちゃったか。俺シャワー浴びてこようと思うけど、いい?後でカズも入んなよ」
「あぁ、分かった。ありがとう」
拓馬に返事を返して浴室に行くのを見送ると、和樹も少し休んでいようと思い横になる。
寝返りを打とうと身を捩ると、横からぎゅっと服を引っ張られる感覚があった。
「…ん?」
見ると佑の真っ直ぐ伸ばした手が和樹の服の裾をしっかりと掴んでいて、起こさないようにそっと離そうとしてもうまく離してくれない。
仕方無く身体を動かすのは諦め、じっと佑を見つめた。
このまま手を伸ばせば触れることができる。
それを起きた佑は嫌がるだろうか。
きっと、いつものようにそれとなく避けられてしまうのだろう。
「ん…」
佑の声が聞こえ、和樹は身体を固くした。
そのまま脇腹にすりすりと擦り寄って来る頭の感触を感じる。
くっついたままでまた眠ってしまう佑に、和樹は身動きが取れなくなってしまった。
男で友人のはずなのに、佑のことを可愛いと思ってしまっている自分がいて、変に心臓が大きな音で脈打って五月蝿い。
どうしていつも調子を狂わされているのだろう。
ぐるぐる思考を巡らせていると、拓馬が浴室から戻ってきた。
「お先ー!カズも入ってくる?」
「い、いや。やっぱりいい。ちょっと、動けなさそうだしな」
「ん?あれ、珍しいな?」
佑の顔を覗き込んでふふ、と笑う拓馬は、何だか少し安心しているようにも、寂しそうにも見えた。
その表情を見て、何故かズキン、と胸が痛む。
「んー、そっか。佑ももう少し…なのかな」
「もう少しって、何が?」
「いーや、こっちの話。カズがシャワー浴びないんだったら、俺らもそろそろ寝よっか」
「あ、あぁ」
佑や拓馬に対するこの気持ちは何なのだろうか。
拓馬はきっと、佑の事情を何か知っているのだろう。
だが、佑本人が自分から話そうとするまでは黙っているつもりなのだろうと思う。
電気が消え真っ暗になる中、和樹はこれからどうしたらいいのかと悶々と考えをめぐらせていた。
佑の頭が僅かに触れている場所が、ずっと熱を持っているような気がした。
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